(三)-4

 父とてすでに七〇台だ。病気を持っていてもおかしくない。しかし、父はほとんど自宅に戻ることなく、親子の会話などなかった。それは子どもの頃からそうだった。会社で顔を合わせることはあっても、仕事にことしか離したことはない。

 だから彼の持病など知る由もなかった。

 太った父はかなり重かった。何とか抱きかかえると、父の体からは完全に力が抜けていた。それが重い体重をさらに重く感じさせた。

 背広姿のままだったが、スーツの下の白いシャツには腹から胸にかけて真っ赤に染まっていることに気づいた。さらに、よく見ると父の体の下には赤い池ができていた。

 揺さぶって起こそうとしたが、父は返事をしなかった。

 翌週の月曜日、会社に出社した。判断を求められる案件と、決済の承認が必要な案件がいくつかあったからだ。


(続く)

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