クラノという人
クラノと仲良くなったことで、自分のことを卑下していたエランは、自分の価値を見つめなおすことができたし、より人間らしい人間になった。それでもどこかぎこちないところはあったが。それからもクラノは、むしろクラノのほうからエランに興味をもち、同じ道を進むようになったのだった。エランは、遠い昔、子供の頃に自分の種族や亜人としての地位によって人に見下されたり、恨まれたりすることがあった。そのせいでさっぱりとした機械的な態度を手に入れたのだ。そして小さなころしていた仕事もそれに関係していた。家族の関係もそのように冷え切っていて、淡々と日々をこなすだけの人生、それがいつまでも続くとおもっていたのだ。よく、他人からこういわれることがある。
“それだけのことで、心をとりもどしたの?”
と、だがエランにとっては、“他人に善い行いをして、良い行いが返ってくる”それだけで奇跡であり、かつクラノの人間的な天真爛漫さは、エランがかつて失った感情を取り戻すために、とても重要な役割を果たした。それまで人に良いことをしても、感謝こそされても、どこか敬遠されていたし、そもそもどこかでしたくてやっていたわけじゃなかった。なぜなら、エランのそれまでの良い行いは“罪悪感”からくるものだったからだ。昔、離異国に使えた種族であるという罪悪感から。
次の日も、クラノとエランは、地下への入り口、郊外を調査していた。
「先輩、危ないところへいくのをやめましょうよー」
「……」
「どうしてこんなとこばっかり調査するんですか」
「裏表がないからよ、戦争が終わって、皆表面上は地下や離異国と関係ないようにふるまってる、けれど、そんなわけない、オーバーテクノロジーの残骸を使わずにこんなに早く文明が復興することはなかったわ」
「けど、助っ人もいないのに、昨日のことでもあるまいし……」
「よんであるわよ?……」
急にエランが足をとめたので、目的地もなくただ調査につっぱしっているのだと思っていたクラノは、エランの背中にぶつかった。
「うわっ」
「ほら、ここで待ち合わせ」
「ん?誰と……って」
そこにはマスクで覆面をしたモグラ……。そして見覚えのあるポニーテール。遠慮もなくするりとそれを外した瞬間、クラノは声をあげる。
「チサさん!!」
「こんにちは……昨日ぶりです」
照れくさそうに笑うチサがそこにいた。
ひとまず、ルノの調査は今日の夕方から当人への聞き取りを行うことにしたが、エランは、もうひとつ勘で調査を平行して進めようとしていた。
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