第12話:冒険者ギルド

転移4日目:山本光司(ミーツ)視点


 俺はバカ天使に調べさせた城塞都市の前にいる。

 胸の前では抱っこ紐で固定されたネイが眠っている。

 お昼ご飯を食べて眠くなったのだろう。


 朝早く廃村を出て、高価な薬草だけを収納しながら駆けに駆けた。

 身体強化した俺にかかれば、10日かかる道のりも5時間で走破できる。


「光司様、入城料は銀貨1枚です」


 俺はこの時のために、奉天市場で日本円をこの世界の貨幣に換金してきた。

 貨幣交換機能は、日本で使っていた奉天市場の改良されている点の1つだ。

 換金相場は銅貨1枚100円、銀貨1枚1万円、金貨1枚100万円だった。


 バカ天使の話しでは、流通する貨幣の量が少ないため、生活必需品でもある魔核や魔石が、魔力の無い空の状態で貨幣代わりになっているという。

 ただ魔核や魔石の大きさがまちまちなので、そこで損得が出てしまうらしい。


「次、なぜ城内に入りたいのだ!」


 横柄な門番が俺を呼ぶ、腹が立つが、それを表情に出すほどバカではない。

 本格的に引き籠りになったのは最近で、それまでは我慢して働いていたのだ。

 最低限の社会性くらいは備わっている。


「はい、冒険者になりたくてやってきました」


 この世界には戸籍などないそうなので、金さえ払えば特に調べられないと言う。

 魔境に近く、多くの冒険者が集まっているここは、入城が簡単だそうだ。


「変わった服だが、近隣の者ではないな?!」


 くそ、ちゃんと怪しい者には質問するじゃないか!

 バカ天使の言う事を信じた俺が愚かだった!


「遠くの村から冒険者になるためにやってきました。

 服は故郷で普通に使っていた物なので、変わっているとは思いませんでした」


「そうだな、本当に怪しい者なら、そんな服を着て堂々と門を通ろうとはしない。

 その遠い村から胸の子供を抱いてやってきたのか?」


「はい、両親を早くに亡くし、頼れる親戚もないので、妹と一緒に安心して暮らせる場所を探して旅を続けています」


「そうか、だがそう言う理由なら、この都市は厳しいぞ。

 強固な城壁に護られた中は安全だが、その分物価が高い。

 都市の住民になるには、貴族の保証と1人金貨100枚が必要だ。

 稼げる冒険者が一時的に滞在するならいいが、村人が滞在するには不向きだ。

 住人以外が門を出たら、もう1度入る時には毎回銀貨1枚が必要になる。

 それは子供であろうと変わらない。

 稼ぐ実力がある冒険者以外には、恐ろしく住み難い都市だぞ」


 最初の言葉は横柄だったが、ずいぶんと親切な門番だ。

 入城料を稼ぎたいのなら、何も言わずに門を出入りさせればいい。

 それをこんな親切に教えてくれるなんて、領主の教育が良いのか?

 

「狩りはそれほど得意ではありませんが、薬草集めには自信があります。

 背負っている駕籠一杯に薬草があります」


 俺は親切な門番に2個6556円で買った背負籠の1つを見せた。

 こんな時のために、薬草は収納する分と背負っている駕籠に入れる分に分けていたのだ。


 背負っている駕籠に入れた薬草は、手当たり次第に集めた薬草の中でも、この世界で高い値段がついている物ばかりだ。

 バカ天使が冒険者ギルドで高価に買取されていると言っていたが、本当か?


「ほう、これは凄いな!

 これだけあれば銀貨50枚(50万円)にはなるだろう。

 分かった、だがこの辺りの獣やモンスターは獰猛だから気をつけろ。

 冒険者の中には、同じ冒険者を襲うような奴もいる。

 大金を持っている事を悟られるなよ」


 本当に親切な門番だ。

 こんな門番がいるような都市なら、領主も善人かもしれない。

 

「入ってよし!」


 俺は銀貨2枚(2万円)を門番に渡して城砦都市の中に入った。


「城門を入った直ぐ右横に冒険者ギルドがあります」


 魔境と呼ばれる森に面した城門近くに、冒険者ギルドの建物はあった。

 魔境に向かう冒険者の利便を考えての事だろう。

 あるいは多数のモンスターが襲ってきた時に対処する為か?


「ここです、ここが冒険者ギルドです」


 バカ天使が冒険者ギルドという建物は石と木を上手く使った頑丈そうな3階建だ。

 分厚い1枚板で造られた、城門のような両開きのドアは開けっ放しになっている。

 外からでも見られるようになっている受付のカウンターに向かって歩いていく。


「ギャッハハハハハ、どこの田舎者だ?!

 子供を抱いて籠まで背負ってやがる、ギャッハハハハハ」


 冒険者ギルドを入って左側にある食堂兼酒場から、一斉に嘲笑が聞こえてくる。

 ブチ殺してやりたいが、俺より強いと困る。

 バカ天使の言う事は信じられないから、念のために確認しておこう


(ステータス・オープン)


「個人情報」

氏名:ゴードン

情報:ヒューマン・男・34歳・レベル10

職業:剣士

HP:117/117

MP:13/13

筋力:113

耐久:87

魔力:13

俊敏:55

器用:11

魅力:3

幸運:35

「職業」

剣士 :レベル10

武闘家:レベル3

「アクティブスキル」

剣術:レベル10

武術:レベル3

「パッシブスキル」

気配:レベル2

「魔法スキル」

なし

「ユニークスキル」

なし

「犯罪歴」

殺人:243人

傷害:1418人

強盗:157件

強姦:649人

恐喝:1174件


 最低の腐れ外道だな!

 こんな奴なら嬲り殺しにしても良心が痛まない。


「「「「「ギャッハハハハハ」」」」」


 魔境に行かず真昼間から酒を飲んでいるとは、定番の不良冒険者達だ。

 個人的な犯罪者ではなく、集団で人を襲っているのか?

 俺よりも強い奴がいないか、念のために全員確認しておこう。


(ステータス・オープン)


 どいつもこいつも人間の皮を被ったケダモノだな!

 それにしても、どいつもこいつも思っていた以上にステータスが低い。

 レベルにしても最初の奴の10が最高で、ほとんだが4から6だ。


「ここは魔獣と戦う冒険者の為のギルドだぞ」


 そう言うお前らは善良な人達を襲う強盗団だろうが!

 前世では何の力もなかったし、警察も法もあったから何もしなかったが、内心では人殺しは処刑されるべきだと思っていたのだ。


 何時でも殺せるチンピラの相手は後だ。

 こんな連中を野放しにしている冒険者ギルドがまともな訳がない。

 加入する価値などないと思うが、念のために確認だ。


「田舎者の村人は身の程をわきまえて畑でも耕していろ!」


 がまんだ、ガマン、こんな連中その気になれば今直ぐに殺せる。

 それよりも、冒険者ギルド内でこいつらが好き勝手出来る理由の確認だ。

 冒険者ギルドで地位のある奴が仲間のはずだから、そいつを見つけるのだ。


 正面右側には依頼を掲示する板がレベル別に張り付けてあるが、誰もいない。

 まあ、こんな不良冒険者がたむろしているギルドに人が集まる訳がないな。

 いや、こいつらより強い冒険者がいなくなる昼を狙っているのか?


「冒険者ギルドに加入したいのですが、何か条件はありますか」


 俺は暇そうにしている金髪碧眼豊乳の受付嬢に声をかけた。

 他にも忙しそうに書類を書いている受付嬢がいたが、あえてこいつを選んだ。


「……特に難しい条件はないわ。

 ここに名前とスキル、レベルを書いて!

 ギルド加入料は銀貨1枚よ。

 書いたらさっさと払いなさい!

 いえ、先に払わないと書かせないわ!」


 嫌そうに、見下すような、命令口調で言ってきた。

 しかも村人の俺には字が書けないだろうと思いながら、代筆しようかと聞かない。


 必要な金額だけ言って、何が何でも徴収しようとするが、ギルド員が受けられる権利の事は何も説明しない。


「そんな説明でギルドに加入しようと思う人間がいる訳ないだろう。

 こんな最低の人間に受付させるようなギルドに加入する訳がないだろう」


 俺がそう言って身体を翻すと……


「おい、おい、おい、それは俺達冒険者を馬鹿にしているのか?

 田舎者の分際で、冒険者ギルドを批判してただで済むと思っているのか?!」


 俺を嘲笑した不良冒険者達が、右側の食堂兼酒場から出てきた。

 やれ、やれ、俺も短気だったが、こいつらもこらえ性がない。

 冒険者ギルド内の仲間はこいつらを脅して聞き出すしかないな。

 

「そうだ、腐った冒険者ギルドをバカにしたのだ。

 受付嬢に情報を流させて、同じ冒険者を襲う強盗を野放しにしているのだから、バカにされ見下されるのも当然だろう」


「なに?!

 何を証拠に俺達の事を強盗だと言いやがる!」


「こうして、あの最低受付嬢の目配せで難癖付けてきたのが何よりの証拠だ。

 それに、このギルド以外でステータスを確認すれば犯罪歴がはっきりする」


「……善良な冒険者を強盗呼ばわりしたんだ、殺されてもしかたがないな」


「証拠隠滅のために俺を殺そうというのか?

 こんな事もあろうかと、門番さんには、俺が戻って来なかったら冒険者ギルドに殺されたと思ってくれて言ってある」


 大嘘だが、こういうバカを暴走させるには、とても効果がある。


「殺せ、いつも通り切り刻んでスライムに食わせりゃ証拠もなくなる!」


 ゴードンという奴が剣を抜こうとする。

 だが俺から見るとスローモーションのように遅い。

 剣を抜こうとしているゴードンの右手を左手でつかんで引っ張り身体を崩す。


 ゴードンの体重が右脚に乗った所を、右足を使った大外刈りで払う。

 同時に右手でゴードンの顔をつかんで床にたたきつける!

 俺の右手にゴードンの後頭部が潰れる感触が伝わってくる。


(マジック・アロー、マジック・アロー、マジック・アロー……)


 1番奥の奴が何か魔術を詠唱しようとしていた。

 俺ならこの程度の連中が放つ魔術など簡単にレジストできるだろう。


 だが、胸に抱いているネイにケガをさせる訳にはいかない。

 だから心の中で複数のマジック・アローの呪文を唱えて放つ。


「なっ、野郎!」


 ゴードンの次に近づいていた奴が驚いている。

 1番強いゴードンがこんな簡単に殺されるとは思っていなかったのだろう。

 剣を抜こうともしていなかったのだが、驚き過ぎて固まっている。


 腐れ外道の都合に合わせてやる必要などない。

 背後の連中はほぼ魔術で殺している。

 殺していないのは観相術的に証言を得やすいと判断した奴だけだ。


 シュ!


 俺はこの世界の武器を持っていない。

 奉天市場で買った剣鉈はほぼ肉切り包丁になっている。 

 剣鉈で人を斬るのは嫌だから、ゴードンの剣を奪って抜いた。


 チェストー


 スローモーションのように遅い不良盗賊に情けなどいらない。

 上段に振り上げた剣をそのまま振り下ろす。

 敵の右腕がポトリと床に落ちる。


「お前達と一緒になって冒険者を襲っていたギルド職員を教えてもらおう!

 俺を甘く見て嘘をつくなよ。

 ほんの僅かでも嘘をついたら、生れてきた事を後悔する拷問を加えてやる」


「ギャアアアアア!」


 腕を斬り落とされた痛みが遅れてやってきたのだろう。

 俺の話しに返事をする事なく、床をのたうち回って血をまき散らしている。


 こんな腐れ外道のために回復魔術を使うのは嫌だが、証言を得るために死なせるわけにはいかない。


「ファイア」


 属性攻撃魔術ではなく、創造魔術で本当の火を創って斬り口を焼いてやった。

 回復魔術や治癒魔術で治すのではなく、焼いて止血するのだ。

 これで腕を再生する事もできなくなるだろう。


「ギャアアアアア!」


 斬り口を焼かれる激痛に、先ほど以上に床をのたうち回る。

 だがこれで失血死する事は無くなった。

 それに、これで慌てた犯罪者が馬脚を露してくれるだろう。


「待ってくれ、これは俺達ギルドの失態だ。

 俺達の手でしっかりと調べるから、後は任せてくれ!」


 俺が罵られる辺りから、受付の奥で下種な笑顔を浮かべて見ていた男性職員が、慌てて出てきた。

 最初からこいつが怪しいと目星をつけていたのだ。


「やっと強盗の仲間が出て来てくれたか」


「なっ、何を言っているのだ!

 田舎農夫の分際で、ギルド幹部を強盗扱いするとただでは済まんぞ!」


「最初から冒険者ギルドの幹部に仲間がいると思っていたんだ。

 そうでなければ、ギルド事務所の中でこれほど大胆なマネはできない。

 ステータスを確認する前に、自分から出て来てくれた事に感謝するよ」


「捕まえろ、逮捕しろ、冒険者ギルド内で善良な冒険者を殺した罪で逮捕しろ!」


「裁判抜きで殺されたいのならやればいい。

 俺も正当防衛で極悪非道なクズ野郎を殺せてスッキリする。

 情状酌量してもらって、少しでも罪を軽くしてもらいたい奴は、こいつと黒幕を捕まえて領主に突き出すんだな」


 俺の言葉を受けて真っ先に幹部を捕まえに動いたのは、同じ強盗仲間であろう金髪碧眼豊乳の受付嬢で、それに遅れて受付にいた全ての人間が幹部に突進した。


 わずかに遅れて、何もできなかった男が受付奥の更に奥にあるドアを開けて出て行こうとしたので、その後をついて行った。


「副ギルドマスター、ゴードンの奴らが殺されました!

 主任も受付の奴らに取り押さえられました!」


 泳がせた受付職員は奥の階段を駆け上り、2階左奥にある部屋に飛び込み叫んだ。


「なに、ゴードンがやられただと?!」


「お前が黒幕か、もう逃れようがないぞ、観念しろ!」


「なっ、ここをどこだと思っている!

 農夫の分際で冒険者ギルドのマスターに逆らってただで済むと思っているのか!」


 俺はネイを抱き、籠を背負っているから、農夫にしか見えないのだろう。

 それとも日本のライダースーツはこの世界の農夫に似ているのか?


「副ギルドマスターと呼ばれていたのに、自分ではマスターと名乗るのか。

 よほど自己顕示欲が強いようだな。

 無能な奴ほど肩書に固執すると言うのは本当のようだな」


「おのれ、農夫の分際で貴族の俺様を侮辱しやがって!

 死ね、死にやがれ!」


 冒険者ギルドの副ギルドマスターが、背後に立てかけてあった剣を取ろうとしたが、俺はそれを止めなかった。

 正当防衛を成立させるには、剣を持たせた方が良いと思ったからだ。


「この水飲み百姓が!」


 思いっきり差別用語を口にしているのだろうな。

 聞くに堪えない翻訳がされている。


 本当は少しくらい斬られておいた方が正当防衛は成立しやすいのだろう。

 だがこんなヘッポコ貴族に斬られるる気にはなれない。


「腐れ外道には安楽な死より生き地獄が似合っている、ファイア」


 俺は攻撃魔術で副ギルドマスターの全身を焼いてやった。

 自らの臆病で、本来なら火傷するはずのない、本当の火ではない魔術で火傷すると思ったからだ。


 予想通り、耳も鼻も性器も炭化して焼け落ち、目も焼かれて失明した。

 全身大やけどを負っても死ねない生き地獄に落としてやった

 こいつに所為で金だけでなく命も誇りも奪われた人々への手向けだ。


「さて、おまえはどうする?

 正直に証言するか、他の一味と一緒に偽証して俺を殺すか?

 だが俺を簡単に殺せるとは思うなよ!

 1度俺の情けを踏みにじったのだ、もう2度目はない!

 次に警告を無視したら、こいつ以上の生き地獄に落としてやる!」

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