ゲフィとナッチ
カフェにつくとイナはさきにそこにいた。少し浮かない顏で。
「悪いわね地上にまできてもらって調査をしてもらうなんて」
「いえ、ルノと付き合うようになってから、結構地上にも来ますので」
「そうなんだ、じゃあ、さっそくだけど」
エランが促すと、イナは少し落ち込んだ表情をみせた。
「言いづらい事なの?」
「そうじゃないんです、ただ自分もよく知らなくて、あの頃はまだ付き合って日が浅かったから、僕に話してくれればよかったんだけど」
「何があったの?」
「……どうやら、彼女がここに越してきてから、ずいぶんいじめてくる男がいたそぅです、太っちょのゲフィという男で、亜人を嫌うやつで、よくアパートの入り口にいたずらがきをしたりしていたようです」
「その人は今は?」
「火事でなくなったっていうことです」
「ふむ」
「ほかにも彼女をいじめている男はいました、ナッチという細い男で、王子という愛称でよばれていて」
「ああ、その人ならしってます」
エランがじっとクラノをにらむ。情報源をいわないように諭すためだ。すぐにクラノは意味を理解してぐっと口をおさえた。
「その男のほうが陰湿で、彼女が路上で稼ぎをえたり、バーなどで歌っているときやじをとばしたり、石をなげたりしていたようです、その男も火災後に態度をかえたようで」
「ところで……」
「?」
「あなた、彼女が何の亜人かしっている?」
「……そのことですか」
イナは少し落ち込んでひざにてをおいた。
「それもまだ教えてもらってないんです、でもいいかなって、彼女の準備ができたら教えてくれれば、亜人であろうと何であろうと彼女のことが好きなんですから」
エランは、そこで少しうつむいた。
確かに亜人省の一部門であり、エランたちの所属する亜人遺産保護調査部門は雑多な仕事が多く、その中でも亜人の調査は軽く片づけられることも多い。本来の仕事は亜人遺産贈与部門などが、旧文明の亜人の遺産に関する引継ぎや税などの手続きを進めたり、亜人の労働環境を改善したり、亜人の生活上の困難を解決するのが、亜人省の主たる業務だ。自分からアプローチして、亜人をサポートするこの業務は、そのほかの仕事より後回しにされ、軽視されている傾向が多い。
(そうはいっても、以前までの調査員は、彼女が何の亜人であるかすらもきいていないなんて……いじめだって、監視をすることだってできたはずなのに、調査にすら情報がない)
クラノがエランをみる。
「……その辺は直接本人にきこう、ありがとう、イナ」
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