「まあ、あなたたちは疑うことが仕事だろうけど、私はこの街に変なことはないとおもっているわ、ときたまこまった犯罪者がいるだけで、本当にいい街なのよ、亜人が危険なときには、人間もてをかすしね」

「はあ……」

 エランがコーヒーをのみ、ふと庭側のガラスドアに目を向けたその時だった。少し距離のある通り、ふと、見覚えのある顏、といっても書類やデータで何度も見かけた顏をそこに見た。

「ルノ……」

 それだけなら、エランは別に慌てて立ち上がったりしなかったが、ルノは誰かに、もっているバックを引っ張られている様子だった。大家もそれに気づいた。

「大変」

 それからしばらくして、透き通った綺麗な、しかし大声で、悲鳴が響いた。

「誰か!!助けてーーー!!」

 すぐに三人で部屋をとびだし、かけつける。だがそのころには人だかりができて、おそった人間(男)とルノはひきはがされていた。男は街の群衆によって確保され、身動きがとれなくなっていた。

「ね?まあちょっと危なかったけど、大丈夫でしょ、この町は」

「ええ……」

 エランはほっと胸をなでおろした。だが、確保されても男の言動はおかしかった。ぼろぼろの体。ぼろぼろの服装で、ブツブツと独り言をいっている。

「これで……なんとかなるとおもったのに、重要な仕事だったんだ……いや、まだ……」

 クラノが男の様子をいぶかしむ。

「先輩……油断しないほうが」

「ああ、わかってる」

 エランは、意味ありげにスーツのネクタイをつかんだ。その裏地をみるとびっしりとお経のようなものが書かれていた。

エランは、男の様子をみていた。それは一瞬の出来事で、なすすべもなく、目の前でおこったことだった。男は、器用に口だけで、むなもとから、奇妙なカプセルをとりだして、それをパクリと飲み込んだ。するとめきめきと全身から音がして、男の体はけもののような灰色の毛につつまれていき、男の顏はたてにつきだして、犬、というより狼そのものの鼻と口、巨大な牙をてにいれ、毛並みはきれいにうしろにながれ、やがてそこから耳が長くのびた。

「ウワオウッーーーー!!!」

 男は、狼男に変身した。その長い爪と、ふとい手足で、変身しただけで、彼をつかんでいたものすべてをはねのけてしまった。

「コア、コア……」

 エランは男の声を聞き逃さなかった。

「その子をまもって!!」

 ルノをゆびさして叫んだ。コア、とは一般的に、亜人の体の首元にうめこまれている、亜人の第二の心臓と呼ばれるものである。それが亜人の姿と人間の姿の切り替えを行うシステムだとされている。

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