第4話 小さな故障から大きな堕落へ【マッド視点】
王城へ向かう途中、偶然出会った参加者たちに何度も声をかけられる。
彼らから発せられる言葉から俺たちが国王に認められた特別な存在だということがひしひしと伝わってくる。
俺たちは最上位の研究員なのだ。いつも通り、研究結果を発表するだけだ。
アイクとかいうお荷物も減った分より完璧なメンバーになっているな。
あいつにイラつくことがない分、いつも以上に完璧に近いはずだ。
はずだったのだ──。
「実験器具、成果物、破損はないか?」
「王城についたらメンテナンスが必要ですね」
よく観察すると、持ってきた魔道機械のあちこちにさびや歯車のずれがあるのが見えた。
ガタン!! ゴトゴトゴトゴト……
王室の高級な馬車に乗ってはいるのだが一流の馬車をもってしても防げない揺れはある。
アレンならいちいち直していただろうが、俺らの完成された成果物にその必要はない。
「俺らの成果物は軽微なずれで壊れるものではない! 王城についたらすぐ国王に謁見しそのまま発表だ! メンテなんかに使う時間はない!」
我ながら的確な指示を出しているだろう? これが所長なのだ。
自画自賛をしていると、メリッサが腕を絡ませ、体を密着させてきた。
「さすがねマッド。ほれぼれしちゃう」
「ふんっ、だろう? これが1流の所長というものさ」
これからはメリッサだけじゃなくいろいろな女が俺の元によって行くことになるのだ。
そのことを考えているだけで鼻の下が伸びそうになる。
しかしそんな浮かれた気分もすぐに途切れてしまった。
「なあ、抱き着いてくれるのはうれしいんだが、何か俺に刺さっているぞ」
「え? ああ、ギアが一つ外れかけているのね。大丈夫よこれくらい。あとで治せばいいわ」
彼女も俺も機械病にかかっている。というよりも魔道機械に長く触れている人間はことごとくこの病気にかかっているといってもいい。
だからこそ機械部分の異変には敏感だ。
メリッサも俺もメンテナンスができないわけじゃない。ただずっとアイクにまかせていて、いなくなった後でもやろうと思っていないだけだ。
1流の研究者が自分のメンテナンスもできないなどお笑いものだからな。
やっていないだけでできないはずがないのだ。
「おかしいな……。あいつがいなくなってから故障多くないか?」
もしかしてアイクが何か仕掛けていたのか?
今までと違う点と言えばアイクがいないことだ。
ということは原因はそこにあることに間違いない。
どうせメンテナンスしていた時に仕掛けたんだ! 1から10までお荷物じゃねえか! 自分のせいで出禁にされたくせに逆恨みしやがって!!
「おい! 今すぐアイクを探し出せ! あいつ、俺らに何かしかけやがった! ここ最近の故障は全部あいつのせいだ!」
「それはメンテナンス不足では……」
「そんなわけあるかぁ! あんなただ見るだけの作業が重要なわけあるか!! ちょうどいい。お前! そうだ今俺に反抗した奴だ。アイクを探し出してくるまで戻ってくんな! お前の代わりなんていくらでもいるんだからよぉ!!」
まったく話の通じない部下がいるとは……。俺のプライドがゆるさん。
とにかく今は馬鹿にかまっている暇はない。
これから国王に謁見するのだ。研究員一同気を引き締めなければ。
国中の実力者が集まる前で失態などしたら俺たちの名誉にかかわるだけでなく指名した国王、ひいては国の威信にかかわってしまう。
「他のものは気を抜くなよ! 失敗は許されない!! いいな!!」
俺たちはわずかな不安と緊張を抱えて、王城の中へと進んでいった。
そして永遠にも似た時間の後、ようやく謁見の間にたどり着く。
「おお、マッド・ギアーノといったか。待って居ったぞ」
「今日は栄誉ある機会を賜りうれしく思います」
「期待しておるぞ」
ここから、ナンバーワンの研究所としての人生が始まるかと思うと目にこみあげてくるものがある。
だが、この数時間後にあんなことになるとは誰も予想できていなかった。
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【あとがき】
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