第13話:ギルドマスターと門番

転移7日目:山本光司(ミーツ)視点


 冒険者ギルドで大暴れした俺は、警備隊本部に3日間も軟禁された。

 武器や装備を取り上げられたり、牢屋に入れられたりはしなかった。

 生き残ったギルド職員が、俺を恐れて正直に証言したからだろう。


 軟禁されていた3日間何もしなかったわけではない。

 1番時間を使ったのはネイに魔術を教える事だった。

 次に時間を使ったのは解体の練習だった。


 父の鶏肉店を手伝っていたから動物解体のスキルを与えるただと?

 実際やってみて、本当にやった事のない兎や猪の解体ができてしまった。

 そのお陰で奉天市場を使わなくても食材が確保できるようになった。


「不自由をお掛けして申し訳ありませんでした。

 ようやく今回の件にかかわっていた者の拘束が終わりました。

 これで貴方方を危険な目に会わせる事はありません」


 貴公子然とした青年がドアを開けてやってきたかと思ったらいきなり詫びてきた。

 ソファーに並んで座り、亜空間魔術を練習していたネイの手に力が加わる。

 未だに俺のどこかをつかんでいないと安心できないようだ。


「光司様、この男が冒険者ギルドのマスターです」


 俺がネイと悠然と幽閉されていた理由。

 それはバカ天使を使って情報収集をしていたからだ。

 この都市の権力者争いが、少なくとも俺達を殺さない方針だと知っていた。


「この都市は腐っていないと信じていました。

 だから別に謝ってくれなくてもいいですよ。

 ではこれでここを出て行ってもいいのですね?」


 俺はこいつらにチャンスを与えてやる事にした。

 基本面倒事は大嫌いで、引き籠るのが好きなのだが、今回はもう悪人退治を始めてしまっているので、最後までやりきらないと気持ちが悪いのだ。


「出て行かれるというのは、この警備隊本部の事でしょうか?」


「いえ、この都市を出て行くのです」


「貴男がこの都市に悪い印象を持たれたのは当然の事です。

 マスターでありながらこのような状況にした私に止める権利などありません。

 ですがせめて賠償だけはさせて頂けないでしょうか?」


 ほう、賠償案はいくつか出ていたはずだが、どちらを選んだのだ?

 バカ天使の報告では、結論が出ていなかったはずだ。

 まあ、バカ天使の事だから、肝心の場面に間に合わなかった可能性が高い。


「賠償ですか?」


「はい、貴男は犯罪を重ねた者達を独力で捕らえてくださいました。

 犯罪者に対する賞金は出ていませんでしたが、彼らが隠し持っていた財産を受け取る権利があります」


「財産は、今回の件の黒幕だったこの都市の貴族も含めてですか?

 それとも、貴族の莫大な財産は何もしていない貴方方が山分けされるのですか?」


「……なぜ貴族が加担していると思われるのですか?」


 やっぱりな、残念な方の賠償案を選んだのだな。

 無能で強欲で姑息な貴族が生き残ったのだから、わずかでも賠償する気になった事を評価すべきなのかもしれないが、とてもそんな気にはならない。


「何故バレていないと思っているのかが不思議でなりません。

 貴男はもちろん、表向き主犯とされた副ギルドマスターも貴族の子供でしょう。

 貴方方が陰で都市の権力を争っていた事など、領民なら誰でも知っていますよ。

 ましてこのような大事件の後で、多くの貴族が一族ごと病死するのです。

 普通なら遠縁から跡継ぎを探してくるのに、それをしないで家を潰すのです。

 誰が本当の主犯だったかなど、都市に住むものなら誰だってわかります。

 平民をバカにし過ぎていると、中央の権力者に潰されますよ」


「……貴男はその中央貴族の手の者ですか?」


「いいえ、同じ様な権力争いがあって、遠くの国から流れてきた者です」


「下手に探りを入れない方が互いのためと言う事ですか?」


「少なくとも私は何も困りませんよ。

 困るのは貴方方だけです。

 この国と私の居た国では圧倒的に魔術レベルが違います。

 その気になれば、この程度の都市など一瞬で破壊できるのです」


「分かりました、冒険者から取り上げた物だけでなく、潰した貴族から取り上げた物も分配するように言ってみましょう。

 ですが私には大した発言力はありません。

 領主様が取り上げずに戦いになる覚悟もしておいてください」


 脅迫されてまで譲歩する気などない!

 冒険者ギルドで戦いを始めた時点で、最後までやる覚悟を決めていたのだ。

 何もしないか、徹底的にやるか、俺のやり方は2つに1つだ!


「ええ、それでいいですよ。

 でも戦いになったら、大岩の雨が都市に降り注ぐと思ってください」


 グッワッシャーン


 俺はそう言うと、亜空間に保管していた大岩を取り出した。

 俺達がいる応接間ではなく、奥の寝室と手前の控えの間。

 その2つを圧し潰して応接間まではみだす大岩が2つだ。


「ヒィイイ!」


「俺はこういう岩を好きな場所に数千数万創り出せる。

 この都市の上空に創りだしたら、一瞬でお前達は死滅する。

 それでも良いのなら、領主に報告などせずに今直ぐかかってこい!」


「あわわわわわ」


 貴族らしく上品に行動しようとしていたマスターだが、根性は悪人以下だった。

 副ギルドマスターだった悪人は、俺に斬りかかろうとする根性はあった。

 だがこいつは恐怖のあまり大小便を垂れ流すだけだ。


「汚い奴だな、貴族の御曹司ともあろう者が人前で粗相するな!

 ここは妹の教育に悪すぎる、俺はここを出て行くから追ってくるな。

 追ってきたら問答無用でブチ殺した上に、ここに大岩の雨を降らすぞ」


 俺は大岩2つを亜空間に収納して出て行けるようにした。

 廊下に出ると護衛の騎士2人が腰を抜かしていた。

 ステータスを確認したが、不良冒険者と大した違いはない。


「バカ天使、一旦最初に見つけた廃村に戻る。

 ここと同じくらいの規模の都市か、住み心地のよさそうな町か村を探してこい」


 俺はそうバカ天使に命じて警備隊本部を出て、真直ぐ城門を目指した。

 轟音と共に警備隊本部の一部が破壊されたとはいえ、表面上は何も壊れていない。


 俺を厄介払いしようとしてマスターが来たのだ。

 俺が警備本部から出て行っても誰も不思議に思わない。


「おい、ちょっと待ってくれ!

 なんであんたがここを出て行くんだ?

 盗賊を捕らえた褒美が出たんじゃないのか?!」


 俺がここに来た時と同じ城門にたどり着くと、親切に忠告してくれた門番がいた。

 もう下っ端であるはずの門番にまで情報が流れている。

 もしかしたら、城塞都市中に俺とネイの噂が広まっているのかもしれない。


「正当な褒美を与えず、小銭をつかませて厄介払いしようとしたので、使いっ走りに少しだけお灸をすえて出て行くことにした」


「そうかい、そんな事になっていたのかい。

 確かに功労者に正当な褒美を与えないような都市からは、出て行った方が良いな」


「最後に俺や妹を殺すような脅しを口にしたから、黒幕には正当な報復をする。

 門番さんは親切にしてくれたから警告しておいてやろう。

 逃げる時間も与えてあげた方が良いな、1日だけ猶予をやろう。

 門番さん、明日のこの時間までにこの都市から逃げた方が良いぞ」


「……なんだい、この都市を全滅させるような言い方だな」


「ああ、全滅させるよ、これくらいの大岩が1万個も天から降り注ぐからな」


 俺はそう言って、先ほど取り出した大岩を再び亜空間から取り出した。

 部屋の中とは違うから、全く同じ恐怖感ではないのかもしれないが、それでも顔色を悪くした程度で済んでいる門番は凄い。


 普通なら、いきなりこんな大岩が何もない所から現れた恐怖する。

 現にさっきから聞き耳を立てている他の門番は、大岩の出現とそれに伴う轟音に驚いて、腰を抜かして地面に座り込んでいる。


「すまん、この通りだ、上役に掛け合ってくるから少しだけ待っていてくれ。

 愚かな領主や傲慢な貴族達がどうなってもしかたがないが、この都市に住む平民には善良な者も多いのだ。

 彼らが家を破壊され放り出されるのを見逃す訳にはいかない」


 門番さんが本気で平民の事を思っているのは、真剣な表情で分かる。

 俺も本気で無差別殺人をする気などない。

 俺を騙して小銭ですまそうとした領主達に、怖い思いをさせたかっただけだ。


 まあ、追撃を送ってくるようなら、領主の住む内城には大岩の雨を降らす気でいたのだが、それくらいは当然の事だろう。


 いや、後腐れの無いように貴族は皆殺しにしておこう。

 そうしておかないと引き籠れなくなる

 貴族は名誉がどうこうと言って、しつこく狙ってくるからな。


「い、こう」


 ネイは門番の事など放っておいてどこかに行きたいようだ。

 ネイと門番、どちらを優先するか迷う余地などない。

 俺はネイを優先して廃村に戻ろうとしたのだが……


「お、お待ちください!

 マイルズ様なら必ず領主様を説得してくださいます。

 どうかそれまでお待ちください」


 親切な門番は他の門番達に慕われているようだ。

 もしかしたら、貴族出身なのに平民と一緒に働ける奇特な人間なのかもしれない。

 だが、だからといって、俺がこれ以上配慮しなければいけない理由にはならない。


「そうは言われても、門番に領主を説得できるとは思えない。

 もう3日も軟禁されたのだ、これ以上無駄な時間を使う義理などない。

 ほんの少し親切にしてもらった礼は、命を救う警告で十分果たしている」


「お待ちください、大丈夫です、マイルズ様なら大丈夫なのです」


 これ以上何を話しても無駄だと思ったから、俺は背中を向けて行こうとした。


「本当にマイルズ様なら大丈夫なのです!

 マイルズ様は御領主様の御子息なのです!」


 貴族家の御曹司かもしれないと思っていたが、この巨大な都市の領主公子だとは思ってもいなかった。


 領主公子なのに門番をやっているなんて、何か複雑な事情がありそうだが、だからといって俺が気にしなければいけない事など何もない。


「それがどうかしたのか?

 マイルズはほんの少し親切に声をかけてくれただけだ。

 それに比べて父親の領主は、俺を殺そうとした冒険者や貴族の親玉だ。

 俺を殺そうとした冒険者や貴族を返り討ちにしたら、今度は軟禁された。

 これのどこに俺が待たなければいけない理由がある?

 むしろこの都市に降らせる大岩の量を増やす理由になると思うがな!」


「大魔術師様のお怒りはごもっともですが、ここはひらにご容赦願います」


 あの程度の岩を1個だしただけで大魔術師扱いかよ!

 この世界の魔術師はレベルが低すぎてろくに戦えないのか?


「何を言われても俺がされた事は変わらない。

 だが、マイルズの言うように、何の罪もない平民を巻き込むのはやり過ぎだな。

 大岩を降らして破壊するのは、今回の件に関わった貴族の屋敷だけにしてやる。

 だが、失った家財を税を上げて埋め合わせしようとしても無駄だと伝えておけ。

 そのような事をしたら、屋敷だけでなく命も奪うとな!」


「お待ちください、どうかお待ちください。

 マイルズ様がお戻りになるまでお待ちください!」

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