エラン

 男は、鋭いつめをとがらせ、ひっかくような形でルノに近づいていく、大勢が男のからだにしがみつくが、その力をものともしない力でいっぽまたいっぽと掴んでいる人間ごと前に前に移動する。

「グウゥウ、グオオオオウ!!!」

 クラノはエランの片手を掴み、警告じみた言葉を放った。

「先輩、ダメですよ、こんな街中で、それにこれから調査なんですから、先輩の体力が……」

「わかってる……最終平気だから」

 そういうと、エランは男にしがみつき、エランも男にしがみついた。そしてエランは胸元から、小さな二股にわかれた棒状のものをとりだすと、男におしあてた。

「DHPS(亜人保護システム)―起動、スタンガン!!)

 そして男がそれに気づくと片手でエランの腕をつかんだ。エランが叫ぶ。

「いたい!!!折れる!!」 

 男は一瞬それにためらったかのようにみえたが、エランの腕を自分から遠ざけていく。エランは、一瞬鋭いめをして、全身の力をぬくと、男の手から片手をするりとぬいて、体を器用に回転させて、男の背後をとると、男の後頭部にスタンガンをおしあてた。

「グアアアアア!!!!!」

 男は一瞬、足をくじいたようになり、前向きに倒れていった。

「グ、グオオ」

 しかしすぐに立ち上がると、右手をおおきくふりはらい。体にしがみついている人間たちすべてをなぎたおした。そして遠吠えをした。

「ウォオオオーーーンンン」

 男はルノと自分との間にはいって、ルノを守っている人間たちをかきわける。ひっかかれ、おしのけられ、吹き飛ばされる人間たち。やがてルノの前までくると、ルノの胸元をつめでひっかいた。

「うわあ!!!」

 ルノは大声で悲鳴をあげる。ルノのやぶれた衣服から、首元がみえた。そして人々はその光景に注目した。ルノの胸元の青いコア。亜人の第二の心臓。一節には、莫大なエネルギーと、すさまじい頭脳のコンピューターが眠っているとされ、亜人と一緒に成長する部位。裏で取引されることも多いモノだ。それが狙いか。と誰もが理解した。

 エランは覚悟したように、ネクタイをほどいた。エランの右手が透明な鱗につつまれ、その手、ツメがするどくのびた。そして爪をとがらせ、エランは男の足に狙いを定めた。その瞬間だった。

《ドウン!!!》

 男は目の前で、力なく足からくずれおちた。そして頭は左をむいて、白目をむいていた。エランが上をみあげると、フライパンをもった割腹のいい太り気味の、エプロン姿の男がそこにたっていて、さきほど男の顏があったであろう位置にフライパンを掲げていた。

「この人が殴ったのか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る