騒動

 その後は、警察がかけつけたり、怪我をした人々が搬送されたり、様々な対処が行われた。その手伝いや協力に時間をさかれ、やがて夕方になってしまったので、クラノが今日は休もうといい、エランも同意した。だがこの騒動の最中、エランは少し黙っていることがあった。それは犯人の男“ダイヌ”という男らしいが、その男が警察に連行されるときに言っていた言葉。

「この町は、亜人を利用している、俺も利用して何が悪い……」

 理不尽な一言で気にする必要はないのだが、エランには引っかかる部分がある。確かに亜人は今でも“人々に利用されている”部分がある。亜人の末裔は皆、普通の人間より優れている部分があり、高度な文明の片りんを残しているせいで、人々から研究対象として、特異な存在として、稀有な目であるいは“価値そのもの”としてみられることがある。エランにはこれに違和感がないわけではなかった。かつて、人柱としてさしだした人々が、今では、旧文明の遺産として、歪んだ目で見られている。コアは裏社会で高価で取引されるし、あまつさえ、それをきっかけに旧文明の知識の復活さえ、もくろむものもいる。その状況をつくったのは、現在までの国の責任である。

 だが一方でエランは、“利用する、される”の部分にはいい部分もあると考えているのだ。人の能力や才能を使ったり、あるいは自分のそれらをかしたり、知識を共有したり。力を共有する。そんなことは、人間社会じゃ当たり前のことで、だからこそそれがうまくかみあっているときっと“豊かな暮らし”がそこに生まれるのだと。犯罪を犯す人間にもいろいろな背景や過去が存在するのだろうが、同意もなく利用するだの利用されているだのと考えて、アンバランスに人の能力を利用したり奪ったりとすることが言いわけがない。

 エランは、一次的に保護されるルノの小さな背中を見送った。亜人は差別などされていない。この町はいい町なのだとそういうけれど、負の側面はどこにでもある。亜人はあの男がいうように、利用されることが多い。その特徴として人間の一面、ある一部分を特化して、他の部分が脆弱であることが多いのだ。たとえば力の強い亜人は、論理的な思考が苦手だったり、考えることが苦手だったり、これは一例だが、そういった特性につけこんで、弱い部分につけこんで、強い部分だけ利用しようとする人間がいる。これは発展した社会の人間同士の関係として不適切だと思うのだ。

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