収集
結局、大事にはいたらず、亜人同士の喧嘩ということで警察も手出しはできなかった。それからしばらくたち、エランにクラノから、放課後に屋上にきてほしいと呼び出しがあった。
「あれ以来ですね……」
「ええ……」
「私、一度もお礼いってなかったから、ちゃんとお礼しなきゃって、だから今度ごちそうさせてくれませんか?何か、いい店を予約しておくので」
「ああ、そうなの、ありがとう」
無表情なエラン。
「でもそのまえに、聞いておきたかったんです、どうして私を助けてくれたんですか?」
「なんでって、義務だから、私は代々亜人として人を守る義務がある、そんな種族にうまれたの、詳しくはいえないけど」
「怪我、ひどいんですか?」
「……いえ」
腹部をみせるエラン。包帯がまだぐるぐる巻きにまかれていた。
「ひどくないわ」
そういって包帯をほどき始めた。
「ちょ、何を……」
とめようとするエランの前で瞬時にそれをほどき終えると、エランは腹部をみせていった。その腹部にはもはや少しの傷の痕跡すらなかった。そもそも傷などついていなかったかのように。
「細工なのよ、普通の人間に見えるようにね……私の先祖は、離異国に使えていた亜人だったから」
「償いですか?」
「そうかもしれないわね、でもやりたくてやっていることよ」
「それでも、あなたは私のために、傷ついて、私を助けてくれた、ありがとう」
「いいのよ……」
「亜人ということを、人と違うからだと能力をそんなにおおぴらにみせたのは、自分を責めているからなの?」
「わからない……私は、生まれたときから人と違った、そんな私に人は怖れをいだく」
「でも、義務なんてない、背負い込むことはないんですよ、わざわざ自分をおいつめたり、人の為に犠牲になるなんてこと、間違ってる」
「……」
エランは、そんなことを言われたのは初めてだった。その時代、亜人に対して怒りを持っている人間、気にも留めない人間が多い中で彼女は亜人を人間と同じように扱おうとしている、そんな雰囲気が感じられたのだ。
それから二人は仲良くなっていった。エランは成績もよく、人から好かれていたが亜人という事だけで、どこか敬遠されて恐れられている所もあった。だがクラノは、そんな彼女に他のふつうの人間と同じように接して、エランは彼女と関わっていくうちに、元来の鈍い感情や、罪悪感からくる義務感と距離をおくことができるようになったのだった。クラノにあう前のエランは、まだ表情があまりわからず、感情の変化もほとんどないような、ロボットのような人間だった。
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