兄弟

 チサがエランの肩をつかみいっぽ前にでて、二人の兄弟にいった。

「へえ……なら“地下の大ババ”に報告するわよ」

「!!??」

「それだけ、それだけはやめてくれ、なあ、アニィと俺たちは、ちょっと魔がさして、豊かな生活がどんなものかしりたかっただけなんだ」

 エランがチサをみつめ、首をかしげる。

「?」

「……?」

 チサは彼女の疑問に気付いたとでもいうようにくびをななめにこちらをむいてにこりとわらった。

「ああ、ダルズ様ですよ、地下コロニー長の」

「?彼らとどんな関係が?」

「彼ら郊外で暮らすもののほとんどは、亜人や亜人につながりをもつものや貧乏な人ばかり、そんな彼らに地下から資源をおくり、使いのものに管理させています」

「地上の人の面倒をみているのか……」

「もちろん、ダルズさんにも、その代わりに地上から労働力が送られることもありますが、ダルズさんは単純に、郊外で人が飢えて死ぬのがたえられないんですよ」

「……」

「いいひとですね」

 クラノが、純粋な反応をすると、チサは気を取り直して罪人を見下ろした。

「さて……ひとまず盗ったものを返してもらおうか、そのあとで処遇をきめるから」

「……」

 エランはその様子を何もいわずじっと見ていた。

「すまなかった、確か大きい札はこれだけだ」

 2千札がクラノの元に戻る。クラノはにっこりとわらった。

「母からもらった財布を汚されたのは最悪だけど、まあお金がかえってきたなら」

「……エランさん、どうします?何の罰も与えず逃がしていいですか?」

「……」

 エランは少し考え事をしたあと

「あっ」

 といって、チサに耳打ちをした。しばらくその様子を兄弟が見ていたが、やがて、チサが振り返り、兄弟に命じた。

「あなたたち、わりとはぐれものよね」

「??」

「この街でも、地下でも」

「そりゃ、そうだが、それがどうした?」

 兄が気勢をたもったまま、エランを睨め付ける。

「じゃあ、手伝ってほしいの、この街を調べることよ、そうしてくれるなら、なんの罰も与えないわ」

 弟の顔がパーッと明るくなる。兄はまだ疑い深そうだった。チサがはやし立てるようにいった。

「さあ、どうするの?」

「あ、ああ、わかった、従うよ」

 弟が先になのった。

「俺の名は、カイ」

「こら!!……まあいい、モグラににらまれたらどうにもならん、俺の名は、デイじゃ」

「じゃあ、よろしく」

 エランは、場の空気を全く意に返さないように、彼らに手を伸ばした。そして、彼らが立ち上がるのを手伝ったのだった。

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