逃亡

 エランがその男の話に気を取られたその瞬間、男はスプレー缶、催涙スプレーらしきものをエランにまいた。

“プシュッ”

「あっ!!」

 次の瞬間、エランは顔をおおった。

「くそ、亜人の五感は人間より鋭いのに、なんてこと……」

「エラン、先輩……」

 クラノは心配そうに気を使いながら、周囲にも気を配る。

「でもよかった、仲間がいないみたいで」

 そういって男の走っていた方向をみると、もう一人の男が男と合流し、何かを話し、こちらに指をさしている様子がみえた。

「先輩、まずいかも、仲間がいたみたい」

「え?」

 エランは

「仕方ない」

 とコアに手を伸ばし、力を解放しようとした。

「あ、まって……」

 男たちがこちらに向かってくる、とその背後からもう一つの人影が男たちに向かっていくのがみえた。

「まてー!!」

 スタンガンらしきものを手に、男をおいかけているのは、チサだった。男たちはへとへとになりながらこちらに向かっていく、状況が味方したのは、こちらへの道が一本道だったことだ。建物同士はぴったりひっついていて隙間もない。

「くそ、運わりい!」

「諦めよう、弟よ!!」

 そういいつつ、クラノとエラン、チサに挟まれた男たちは、走るのをやめ、その場にへたり込んだのだった。

「降参、降参だ」

 背が高く汚れた髑髏マスクをしたパーマの男がいった。

「まさか、こんなに追い掛け回されるなんて、スリもばれたのもはじめてだ」

 スリを働いた、よくみると整った顔立ちをした背が低く鼻の赤い作業着姿の男がいった。

「よそ者だと思って油断したんじゃねーのか?」

「いや、油断はしてない、きいてみろ、こいつらの中で記憶力や何かが異常な奴がいるんだ、聞いてみなアニィ」

 全くわるびれることもなく、そのままエランをみて、この男が尋ねる。

「なあ?」

「……」

 エランはたった今悪い事をしたのに、そんな偉そうな態度をとられたのが初めてなので目を丸くした。

「あんたたち、罪人なのにどうしてそんなに自信満々で私たちに話しかけるの?警察につきだすわよ」

 エランが脅すと二人はお互いをみつめて、沈黙した。

「……」

 少しそうしたあと、背の高いほうが先に、つられて弟らしき男が、笑い始めた。

「ギャハハハハ!!」

「警察、警察」

「何がおかしいのよ!」

 クラノが、不満げに怒鳴る。

兄「だってこの郊外にそんなものが役に立つと思うのか」

弟「警察は、こんな危険なところまでわざわざこない、俺たちの中には警察にわいろまで送ってるやつがいるさ」

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