第3話 軽蔑に満ちた傲慢【マッド視点】

 俺の名はマッド。マッド・ギアーノ。

 ギアーノ魔道研究所という超一流の研究所の所長をしている。

 ちょうど最近長年俺ら研究員の足を引っ張ってきたお荷物を出禁にしてやったところだ。

 今まで何度も出禁にしようとしたが何かにつけて機会がなくずっと俺らが我慢してやっていたがもはやそれも限界だった。


 まあ、面倒な仕事の押し付け先がいなくなることは少し不便だが、大丈夫だろう。

 どうしてもアイクを出禁にする必要があったのだ。

 というのも我が研究所は国王の前で研究の成果を発表しなければならなくなったのだ。

 国王の前に無能を連れていくなど俺たちの面子に関わる。


「これでやっと堂々と発表に行けますねアイクさん」

「ああそうだなメリッサ。ようやく我々の研究が認められたんだ」


 国王の前での研究発表会の参加者に選ばれることはこの国で最も名誉あることだった。

 王都の役人だけでなく、普段は国中に散らばっている凄腕の冒険者や研究員たちが出席するこの会は4年に1度開かれる。発表するのは国王に選ばれた研究所のみ。

 この会で発表をした研究所はこれから4年間莫大な予算が与えられ国の代表機関として様々な研究を進めることになる。

 ようは国1番の実力者として認められるわけだ。


 思わず顔がにやける。

 俺にはいま国からの金と王国1の研究者という名誉があるのだ。

 発表から帰る道中からいろんな美女がやってきてウハウハかもしれない。


「王国1の研究所に成果を出さないお荷物がいてはいけないからな。ちょうどよかったぜ」

「間に合ってよかったですね。あんな奴とんだ恥さらしですから。王様の前に連れ出すなどとんでもない」


 もちろんアイクにはこのことは伝えていない。

 なにがなんでもこの研究所に残ろうとするだろうから面倒だしな。

 どうせろくな成果もないだろう。出禁になって当然だ。

 ただ魔道機械をメンテしていただけのやつがこの研究所にいられると思うなよ。


 研究所のドアがノックされ、荷物が運び入れられる。

 そう、今日は待ちに待った研究発表の日なのだ。

 他の研究員や冒険者も続々と到着しているらしい。


「所長、実験材料が届きました!」

「すぐに準備に取り掛かれ! 世紀の大実験の始まりだ!」


 っとその前に。

 興奮で震える手で届いた木箱を陶磁器を扱うかのように慎重に開封した。


 中に入っていたのは胎児のように丸まった少女。

 死んではいない。眠ったまま連れてこられただけだ。


 アイクの時は十分に記録をとれなかったからな。つくづく使えない奴だ。

 さあ、もう一度人工的に歯車病を発症させるのだ。


「状態は良好だな」

「それはもちろん。“ヒプノス”で眠らせてきていますから」


 今回の実験台はシルヴィア・オルレアンというどこかの田舎の娘だ。

 魔道機械に対する適応力が高く、耐性もあるため実験台に選ばれた。

 見た目も、胸もケツもよく育った良い女だ。

 均整の取れた体つきで白銀の髪と左右で少しだけ色の違う赤い瞳も非常に美しい。

 実験台でなければ速攻で俺の女にしていたが、まあこんな美女をいじくりまわせる機会もそうそうないだろう。


 眠ったままの彼女をもう一度木箱に戻し、俺たちギアーノ魔道研究所は一世一代の晴れ舞台である王城に向かった。

 発表することになった以上、他の研究者、冒険者の前で恥をさらすことは決して許されない。

 だけど、アレンのいなくなった新体制の俺らなら絶対に大丈夫だ!

 あんなお荷物がいなくなるだけでどれだけ晴れ晴れとしていることか!

 出禁にして正解だったぜ。俺の判断に間違いはない!


 国の有力者、実力者たちの前で成果を発表できるなんて幸運はもう二度とないだろう。

 だから絶対に失敗してはいけない。恥をかいてはいけない。

 実験の準備は完璧に整えた。


 俺たちの歯車病のメンテナンスは何か月もしていないが今更する必要はない。


 最高の舞台で今までの俺の人生がようやく報われようとしていた。


 ──はずだった。


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【あとがき】

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