クラノ

「先輩!おはようございますー」

「……おはよう……あいかわらず早いね」

 起きると同じ部屋のベッドですでに顔を洗い化粧をし、あとスーツさえきれば準備万端のクラノがそこにいた。

「先輩は昨日大変だったので、私が今日は朝食の用意をしましたよー」

「ぬん?」

 キッチンへむかう、まる焦げの目玉焼きにトースト。厚すぎるキャベツのみじん切り。

「前よりはうまくいったでしょ?」

「……て、あんたはいつも比較対象が以前の自分なのね」

 そしてテーブルで二人で朝食をとる。エランはまじめにあさの情報を球体携帯端末(リンク・スフィア)から仕入れていた。

「先輩昨日もすごかったすねー、一撃であいつを退治するなんて」

「いや、昨日は」

「わかってますよー、先輩も加勢したんでしょ」

「うーん……」

 クラノはエランの正体をしっている。それでいて冗談をいったり、逆にきをつかって彼女の亜人の面にはふれなかったりする。今回は冗談でいっているのか、はげまそうとしているのか判断がつかなかったため、なんとも対応ができなかった。クラノは人に気を使いすぎる、逆に人が気を遣おうとするくらいに。けれどそこぬけに純粋なのだ、失敗しようと、嫌な目にあおうと、すべて顏にでるし、大げさに表現する。そうした純粋さにいつも助けられている。自分が深くものを考えすぎて、時に自分の正義や過ちについて悩みを抱えるたびに、もっと無邪気に考えてもいいのではないかと思えるのだ。

「先輩」

「ん?」

「みて、うさちゃん」

「……」

 みると目玉焼きを器用にきりとり耳をつくって、兎の形にしている。

「なんで食べ物で遊んでいるのよ」

「い、いやあ、すみません、昨日色々大変だったしなんか朝からハッピーにいきたいじゃないですか」

「フフ、フフフ」

「あははー……」

 不器用だが、これが彼女流の励まし方なのだ。だがそこでエランはこほんと咳払いをして、真剣な顏をした。

「今日は地下に行こうと思うわ」

「地下?いきなりですか、それはちょっと……」

「わかっている、危険な事は重々、ただ昨日のことで気がかりな事があって」

「まあ、確かに町の人たちに信用されるのも時間かかるでしょうし、昨日の件はただ事じゃなかったですからね」

「地下には情報やら、陰謀やらがうずまいている、この街は確かにいい町かもしれないけれど、地下とのつながりがないわけではないでしょう、信用は徐々にかちとればいい、時間の余裕があったら表向きの調査も続けましょう」

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