第5話 『自動更新』の真の実力

『自動更新が完了しました。ハッキング履歴を参照し、『ハッキング』が拡張スキル『サーチ・スコープ』に変化しました』


「なんなんだこの声!?」

「あっ、アイクさん! 気づきましたか!?」


 目を開けると心配そうに駆け寄ってくるフレンの姿が映った。

 どうやら痛みで気を失って、医務室のベッドに寝かされていたらしい。

 それにしても『自動更新』ってなんだ? いや、名前の通りなんだけど更新で何が起きたんだ?


「腕を抑えながら気を失ったって聞きましたけど……その、腕は大丈夫ですか?」

「うん? なんだ、これ?」


 左腕に視線を落としてみると手首のあたりに四角いガラスがついていた。

 これが『サーチ・スコープ』っぽいな。他に代わったところはないし。

 その面には中心に描かれた円の中心でクロスするように十字が描かれていた。


 更新で追加されたもので間違いないようだ。

 今までこのようなことはなかった。急に発生したことは……ありえないな。


「……いろいろ検証してみないとな」


 試しに『サーチ・スコープ』を通して部屋を覗き込んでみる。

 するとフレンさんが映った瞬間、俺の脳内に彼女の情報が流れ込んできた。

 ハッキングなら触れられなければ得られない情報を遠隔でも得られるというものらしい。

 一見するとただの便利機能であるだけだが、いろいろいじくりまわしているうちにある事実に気づく。

 一切頭痛がしないのだ。


「これなら魔道機械のメンテもできる……!」


 加えてこの『自動更新』だ。

 さっきの謎の脳内音声を聞くに、俺のハッキング情報を参照して更新されていくようだ。

 ってことは……。


「フレンありがと!! もう行くわ!」

「え!? 大丈夫なんですか!?」

「あとでお礼するから! 何がいいか考えといて!」


 ギルドに戻るとすぐさま魔道機械をハッキングするべく依頼を受けた。

 もし、もしだ。この能力たちによってメンテするたび能力が増えていくとしたら……?

 俺……強いのでは?

 まずは実験だ。

 ギルドの掲示板から魔道機械メンテナンスの依頼をもぎ取った。


 ☆


「今回のメンテナンスはトゥール型魔装剣“ローラン”で間違いないですね?」

「ああ、よろしく頼む」


 冒険者ギルド、メンテナンススペース。

 依頼者のBランク冒険者カールさんから魔道機械を受け取り、さっそく『サーチ・スコープ』を通してハッキングしてみる。


 ──────────

 トゥール型魔装剣“ローラン”


 形状:片手剣


 搭載スキル:『攻撃力アップ(小)』

     『防御力アップ(中)』

     『威圧』


 使用者履歴、損害記録……etc

 ──────────


「読み込めた……!」

「へえ、珍しいね。君の腕、スキルを持ってるんだ」


 興味深そうな顔でカールさんが覗き込んできていたがいまは対応するどころではない。

 頭痛も違和感も何もない。

 この

 震える手でメンテナンスをしながらもう一つの機能を発動する。


『再生成』──


 かすかな駆動音とひりつくような感覚の後、頭の中に音声が響いた。


『トゥール型魔装剣“ローラン”から攻撃力アップ(小)、防御力アップ(中)、威圧を再生成しました』


「でき、た……!」

「おっ、終わったのか。ありがとな。……ん? どうした?」


 俺の腕に、ローランのスキルが複製されたってことだよな!?

 でも、おかしい。歯車病の症状としてこんな異常なスキルは現れないはずだ。

 マッドに強制的にやられたことが原因……なのか?


 原因は何にしろ俺に強くなれる可能性が見えたのだ。

 それに──


「これ、上限ないよな……? 音声でも言ってなかったしな……は、はは」

「おい、おい!! 大丈夫か!?」

「え? あ、はい! メンテは終了しました!」

「お、おう。これ代金な。ありがとよ」


 なぜか白い目で見てきたカールさんを見送り、もう一度考察に戻る。


「このスキルって……最強なんじゃ?」


 これから依頼を受けるだけで一石二鳥どころか三鳥にもなる。

 もし、スキル上限がないという仮説が正しいなら、それは無限の成長を意味する。

 機械が成長することでも異例なのにそれに際限がないと来た。努力次第で頂点に立つことができるようになったのだ。


 努力、つまりメンテナンス回数でスキルが増えるなら、研究所でやっていたメンテナンス経験からもスキルが増えるんじゃないか?

 それともこの機械腕での経験なのか調べる必要があるな。

 人間の経験は人間部分の身体に残るはずだ。

 しかし『自動更新』という名の通り今の時点ではもうスキル拡張はないかもしれない。


「とりあえず、起動できるか……?」


 内側から隅々まで調べるように左腕に意識を巡らせると手首付近にひものような感覚があった。

 そのまま引いてみる。


『自動更新が起動しました。履歴参照──。直前の履歴なし。過去のログを参照しますか?』


「よしきた!」


 どれだけ増えるんだ? 今までのメンテナンス回数なんて覚えちゃいないからどんなスキルが増えるのか……。

 体内から沸き立つような震えを抑えながら、次の音声を待つ。

 永遠にも似た時間の後──


『過去のログ、12,539件を参照、更新シークエンスに入ります』

「きた!……痛い痛い痛い痛い!!!」


 ビキビキビキビキッ!!


 ピリッとする感覚を皮切りに内側から爆発するような激痛に襲われる。

 どうやら更新する容量やログの大きさによって痛みが出てくるようだ。

 痛みでもうろうとする意識の中、フレンが何かを叫びながら走り寄ってくるのが見えた。

 だが声を出す余裕はない。


 また彼女には迷惑をかけてしまったな……。


 更新完了を告げる音声が脳内に鳴り響く中俺は意識を失った。


 ────────────────────────────────────

 個体名:アイク・レヴィナス

(中略)

 歯車病特殊個体(左腕~???)

 スキル:『サーチ・スコープ』『再生成』

   『攻撃力アップ(大)』『防御力アップ(大)』『威圧』

   『過去のログはエラーにより拡張ポイント12,530ポイントに変換されました』

 ────────────────────────────────────



──────────────────────────────────────

【あとがき】

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