第10話 異変。蠢くモノ。

 1人、マスターを失った英霊が歩いている。

 行く宛もなく。

 戦う相手もなく。

 虚空に彼の怨嗟の声が響く。

「おのれ!ライダー!よくも我が主を!」

 1歩、また1歩。

「おのれ!兄者!我が想い、よくも踏みにじみられましたな!」

 彼の怨嗟が過去の記憶とフィーリングしていく。

 その英霊はどす黒いオーラを纏いはじめていた。

 そこに、何処からか人影がヌッと現れる。

「心地よい怨嗟だ。どうだ、憎いか?おのれのマスターを打った者が」

「憎い!」

「憎いか?おのれを裏切った者が?」

「憎い!」

「憎いか?愛する者を奪った者が?」

「憎い!憎い!憎い!」

 英霊の纏うどす黒いオーラが強まっていく。

「ならば、取れ。お前の目の前に輝くモノを。マスター亡きそなたに再び力を与えるわ」

 人影は自らの掌から、怪しい光を放つ、宝石の様なモノを。四角とも、三角とも、取れる言い様のないカタチのモノを。

 英霊がソレを握ると、黒いオーラはヘドロの様なモノへと変質し、英霊を飲み込む。

「は、謀ったな!」

「いいえ。アンタは産まれ変わるのさ。ほほほ、ふふふふ、アハハハ、ハッーハッハッハッ!」

 人影の笑い声が木霊する。



 学校の裏山にて…


 くそっ!


 何なんだコイツは?

 急に襲いかかって来やがって!


 俺、鈴木すずき哉牙さいがは裏山でワケの分からない黒い、武士の様なやつに襲われている。

 綾さんが、またこの裏山に来ていないか気になって授業を抜け出してきたんだが、待っていたのはコイツだったわけだ。

 反撃しようにも、武器がねぇ。

 そこら辺の石を拾って投げつけているがことごとく切り捨てられている。


 ーくそっ!銃でもありゃあ違うのによう!ー


 俺は心のなかで悪態をつく。

 銃さえあれば、何とかなるような変な自信もある。慢心かもしれねぇけど。

『シネ!』

 黒い武士は刀を振るってくる。

 それらをすんでの所でかわす俺。

 振るわれた刀は、周辺の草木を切り裂く。


 いやいや、マジモンの刀じゃないですか!


 そんなんで切られたら確実に死ぬじゃん俺!

 と、言うか。

 愛しの綾さんを探しに来たのに、何で、俺。こんなのに追い立てらんなきゃならねえんだよぉぉぉ!!



 俺が必死に黒い武士からの攻撃から逃れている時、綾さんはというと…

 着物姿でスーパーに買い物に来ていた。

 ウチの婆さんから着物を貰ったらしく、昨日着てたみたいな良いやつじゃない。

 綾さんが着てたの、訪問着って言うんだってな。

 着るもののランクとしてはフォーマルな場で着るドレスに相当するらしいな。

 そりゃあ、ドレスじゃあスーパー行かないわなw

 それでも綾さんの美しさは回りの目を惹き、すれ違う人、すれ違う人が振り返ってるんだぜ!

 買い物バッグに食材を詰め込んだ綾さんはメモを見ながらスーパーから出てくる。

 ホント出てきたお姿は、評判の美人若女将って感じ!

「これでお婆様から頼まれ食材は揃いましたね」

 スーパーから出た綾さんは、何かに気付き、裏山の方を見る。

「異様なマナを感じる…」

 綾さんは呟く。



 俺にとって学校の裏山は庭みたいなモノで地の利は俺にあるんだけど、長物持った相手に逃げ回るのは厳しいぜ!

「シネエ!!!」

 刀を振り下ろす黒武士。さすがにヤバイ!

 そこに…

「フェンサー!!」

 凛と響く綾さんの声。

 綾さんの背後から現れたもやっとした人影が黒武士の刀を受け止める。

「何故、貴方が此処に居るのです?哉牙?」

 穏やかな語り口で微笑みながら俺を問いただす綾さん。

 いやー、綺麗だなぁ…

 見とれたいところだけど、感じるに、綾さん、激おこプンプン丸なのよね(汗)

「哉牙、貴方は逃げなさい!!」

 俺に逃げろと言ってくれる綾さん。

 持っている買い物バッグが実にアンマッチ!

 やっぱり、綾さんは何しても絵になるなぁ…


 でも、俺はアホだけど馬鹿じゃない。

 綾さんの置かれた状況がヤバイ事は感じる。

「俺がいたら邪魔だよな…ゴメン綾さん!!」

 俺は綾さんが黒武士の気を引いている間に退散した。


 俺、この時の悔しさは一生忘れてないぜ。

 何たって、惚れた女の人に護ってもらって、逃がされたんだからよ!

 綾さんに任せっきり、というわけにも行かず、俺は黒武士に気付かれない辺りで綾さんの戦いを見守ることにした。

 勿論、何も出来ないのは、悔しいけどな!

 いざとなればまた、肉の壁として綾さんを…


 と、思ったけど…

 昨日、必死な想いで俺を助けてくれた綾さんの顔を思い出した。あんな顔はさせられないよな…


 ー糞がっ!銃さえあれば、綾さんを危険な目に合わせなくて済むのに!!ー


 この時の俺は、他ならぬ俺自信にキレてた。これは後々までよく覚えている。

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英霊大戦 杵露ヒロ @naruyamato

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