第7話 名誉欲の成れの果て【マッド視点】
国王に引き連れられ俺たちは大広間に入る。
そこにはすでに国の高官や研究員、有力冒険者たちが談笑していた。
「本日の主役も出そろった! ただ今より研究発表会を始める!」
国王の一言と共に、会は始まり……。
順調に俺たちの引き立て役がつまらない研究成果を発表していき、俺たちの出番がとかくなると正直緊張していた。
だがそれと同時にこの場で王様直々の指名をもらったたった一つの研究所にいることに誇りを感じていた。
それにしても俺はとことん運がいい。
特に大した努力もせず、ただ部下たちに任せているだけで国王に認められるほどになり、成り上がれたのだから。
「さあ今日の大目玉! 国王指名、マッド・ギアーノらによる発表です!!」
大臣のアナウンスと共に俺たちのステージが始まろうとしていた。
「所長! 試作品2号に軽微な不具合あり!」
「時間がない! そのまま出せ! たかが一時の不具合だろう? メンテナンスする必要はない! ほら時間だ! いくぞ!」
失敗のできない大舞台だ。だからと言って小心者の部下たちが不安がってやかましいのはどうにもイラつく。
広間より一段高いステージに俺とメリッサが上がると観客の視線という視線が注がれた。
なんて気持ちいいんだ。
ここにいる全員が俺に注目し、俺の姿をその眼に焼き付けている。
俺が歴史に名を刻む瞬間を見れることをありがたく思えよ!!
「この者たちは我が研究結果を見て直々に指名したのだ。これからのこの国の繁栄に大いに役に立ってもらう所存だ。ではマッドよ。始めろ」
「仰せのままに」
王の短い紹介の後、俺たちは誇りをもって発表を進めていった。
「次は試作品2号! ボウガンタイプの魔道機械に自動追尾、自走スキルを追加した中規模兵器でございます!」
ステージ正面の扉から逆光を浴びて試作品2号が運びこまれる。
誰の支えも必要とせずにゆっくりと進む俺らの作品に観客からどよめきが起こった。
中には熱心にメモを取る者、呆けたように口をあんぐりと開けて見とれる者もいてこの試作品の注目度の高さがうかがえる。
俺はそれほどの偉業をなしたのだ。
一段声を張り上げ、さらに続ける。
「今回試作段階で魔道機械に複数の機能を追加することに成功しました! 今後兵器の分野だけでなく多くの分野で応用できる技術でございます!」
絶叫にも似たどよめきが沸き立った。
いいぞいいぞ。好きなだけ驚け、おののけ、劣等感を抱け!
どうだ長年の研究が無駄になった年寄りども! 大金を払って買うことになる冒険者、役人ども!
観客の中には俺たちをなめていた奴ら、俺たちを憎んでいる奴らもいるだろう。
そいつらにわからせてやったのだ。
──てめぇらは俺たちには敵わないってことをな。
そんなに驚いていて大丈夫か? これからが本番だぞ。
「まだ疑っている方もいるでしょう! そんな方々のために今回は中庭での実演をさせていただきます! さらにもう一つ常識を覆すような実験も行いますのでお楽しみに!!」
振り向くと、国王がうなずくのが見えた。
国王が認めた以上、この場から動こうとしない者はいない。
そんな奴はそもそもここにいないだろう。
俺たちは城の中庭に移動して実験の準備を始めた。
この国の劣等者たちの肌に違いを焼き付けてやるのだ。
「最終確認終了しました! ですが……」
「ん? どうした?」
「自動追尾機能の付属部品に劣化が見られまして……」
「気にするな! 今この瞬間俺が天才であることの証明がなされるのだ! 細かいことを気にしている場合かぁ!!」
これまで積み重ねてきた俺の人生のすべてが、この一瞬にかかっている。
もちろん失敗する気はない。
だが観客が見守る中、試作品を実演するのにはやはりすさまじいプレッシャーがあった。
震えを止めるため拳を強く握りしめていた俺にさらなる重荷がかけられる。
「さあ、マッド。お前の研究をこの最高の観客の前に見せてやるのだ」
「お任せください国王様!!」
俺は誇らしい思いで試作品2号を見上げた。
これほど用意周到に死力を尽くしたのだ。万が一にも失敗するはずがない。
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【あとがき】
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