哀愁。
それからもエランは彼らにからまれるようになった。だがエランは、ボロボロになって帰ってくるだけで、手出しはしなかった。というより、彼女は、何かしらのポリシーによって動いているようにみえた。そんなエランを、クラノはいつもそばでみていた。そしてあるとき、いつものようにいじめのような状況になったとき、ひとしれず彼らが集まる屋上で、その答えをしった。
「やられた分だけ、やり返すんだ、それが亜人としての自分の使命……」
A「……」
そのとき、いじめっ子の首謀者、最も背の高いAが、体をくねらせ、背中をぴんとはった。その全身から毛がはえ、細長い耳、顔と口が姿をあらわした。それは狼人間だった。
「お前、なんで人間なんてかばう、私は、以前、亜人という理由でひどい差別をうけたんだ、大の大人たちから、その復讐として弱いクソみたいな人間をいじめているんだ、いつまで邪魔をする、どうして、私たちにとどめをささない」
その変身をみた、とりまきたちは、一目散ににげだした。
「ば、化け物!!」
エランは、その女の首謀者に言葉を返した。
「怒りを怒りで返せば、さらに悪いことが起るだけだ、耐えられるものには、耐えて、よい行いは同等の行いで返す、それだけだ」
「知った風な口を!!お前は人を傷つける度胸がないだけだ!!」
そういって、Aはエランにとびかかった。エランは、右腕でその攻撃をうけとめる。しかし、相手は容赦せず、エランの腹に尖った右足の爪をつきたて、さそうとした。
「危ない!!!」
「!!」
その時、脇で見ていたクラノは思わずエランにかけよる。それに気づいたAが、にやりとわらって、態勢を立てなおすと、今度はクラノにとびかかっていった。
「うっ……」
敵の本気の攻撃を予想していなかったエランは腹部から血をながし、抑えた。その手をみつめる。そして振り返る。いままさに、クラノが敵に襲い掛かられる瞬間だった。
「クルラ・マゲイア」
「!!」
クラノがAの襲撃に体をまもろうと両手で覆い隠す、エランがその言葉をつぶやいた瞬間、一瞬、Aはクラノの方を振り返った気がした。
「……まさか……」
次の瞬間、Aは地面に、何か巨大な怪物に襲い掛かられたとでもいうように、ぺしゃんこにつぶれて叩き落とされたようだった。
「!!!」
クラノが驚いて、彼女に近づく、彼女は気を失っていた。結局その後警察や救急がきて、命に別状がない事がわかったし、ひどいけがはしていなかったが、むしろエランのほうが、腹部に重傷を負ったのであった。
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