第9話 胎動するマスター達

 私、長緒ながおあやが、ひょんなことから命を助けた少年、鈴木 哉牙さいがと再開した、その頃。

 各地では、英霊使いたちがそれぞれの思惑の元、蠢いていました。



「マスター」

 30代半ばほどの東洋系、おそらく中国系の男性の英霊が自らのマスターに声をかける。

「どうした?キャスター」

「どうやら、また次元を越えて来たものが現れたようです」

 マスターと呼ばれた方も同じく30代ほどの男性。

「ふむ。場所は?」

「現在地からはいささか離れている様だ」

 キャスターはマナテクノロジーのマップを使い、私の居場所を大まかに捉える。

「埼玉か…面白い、明日にでも様子を見にいってみるか」

「承知した」

 マスターの男はテーブルの上のグラスにワインを注ぐ。

「それはそうと、今日の戦いは見事だった。流石だな」

 キャスターは杯を取る。

「「今日の勝利に」」


 チン!


 グラスを合わせたあと、2人は一気にワインを飲み干す。

「他には何か望むものはあるか?」

「では、久方ぶりに、共に楽器を奏でたく」

 フッ、とマスターは微笑み、ヴァイオリンを取り出しおもむろに弾きだす。

 方やキャスターは胡弓を取り出し、即興で合わせはじめるのでした。




「くっ!殺せ!」

 地面に這いつくばらせられた女性。隣には同様に捕らえられた男性の英霊らしきものがいる。

「アハハ♪本当に『くっ!殺せ!』っていうコいるんだね、ウケる♪」

 馬に横座りをした少し派手目な格好で蠱惑的なスタイルの女性がケタケタと笑う。

「ねえ、アンタの敗因何だとおもう?」

 派手な女性が下馬をし、這いつくばっている女性の顎を靴先でぐっと持ち上げながら問いかける。

「…英霊の強さの違い」

 悔しそうに言う女性。

「そう♪良くわかったわね♪」

 そう言い、捕らえられた男性の英霊にしなだれ掛かる。

「アナタ、イケメンね♪このイケメンを『適正クラス』で召喚できなかったのがアンタの実力ね♪」

 それに、と一言加え。

「まぁ、そもそもアタシのライダー程の英霊に勝てるはずもないのに、ね♪」

 ギリギリ、と奥歯を噛み締める女性。

「ねえ、アンタ、アタシの奴隷として飼ってあげようか?殺さないでいておいてア・ゲ・ル・わ♪」

 その代わり、と言い。

「このイケメンはアタシがたくさん抱いてあげるからサ♪」

「ふざけないで!生き恥を晒すくらいなら死んだ方がマシよ!」

「某もマスターに殉じます」


 チッ!


 つまらなさそうに舌打ちをする派手な女性

「なんかムカつく」

 人差し指を捕らえた女性に向ける。

 指先にマナが集中され、超圧縮されたマナの針が捕らえられた女性の眉間に突き刺さる。

「あ~あ、ベッドの上以外で汗かいちゃった。ライダー♪早く帰って、愉しいことしましょ🖤」

「そうだな」

 ライダーと呼ばれた英霊が姿を現す。

 東洋系の男性。整った顔立ちに均衡の取れた肉体。表情は自信に満ち溢れ、全身からは覇気が滲み出る。

「まて!某をどうするつもりだ!」

「どうもしないわ♪折角英霊として召喚されたんだからこっちの地球を愉しまなきゃね♪縄も解いてあげるから、マナの続く限り愉しく生きなさいな♪」

 ライダーがそのマスターたる派手な女性を抱き抱えながら馬に乗る。

「こ・ん・な・ふ・う・に🖤」

 ライダーとそのマスターはその場で熱烈なキスをはじめる。

「ではな、ファイター。お前がフェンサーかライダーで召喚されていたのなら、

 ライダーとそのマスターはその場を去っていく。

 彼らが去った後、マナに還っていくマスターの亡骸を抱える、ファイターの怨嗟の絶叫が響いていたのでした。



「ふむ。お見事ですな」

 黒い神父服を身につけた眼鏡の壮年男性がその眼鏡を直しながら眼前の相手を見やる。

「ですが、我がランサーの敵ではありませんな」

 相手側の猛攻を一切のダメージなく耐えきったランサーの姿に驚愕の声をあげる、相手のマスターと英霊。

「では、な」

 ランサーと呼ばれた黒い鎧兜の筋骨隆々の英霊が渾身の一撃を相手の英霊に叩き込む。

 英霊は破壊され、マナに還る。

「貴方はもう戦う必要はありません。この平穏な地球で余生を過ごされるのがよろしかろう?」

 眼前の対戦相手に言葉を投げ掛け、神父服の男性は去っていく。

「マスター、次の相手はどこだ?」

「そう、急くな。どうやら今日、新たなマスターが現れた様だ。挨拶にいかねばな」 

 フッ、と笑い神父服の男性とその英霊、ランサーは戦いの場を後にするのでした。



 この者達と、私の戦いの行方は、どうなるのか?

 今の私は、小料理屋の喧騒で、戦いのことをほんの1時、忘れていたのでした。



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