地下へ

 地下への薄暗い細道への入り口は、古びた地下鉄の改札の形をしている。これが正式な入口ではある、地上の人間にとっては……。だが、地下に住むひとや、地下で商売をする人間には、別のルートがあるのを誰もがしっている。それはたいていスラムなどまずしいところにあり、戦争が終わったあとにつくられた法外のルートだ。その道で迷うことはないが、スラムやその道自体に危険が多く潜む。その先にある地下での違法な研究や過去の遺産の利用について、国は黙認している。なにせ、終戦まもなくまだ貧しさのある時代だったからだ。

「さあ、いきましょうか」

 モグラのマスクをつけなおして、案内人のチサがいった。二人はうなづく。

「はい!」

「ええ」

 改札をぬけると、足元の小さな証明が並んでいるだけの薄暗い道が始まった。どこまで続くか先が見通せず、底知れぬ不安感に襲われる。おまけに古びた区画ごとに設置されている緊急切り離し用扉が、誤作動の危険性を感じさせる。整備はされているというがどれほどお金をかけているのだろうか。一応正式な入口である、地下ステーションは国の管理がなされているが、何分古い施設なので、危険なことには変わりはないだろう。三人はその奥へ、ゆっくりと足を踏み入れたのだった。


 しばらく、何もない道が続いた。沈黙が怖いのと、クラノがまだあまり地下に来た事がないらしく、びくびくし続けていたがやがて徐々になれていき、独特の暗さにも目がなれていくのだった。

 「まずは危険のない地下の“地下街”の入り口に向かいましょう、比較的安全であって、地上とそん色のない商売がおこなわれています」

 「ええ、この街の本当の姿を知るには、まだ物足りないでしょうけど」

 そうやってクスリとエランが笑うと、少しクラノは不安そうな顏をしたのだった。長い道をぬけるとやがて、少しひらけた道で、あまりお金のなさそうな人々がものをうりつけてきた。編まれた服だとか、果物だとか、地下で育つ植物だとか、奇妙なみやげだとか。

「一つ買うと大変なことになりますから、無視してすすみますよ」

「ええ」

「……」

 クラノは悲しげな顏をしながら、仕方なくエランに手を引かれながらすすんでいった。やがて人込みが少しずつふえていき、巨大なコロニーが遠目に見えるようになり、そのコロニーを指さしたチサがいう。

「あれが“地下街”です、どの町にもあるでしょうが、いわゆる本当の地下と、地上との生活をつなぐ架け橋みたいな存在ですね」



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