ある男

「ドヌラだ」

「はい?」

 エランが男をみていると、男がひとこと、それだけはっした。

「あんたたちだろう?ルノちゃんのことを調べてまわっているって、本人は付け回されていい迷惑だよ」

「いや、あの……」

 エランはネクタイを結びなおして、姿勢をととのえて、気を取り直して、その目の前の男と向き合った。

「助けていただいてありがとうございます」

「あんたのためにやったんじゃねえ、この子のためだ」

 ルノといわれる少女は、ショートヘアーで姫カットのような形、紫いろの髪色をしており、瞳は半目をひらいたような形だが丸く大きくかわいらしい、小さな鼻に、小さな口、弱弱しいからだ。亜人とはとても思えないような綺麗な容姿をしていた。

 目の前の男は巨体をゆらゆらゆらし、エランに小声で話しかけた。

「この子は警戒心が強いんだ、いまは敵対する風にふるまえ」

「あなた……私の味方をしてくれるの?」

「勘違いするな、この子はこんな風にしょっちゅう狙われる、亜人局の助けがあれば何かと安心なんでな、あとあんた……」

 男はエランの腕をちらりとみて、またエランの顏に目線を合わせていった。

「ここは街中だ、そう簡単に“力”は使わないほうがいいぜ、まあどうしようもないこともあるだろうが、能ある鷹は爪を隠せというだろう、君の力は相当なものだ」

 ドヌラという男とエランが小声で話していると、ルノが近寄ってきて、感謝を述べた。

「あの、ありがとう、ドラヌさん、あとそこの人も……」

「がはは、気にするな」

 ドラヌという割腹のいい男は、その体格にみあった笑い方をして、ルノの背中をポンと優しくおした。エランはまじめな顏をした。

「私は何もしていないわ……」

「でも、私を助けようとしてくれたでしょ、この町のひとたちも、みんなありがとう」

 そうしてふりかえり、集まった人々にも礼をいった。すると人々はたちあがり、怪我をしたものもいたのに、皆ルノをみて、優しい言葉をかけた。

「困ったときはお互いさまさ」

「ルノのためだもの」

「いつものことじゃないか、ルノの唄声にはいつも癒しをもらっているよ」

 そして、しばらく人々と話をした後ルノは振り返り、クラノとエランをみていった。

「あなたたち、亜人局の人でしょう?」

 クラノがこれはまずいとおもったのか、ごまかそうとする。

「い、いえそんな事はないですよ、私たちは別にあなたたちが忌み嫌うようなそんな……」

 エランはその言葉を遮るように、ルノに向かって言う。

「あれ?前にあったっけ?」

「いえ、雰囲気でなんとなくわかるから……」

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