第6話 勉強とご褒美

「…起きてこないので、今日はこちらの世界の勉強をしましょう」

「うん。プリンは逃げないのに…」

 苦笑しつつ、モニクと魔法についての座学を始めた。

 魔法書をいくつか買っておいて良かったと思う。

「どれを読みました?」

「光と…どれかのさわりだけ」

 浄化、治癒、着火、飲水、微風、目潰しは覚えた事をメモ帳片手に話す。

 しかし、使う時に思い浮かばないと駄目ですよ、と言われてしまった。

 そうなると確実に思い浮かぶのは、最初の二つだけだ。日本にある物なら直ぐに言えるのだが。

「あ、そうだ。ドライヤーみたいな魔法ってどの分類?」

「ああ…あの髪を乾かす言霊ですね」

「そうそう」

 以前、森を案内してもらっている時に土砂降りにあってしまい、家に戻ってから<ドライヤー>を使ったら非常に驚かれた。

「あれは風と火の気配がしました。異界の道具と聞きましたが、どのような機構です?」

「えっと…筒から温められた風が勢いよく出てくる。それで髪を乾かすの」

 電気やヒーター云々は端折る。詳しく聞かれても答えられない。

「では、そのままですね。貴女はこちらの世界の具象より、あちらの世界のことをイメージしたほうが良さそうです」

 魔法はイメージが全てだとモニクは言う。

 慣れたものを思い浮かべたほうが当然、時間もかからず具現しやすいし魔力消費も少ないと教えてくれた。

「なるほどね~。じゃあ…ゲームとかラノベの呪文のほうがいいのか…」

 しかし別の神様の世界に変な文化を持ち込まないほうがいいだろう。広まっても困る。

 ゲームの呪文は諦めて、ラノベでよく見る言葉にした。

「<ライト>」

 手のひらを上にして唱えれば、バレーボールサイズの灯りが浮かび上がる。

 蘭の”日本の”部屋の中にあるライトそのままだ。

「魔力に歪みもありません。安定していますね。…これもあちらにあるものですか?」

「うん。動力源は魔力ではないけど」

 コンセントもないからこちらのほうが使い勝手はよいかも知れない。モニクは感心して灯りを見ている。

 王都のように照明も魔石を使用している場所ならいざ知らず、地方にいる人たちは熱のない明かりを想像できずに苦戦するらしい。火の明かりを想像してしまい、光魔法ではなく火魔法で表現するため熱もあり揺らめくのだとか。

「これに、熱を加えることは可能ですか?」

「というと…<ヒーター>かな」

 <ライト>で具現した光るボールは昼光色からややオレンジ色になると、部屋の中にじんわりと温かさが広がってきた。ちなみにハロゲンヒーターを思い浮かべた。

「素晴らしいです」

「いや…ははは…」

 モニクに褒められて照れてしまう。31歳ともなると会社でも中堅どころで、褒められるより粗を見つけられて突かれ、しっかりしろよーと言われることが多い。こんな風に褒められるのは新人の頃以来だ。

「武器がない世界との事ですからナイフなどの使い方は生活系の必要最低限にして、やはり魔法を…魔力を増やすことと、イメージトレーニングをする事にしましょう」

「魔力って増やせるの?」

 よくあるのは極限まで使って倒れて寝たら増えてる、だが。

「器の上限はありますが…水瓶を想像して下さい」

「うん」

「瓶の大きさは人により生まれた時に決まっています。ですが、最初からその瓶全てに水は注げません」

「どうして?」

「赤子が魔力たっぷりだと、泣いただけで魔力が暴走してしまうからです」

 生まれ落ちる時に母体が危険ですからね、とも言う。ランは納得した。

「最初は木の蓋が中へ落ちている状態でしょうか。成長とともに少しずつその蓋が上がってきます」

 魔力よりも蓋のほうが強いらしい。ということは、女神様とやらがそうしたのだろうか。

 そう聞いてみると、モニクは頷いた。

「大昔は母子ともに危険な状態が多く、出産は命がけとまで言われてましたからね」

「出生率を上げるために仕組みを後から作ったのかぁ」

 世界の理が最初から完璧に出来ているわけではないようだ。そう考えると、女神の存在が身近に感じられる。

「それもありますが、世界の人が全て魔力たっぷりで魔法が使えると…どうなるか分かりますか?」

 これもライトノベルで良くある題材だ。

 過去に魔法都市が栄えて滅びた、主人公がその末裔、チート魔道具を手に入れた、など。

「魔法に頼った文明が栄えるけど、戦争が起きたり、誰かが全てを手に入れようとしたりして…魔法で滅びる」

「正解です。…こういった思考は上流階級の一部の知識か、研究者、そしてその話を聞いた人限定ですので、一般的とは思わないで下さい」

 本当に過去に滅びた文明があるそうだ。ランは神妙に頷いた。

「そして水瓶の蓋を押し上げる方法ですが、瞑想が一番効果的です」

 意外と穏やかな方法にランは聞き返す。

「…そうなの?」

「どうしてですか?」

 魔力切れを起こすまで魔法を使って昏倒すると、器が大きくなる的な話をするとモニクは厳しい顔をした。

「そんな事をしても器は大きくなりませんね。水瓶の材質を思い浮かべて下さい」

 家のすぐ外にある大きな雨水を貯める瓶を思い浮かべる。

「…焼き物だね」

「そうです。魔法文明では瓶の大きさを変えようと研究した方がいたそうですが、そもそも神が作った理です。人などが書き換えられるはずもない」

 考えてみれば確かにそうだ。女神が材質を変えなければ、絶対に大きくならない。

(…ってか…)

 少し怖い想像をしてしまった。

「無理にやると?」

「…魔力は…水は、人の活動に必ず必要なものです。ヒビが入れば溜めておくことが出来ない」

「なるほど、死ぬってことか」

「はい」

 過去に栄えた幾つもの文明には必ず一人、その手の人体実験を行った者がいるという。

 大抵は史実に悪者として描かれているそうだ。

「ですから、間違っても魔力は使いすぎないように」

 そう言われても上限も下限も分からない。

「切れそうになったら分かる?」

「分かりますよ。体力が切れた時の現象とは違いますが、目眩・頭痛がします。そして、音が鳴りますね」

「音??」

「頭の中で鈴のなるような警鐘音が鳴るのです。これも女神様が作った理です」

 魔法文明下の戦争では、沢山の人が無茶をして魔力の器を壊し亡くなったそうだ。

「良かった。分かるなら無理しない」

「ええ、そうして下さい。異界人の勇者、聖女はどうも無理をする方が多いようなので」

 じっとモニクはランを見る。ちょっと思い当たることがあってランは苦笑した。

 会社の中でも特に年配にその傾向は特に強かったからだ。マンパワーなんて、少子化社会になんて古臭いことを言うんだと思ったこともある。3,40代はそんな上と、少子化社会の下に挟まれて、通訳をする場面も多々あった。

「…日本人は我慢強いっていうか、限界を超えて何かをしようとか、根性論的な事を言う人が多いかも」

「それも異界の人のために、ですよ。…だから有事の際は異界人を呼ぶのでしょうねぇ」

 モニクはため息をついた。

「まぁ、異世界へ行くような題材の小説や漫画を読む人なら、喜んでそうするよ」

「そうなのですか?」

「うん。それに呼ばれる人の条件が大抵は…死ぬ間際の人とか、人生諦めた人とかだから」

 少なくともランが呼んだ本はそうだった。

 最近はある日突然、という異世界トリップもあるが。

「…では、そういう方を女神が選んでいるんですね」

「というか、地球の神様もいるだろうから…きっとやり取りしてるんじゃない?」

 勝手に搾取したら怒られるだろうと思う。

「だといいですが。ランは、どのような状態でしたか」

「…通勤中、突然」

 駅へ向かう歩道を歩いていて、ショートカットしようと裏道に入った所だった。

 いつも見る大きな桜の木の木陰に入ったら、もうこちらだった。

 よくある白い世界、神様にチート能力を授かる場面もなかった。

「それは攫われたというんです。女神様は何をお考えか!」

 モニクが珍しくプリプリしている。同じ妙齢の女性だし、思うところがあるのだろう。

「どうなんだろうねぇ。スキルも微妙だし、聖女じゃないことは確定だけど」

「……」

 モニクは思う。

(彼女は自分が、”出遅れている”と感じている。でも全くそうではない)

 魔法もサクサク使えるし、教えたことの吸収もやたらと早いし、教えなくても見て想像して使い方を考えているのには驚きだ。

 異界人はどうしてこんなに勤勉で素直なのか、とも思ったりする。

(きっとこれからランがなし得る事が、女神様が期待した事なのでしょうけど)

 下手にプレッシャーと責任を、この世界の都合で押し付けるのは良くない。

 その事もあって、モニクは少々女神に対して怒っていた。

「ランは、この世界で不自由なく、普通に過ごせるのが目標ですよ」

「そうだねぇ。早い所、モニクたちの手を煩わせないようにしないと」

「…それ、本気で言ってます?」

 少なくとも生活にはもう不自由しない程度の物事は教えているのだ。

 彼女自身の家が町にあれば、一生そこで裕福に暮らせるお金もある。

「言ってるよ〜。町でさ、3人で食堂経営とか、よくない?」

「!」

 モニクは目を見開く。

 ランの人生設計には、いつの間にか自分たちも盛り込まれているらしい。

(本当に、異界人は…いえ、ランという人は…)

 非現実的な事を言っているようには全く見えない。ナチュラルに、本気で考えているようだ。

「ジゼルの料理の腕もいいし、私のレシピもあるし、けっこう繁盛すると思うんだよね。それに、モニクの薬草やハーブティーにポーションも凄く売れるよ」

 この際、姿なんて関係ないと思うんだけどねーとランは笑う。

 その柔らかな笑顔に、モニクは賭けることにした。

「…まずは、物件を探さないといけませんよ」

「そうだね!独り歩き出来るようになったら、見てくる」

 近くはないが、周囲に3つの町があるとランは教えてもらっている。

「いえ、近くまできちんと護衛しますよ。ランだけでは心配です」

「…そうだよねぇ。魔物まだ見たことないけど、動物だけでビビるし…」

 森で猪に遭遇した時は、かなり焦った。その時はモニクが獣の嫌う粉を猪に投げつけ、退散してくれたから良いものの自分だけで冷静に対処出来るか怪しい。

「そうです。冷静な心!全てはここからですよ」

「まずは慣れか…」

「ええ。じゃあ早速瞑想を始めましょうか。瞑想に慣れてくると、戦闘時も心を落ち着かせられる呼吸法を身につけられます」

 自身を鼓舞させる時には体が熱くなってもよいが、大抵は冷静さが必要になる。

「分かった!じゃあ…えーと、座禅?」

「なんです?それは」

 モニクに教えようとしたが、そもそも自分が出来ない。彼女の足の形も違う。

 結局、日本にもある、あぐらをかいて瞑想を教えてもらうこととなった。


◇◇◇


「プリン!!!」

 お昼を食堂で頂いていると、ジゼルが血相を抱えてダイニングに飛び込んできた。

「まだ作っていませんよ。おはようございます、ジゼル」

「おっおはよう!!!」

「寝起きで食べれる?」

 目の前にはきのこスープとパンだ。今日はハムも出してある。

「食べれる、食べちゃうよ!!」

 起きたばかりだというのにとても元気だ。ジゼルは席についてモニクが淹れてくれたお茶を一気飲みする。

「ぷはぁ!美味い〜」

「…一気飲みするものじゃないのですが」

 モニクは渋い顔だ。なにせ茶葉はランが王都で買ってきたお高い物を使っている。

「これ、紅茶?果物の匂いがする」

 ジゼルが鼻をスンスン動かしながら言う。

「うん、リンゴが入っている紅茶だよ。他にも、マスカットとか、ブルーベリーとかある」

 一通り、大量に買ってある。というか、量り売りの最低限の量が多いのだ。

 上客だと思われて、薦められるままに買ったランも悪いのだが。

「へぇぇ…香りだけでワクワクするってすごい」

「うん。私はホッとするかな」

 帰宅すると飲んでいたから、ホッとする香りなのかもしれない。

「ミルクも合いますよ」

「エッ!じゃあもう一杯!」

 どこかで聞いたような言葉にランは笑う。

 昼食を食べ終わると、早速プリン作りを開始した。

「卵と砂糖とミルクだけ?」

 テーブルの上には、材料とボウルにザル、泡立て器、そして器だけだ。

「そう。あ、あとこれ」

 バニラを取り出すと、ジゼルだけではなくモニクの鼻もヒクついた。

「とても良い香りです。甘い」

「あっまぁ〜!!これ、クッキーにも入ってた?」

「うん。高級店で買ったやつだね。アレに入ってる」

 他のドーナツなどの庶民派お菓子には入っていない。こちらでも高級品なのだ。

「これを?どうやるの?」

「牛乳に入れる」

 バニラの棒に切り込みを入れて鍋に入れたミルクに入れる。

 ボウルに卵を割り入れ、ジゼルに泡立てないように混ぜてもらった。

「砂糖は?」

「ミルクに入れる」

 ランは牛乳と言っているのだが、耳に入る頃にはミルクと変換されている。

 こういう現象は多々あって、変換様々と思っていた。

「卵オッケー?」

「混ざったよー」

 ミルクの入った鍋を鍋つかみで持ち、卵の入ったボウルに少しずつ注いでいく。

 その間、ジゼルにゆっくりと混ぜてもらった。

「うわうわ、これだけでもいい匂い」

「うん。ミルクセーキだね。その場合は卵黄だけかな」

 冷やすと美味しい飲み物になる、というとジゼルは目を輝かせた。

「これは、砂糖でないと駄目ですか?」

「蜂蜜でもいいよ。果物は駄目。酸が入ってるからミルクが分離する」

「ああ、なるほど」

 薬師だけあってその現象も見たことがあるようだ。滋養系の薬には、ミルクを使ったものもある。

「この次は?」

「ザルで濾しながら、ゆっくり器に入れるよ」

 今日はボウル型の器が3つだ。プリン型も収納にあるが、ガラス製品で一般的でない。

 食堂でやるなら大きな器で作って、小さな器にすくって提供するほうがいいだろう。

「固まらない?」

「まだ固まらないよ。固めるのは、これから」

 別の大きな鍋に、お湯を沸かしてある。実家で使っていた蒸し器のような物を探したがなかったので、底の平たくて高さのある、なるべく大きな鍋を探した。

 ランはプリンも好きだが、茶碗蒸しも大好物なのだ。王都の街で鰹節を探しきれなかったので、そのうち見つけて作りたいと思っている。

「じゃあ、器を鍋に入れよう」

「下が浸かる程度なんだ」

「蒸すからね」

 ガーゼのふきんをかけて蓋をする。

 コンロは王都だと魔石を使った魔道具が普及しているが、地方はまだまだ竈だ。

 ふきんが燃えないように気をつけないといけない。

「これでどれくらい?」

 ジゼルが砂時計をひっくり返して聞いてくる。感覚的に落ちるまでに5分といったところか。

「…分からない。様子を見ながらかなぁ」

 日本のコンロに道具、そして鶏卵ならだいたいの時間を覚えているが、こちらの鶏卵は大きいし固まりが早い。気持ち早めにあげたほうがいいかもしれない。

「最初強火で、その砂時計が5分の1過ぎたら、弱火にして…砂時計2回くらいかな」

 火の調整は魔法使いだけあってジゼルが大の得意だ。

 普通は薪を調整するが、精霊にお願いして弱火にする。

 砂時計1回過ぎてから、串をさしてみると柔らかいが液が出てこない。思ったよりも卵の固まりが早かった。

「あ、もう火からおろしていいかも」

 慌てて怪力のジゼルに鍋ごと下ろしてもらうと、予熱で火を通しつつ、カラメルを作る。

「砂糖焦げてる!!!」

「大丈夫大丈夫」

 ジゼルが慌てているが、しっかりと手順は見てくれている。

 横でモニクがメモをしていた。

「ここでお湯を入れて、混ぜる。一気に入れると跳ねるから少しずつねー」

「お湯は、プリンを蒸した方からか…」

 こちらには電気ポットも電子レンジもない。きちんと考えて作らないと後でアッと思うことがある。

「混ざったら、カラメル完成!」

「カラメル…」

「砂糖が焦げたもの、ですよね」

「うん、そう!それをカラメルって言うんだよ。濃さは好みかな」

 ランの好みはミディアムだ。焦がしすぎると苦いと思ってしまう。

「この次は?」

「プリンを…予熱で砂時計一回過ぎたらもういいかな」

 蓋を開けて確認すると、黄身が濃い卵なのでとても美味しそうに見える。

 触ってみると程よい弾力が伝わってきた。

「温かい内に食べるなら、今すぐ食べる。冷たくしても美味しいよ」

 今は5月くらいだからギリギリ暖かくても良いと思う。

 そのまま食べてもいいが、日の通り加減をみたかったのでお玉ですくって小さな器に入れてカラメルを上からかけた。

「うはぁぁぁ!!!なにコレ!!!」

 それだけでジゼルのテンションが上っていった。頑張って涎が垂れないように口を抑えている。

「はい、どうぞ。あつあつプリンですよ〜」

 まだ湯気が立ち上っている。土鍋があればもっと簡単に出来るのに、と思う。

「いただきます!」

「いただきます」

 2人はランのように手を合わせてスプーンを手にとり、食べ始めた。

 その様子を見てランもプリンにスプーンを入れる。

「ふむ、火の通りは…ちょっとやりすぎたかな。すぐ固くなるんだな〜」

 ならばミルクを少し多めにしたほうがいいかもしれない。

 そんな事を思いつつ静かな二人を見ると、目を閉じてうっとりとしていた。

(良かった。口にあったみたい)

「これは…とても美味しいです…」

「美味しいなんてもんじゃないよ!!」

「まぁまぁ、落ち着いて…」

 うまいうまいといいながら食べて、結局、器二つ分は食べてしまった。

 あと一つは保冷庫に入れておく。夕食後の楽しみだ。

「これは…砂糖代が高く付きそうですね」

「本体は蜂蜜で、カラメルは砂糖かな」

 この世界の人は甘味に慣れていない。であれば、プリン自体は蜂蜜を使って甘さ控えめでもいいかもしれない。

「これ、他にアレンジある??あるよね!?」

 さすがは料理好きなジゼルだ。可能性を見出したらしい。

「あるよー。紅茶混ぜたり、緑茶混ぜたり、芋を混ぜたり、生クリーム混ぜるとトロトロになるし…って近いよ!」

 正面から鼻息荒いジゼルが身を乗り出している。モニクが苦笑して彼女を引っ張った。

「プリン・ア・ラ・モードって言って、周囲を果物で飾って生クリームを固くたてて絞った物を飾った豪華なプリンもあるよ」

 絵を描いてみせると、王侯貴族の食べ物だね!!とジゼルが言う。

「こんなものが、普通にあるのです?」

「ある。もっと凝った美味しいものも、たくさんある」

 製菓店に勤めてはいないが、それなりにお菓子は作れる。

 食いしん坊なので、たくさん食べたい時は自分で作ったほうがお財布に優しいからだ。

「うはぁ!ニホン行きたい!!」

「これ!」

 モニクがジゼルをつつく。

 ランが帰れないのに行きたいと言うのは何事か。

「…大丈夫だよ。そういうのをたくさん食べたから、太ってたしねぇ」

 きっと自分の行く末は、成人病だったと思う。結婚の”け”の字も見えてなかったし、独身街道まっしぐらだっただろう。

「これくらいでしたら…森を歩けば大丈夫です」

「うん、今日はもう食べちゃったし夜も食べるから…明日からまたヨロシク!」

 3人は笑いながら、明日の森歩きを決めたのだった。

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