緊張

「私はいつも緊張しているわけじゃないわ、これでもメリハリをしっかりしているだけよ」

「ふむう……」

 クラノは頷きながらも疑問を少し抱えたような表情をみせて腕組をして首をかしげていた。しばらく部屋でまっていたが案内人が登場すると、クラノが悲鳴にも似た声を上げた。

「よりにもよって、モグラ!!!」

「コラ、失礼でしょ」

「すみません」

 クラノが驚いたのも無理はなかった。目の前に現れたのはモグラ型のガスマスクをした、モグラがスコップで穴を掘るエンブレムをつけた、“モグラ”というグループの人間だったからだ。モグラというのは、この国の地下の案内人グループのことだ。しかし顏を隠していたり、そのほとんどが体のどこかをサイボーグ化していたり、秘密主義であることもあり、人々から忌み嫌われている存在でもある。

「でも先輩、どうして」

 クラノが小声で尋ねるので、仕方なくエランは返事をする。

「お金も安上がりだし、何より彼らほど地形に詳しい人はいないわ」

「でも、だまされるかもしれませんよ、彼らの悪知恵は有名じゃないですか」

「その時は、私がなんとかするわ」

 その時、モグラから柔らかな女性の声がひびいた。

「あのー、すみません、マスク越しで、私はモグラの……チサといいます」

 チサは丁寧に、お辞儀をしたかとおもうと、突然マスクをはずして、ツインテールの髪型と、薄い金髪の毛色の髪、太めのまゆげと、困り顔のような瞳、厚く小さな唇に、小さな鼻、おとなしそうなその顏をあらわにした。

「……」

「え!?え!?」

「あなたで正解だったわね」

 エランが黙ったかとおもえば、何もかもしっていたかのような口調で語るので、クラノはそれにびっくりして、強く反応してしまった。

「え?先輩、モグラさんはマスクを脱がないものじゃないんですか?」

「いや、彼女は……変わった経歴だとプロフィールにかいてあって……」

 そこまでいいかけたところでチサが言葉をひきとった。

「私は、元モグラで、今は個人として“ハグレモグラ”を名乗っています、自分で名乗っているだけなので顏をだしてもいいし、正式なモグラではないのです、かつてはグループの中にいたのですが色々ごたごたにまきこまれて、それが嫌になり個人で活動するようになりました」

「は、はあ、そうだったんですか、ご丁寧にどうも」

 クラノが頭に手を当てながら謝る。次に心臓にてをあててみると呼吸が早くなっているのを感じた。さっそくトラブルに巻き込まれたのかと思ったのだった。

 


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