ルノ
「彼女がここに来た時はねえ、むすっとして口数がすくなくて、やっていけるかと思ったが、だけど彼女の唄と踊りをみたときは、わたしゃひっくり返りそうになったわねえ、あの小さな体のどこからこんな魔法みたいな力強くも優しい声と、それから迫力のあるダンスが生まれてくるんだって、目の前で見た光景が信じられなかったよ」
「彼女もこの町になじむまでに時間がかかったんですか?」
「ああ、彼女には古い知り合いがここにいてさあ、今も仲良くしているけど、とにかくその子以外とはあんまり関わらなくてねえ、それに、いくら素晴らしい歌と踊りがあろうと、評判やら人気っていうのは難しいものがあるんだろうねえ、長いこと、成果がでなかった」
「なるほど」
エランは話を聞きながらメモをとった。
「そうさねえ、あなたたちがきになっている“例の件”からやっぱり、変化がおきたねえ、なぜかってわからないけど、雰囲気がかわったのさ」
「例の件というと……」
「やっぱり役所だねえ、いちいち細かいこと言わないと伝わらない、いや、ちょっとした冗談さ、まあ、例のことってあの子がやけどをおった、例のカルチャーストリートの大火事だよ」
それは、一年ほど前、カルチャーストリートといわれるいろんなストリートパフォーマが活動するモノや商店でごったがえす小さな通りでおこった火事のことだった。
「その火事で奇跡的に死傷者はゼロだったが、亜人の中には奇妙に傷をおったものたちがいた、その者たちは、その事件以来、評判がよくなったり地位があがったり稼ぎが増えたりした」
「うーん、妙といえば妙なんだけどね、あまり悪いことじゃないんじゃないかな、まさか、亜人だけを狙って火が動くなんてことはないだろうし」
「いえ、ありえます、封印されたかつての技術なら」
その時、エランは口には出さなかったが、エランのいうその技術というものの中には亜人の持つ特殊能力なども含まれていた。つまり、何者かが、何か意図をもって、亜人のみを攻撃し、あるいは攻撃させたということもありえる。エランはメモをとる。
「大変ねえ、たしかに変ではあるけど、変なことなんて、この世界、日常茶飯事よ、でもあなたたちはどうしても、後悔の念があるのよね、その、“亜人さん”たちに、それは、私たちの親の世代も同じなのだろうけど」
そういって、大家のレネーは遠くをみる。
「それもそうなんですが、一番は、今なお残る封印された悪しき国の悪しき研究が、悪いことに使われていないかどうか、それを監視しなければいけませんから、まあ私たち亜人局の主な任務は調査と保護、そうした厄介ごとがあった時点でほかの行政機関にまかせますが」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます