第27話:治療と復讐と狂気

転移18日目:山本光司(ミーツ)視点


「ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール……

 なかなか食欲がでないだろうが、無理矢理にでも食べなさい。

 どうしても食べられないのなら、これを飲みなさい」


 助けた村人の中には、心が死んでしまった女子供も多かった。

 何とか正気を保っている者も、暗い目をして復讐を誓っている。

 そんな人々の中に立たされているバカ天使は怯え震えている。


「幽霊に霊魂や幽体を滅し滅ぼす魔術を放ったらどうなる?

 お前に放ったらどうなるのかな?

 俺を殺しただけでなく、ここにいる人々の心を踏みにじったお前を、俺が見逃してやらなければいけない義理があるのか?」


 これは脅しの言葉ではない、本気の言葉だった。

 喉まで浄化、ピュアリフィケイションの呪文が出かかっていた。

 本当にどうなるのだろうか?

 

 ピュアリフィケイションで浄化ができなくても、ピュアリフィケイション・ファイアやピュアリフィケイション・ファイア・ストームの呪文なら滅ぼせるか?

 バカ天使の事を考えるのは後でもいい、先に村人の事だ。


「村に帰りたいのなら送ってやる。

 村に戻るのが嫌なら、好きな所まで送ってやろう。

 オースティン伯爵軍から奪った物資はお前達に分け与えてやる」


「大魔術師様、俺に魔術を教えてください!

 連中に復讐がしたいのです!」


 地獄を見た村人の魂の叫びを聞かされたバカ天使は、独りよがりの正義感を否定され真っ青になって震えている。

 ここで何か言ったら躊躇うことなく浄化を試してやったのだが、残念だ。


「お前が直接復讐したいと思う気持ちは分かる。

 だがそれでは時間がかかってしまう。

 それを待ってやることはできない。

 連中に思い知らせるには、今直ぐ復讐しなければいけないのだ。

 心配するな、逃げた連中も俺が殺した奴らの家族も捕らえて来てやる」


「俺達に連中を渡してくださるのですか?!」


「リアルトに大岩の雨を降らせてやれば簡単にすむのだが、それでは連中に踏みにじられたお前達の怒りの行き場所が無くなる。

 神も天使もいないと考えて、お前達が同じ様な悪事を働いた時、罰を与えられなくなってしまうからな」


 俺の追撃を受けて、バカ天使が棒を飲んだように背筋を伸ばす。

 身勝手で無能な神と天使など滅びればいいのだ。


「我々に復讐の機会を与えてくださるのですか?!」


「ああ、与えてやる、十分に与えてやる。

 だが、直接お前達を傷つけた者とその家族だけだ!

 自分達が理不尽な目に会わされたからと言って、何の関係のない者を傷つける事は絶対に許さん!

 もしそのような事をしたら、俺が地の果てまで追って罰を与える」


「そんな事は絶対にしません!

 大魔術師様が正当な復讐をさせてくださるのなら、他人に当たったりはしません。

 そんな事をしたら、今度は我々が復讐されてしまいます」


「俺は信じないぞ!

 お前が本当に全知全能なら、俺達が襲われる前に助けてくれたはずだ!」


「誰が全知全能などと恥ずかしい事を口にした?

 そんな力があれば、この世に1つの悪事も起こらない。

 ささいな盗みやケンカすら起こさせない。

 そん夢幻のような力がないから、この世には理不尽があふれているのだ」


「だって、神官様が神様や天使様がいると言っていた!」


「神官は言ったのだろうが、俺は言っていない。

 全知全能の神がいるのなら、信者を試す試練など与えない。

 全知全能ならば、瞬く間に信者を聖人に進化させてくれる。

 そんな力がなく、信徒からお布施と称する収奪を行うために、神を騙るのだ」


「そんな、俺もみんなも騙されていたのか?」


「そうだ、働きもせずに豊かな生活をしたい奴らに騙されていたのだ。

 そもそも神がいるのなら、このような状況になっていない。

 自分達の嘘が明らかにならないように、不幸を神の試練を言って誤魔化すのだ」


「くそ、くそ、くそ、くそ!」


「自分や大切なモノを護りたいのなら、力をつけろ。

 今回の件も他人に八つ当たりする事は絶対に許さない。

 俺がそんな事を言って強制させられるのは、力があるからだ。

 力がなければお前達を助けられないし、このように強制もできない」


「俺を弟子にしてくれ!

 俺に力を与えてくれ!」


「弟子にして欲しいと言うのなら、絶対服従を誓ってもらう。

 俺より強くなるまでは、俺のやり方に従ってもらう。

 それでも良いのなら、弟子にしてやる」


「お願いします」


 売り言葉に買い言葉だった。

 バカ天使が俺を激怒させてしまったから、冷静な判断ができなくなっていた。


 1日でも早く引き籠りたいのに、寡婦や孤児に続いて弟子まで養わなければいけないなんて、怒りは人をバカにしてしまう典型だった。


 そう思ったのは後日の事で、その時は興奮のあまり正しいと思っていた。

 助けた村人達を残してオースティン伯爵領の領都リアルトに急いだ。


「お前達悪逆非道なオースティン伯爵軍に天誅を下す!

 何の罪もない村を襲い家財奪い、女子供関係なく輪姦して火を放った。

 そのようなケダモノに貴族や騎士に対する礼は不要だ。

 既に略奪と輪姦を行った当主は焼き殺した。

 後は村人と同じように、大勢の人々の前で妻子を輪姦するだけだ。

 逃げられると思うなよ、城門は全て炎で通れなくしてやる。

 永遠の地獄の業火、エターニティ・ヘル・ファイア!」


 介護飲料をがぶ飲みして魔力回復呪文を唱え、俺が解除の呪文を唱えなければ永遠に消えない炎で城門を包んだ。

 これで直接城壁を降りなければ誰も逃げだせない。


 本当は城壁全てを炎で包みたかったのだが、流石に不可能だった。

 それに、そんな魔力があれば犯人家族の誘拐に使う。


 やり過ぎだと思う気持ちが全くないわけではない。

 だが、股間から血を流して息絶えている幼女を思い出すたびに、怒りの激情を抑える事ができなかった。


 まずは略奪暴行が明らかな騎士家の家族をさらった。

 1度に何人もさらえないし、背中に気絶させたネイを背負っている。

 1度に1人、娘か妻をさらって村人の所に運ぶ。


 どのような復讐がされるかの確認はしない。

 卑怯で臆病な俺は、そんな怖い事ができない。

 自分の行き過ぎた復讐の結果を見られるほどの覚悟はない。


 家族全員をさらった騎士の館から、収納できる財産を全て奪う。

 その上で、要塞都市リアルトの何処からでも見える高さから大岩を降らす。

 リアルとの何処に隠れていても、全身で感じるほどの衝撃と轟音を響かせる。


 1件の騎士家の始末が終わるのに、2時間はかかった。

 寝る事もなく、ひたすら誘拐と略奪と破壊を繰り返す。

 心身の疲労と引き換えに、リアルト市民を恐怖で震え上がらせてやった。

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