レネー

 その人は大家で、大家は、名をレネーといった。髪の毛をこぎれいに結び、めんどうみのよさそうなへのじの瞳。にこにこして、包容力がありそうな言動をとる。

「さあ、こちらへどうぞ、この町の人たちはねえ、初めは心をひらかないけど、時間をかければ必ず応えてくれるようになるから」

「はあ」

「先輩」

 クラノがエランの肩をたたく。

「ああ、電話で話したのは私ですが、こっちは後輩のクラノです」

「あら、かわいい子ねえ、おっとりとした雰囲気があるわね、あなたたちはペアで仕事しにきたのね」

「ええ、一人だと何かと大変ですので」

「そうよねえ、お役所といったって、亜人局は特別なところがあるし、大変なこともあるでしょう、そうでしょう、まあお二人ともどうぞおかけになって」

「ありがとうございます」

「すみませんー」

 二人はリビングの背の低い机と、ソファーベッドに座るよういわれ、遠慮なく腰掛ける。

「今コーヒーをいれてくるわね」

「あ、気を遣わないでいただいて結構ですよ」

「いいのいいの、この町のコーヒーはとてもおいしい、苦手な人だってすっとのんじゃうんだから、ね?」

 そういってウィンクされたので、その人当たりの良さと雰囲気におされてエランは答える。

「すみません」

 クラノが家の隅々をみわたし、ひとりごとのように口走る。

「素敵なお部屋ですねえ」

「ありがとう、まあなるべく清潔にはしているけどねえ、なにせ私はそこまでものにこだわらないし、あまり趣味も多くないから……」

 そういいながらもアンティークの品や、値打ちのありそうな絵画まで飾ってあるし、わりと造詣が深い、もしくはセンスがありそうな人の部屋だった。そうこうしているとコーヒーとお菓子を運んできてくれたので、少し遠慮をしていたが、進められるので少しだけ口にする。とても深い味がして、酸味も少しあるが、後味がほんのりと優しく、彼女の人柄が反映されたような味のコーヒーだった。

「私もここに来たばかりの時はねえ、苦労したのよ、ふさぎこんでいたし、けれどここにはわりと亜人の人も多いのよ、なんていうか、本当は包容力があって器が深いのに、ここの人たちは隠しているのねえ」

「ええ、亜人の彼女、ルノともそうして打ち解けられるといいのですが」

「あの子ねえ、とてもいい子よ、口数がすくないけれど、でもまあ、ここで信用を勝ち取るまでずいぶん苦労したみたいだしねえ、人にそれをとやかくいわれたり、あるいは奪われるのが怖いんじゃないかしら、身内もいない孤独な子だから」

「長寿、エルフの亜人……」

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