牛野小雪「バナナランド」書評
牛野小雪氏の新作であるバナナランドを読了しました。
今作は彼の最高傑作候補の一つになるかもしれません。
また説明が難しいストーリーなのですが、本作の主人公はユフという名前で、人間工場で働いています。はい、その名の通り人間の製造がなされています。
作中では今ぐらいの時代が中世と言われているので、おそらく西暦で言えば4000年ぐらいになるのでしょうか。世界観も価値観も違い、ディストピアなSFっぽい世界観ですね。
ここだと女性は遥か昔に絶滅した存在のようで、フーカという女性を発見したユフは頭がおかしい人扱いされてしまいます。(おそらく現代で言えば「カッパ見つけた」と言っているオッサンみたいな扱いかと)
本作、あらすじはすごく書きにくいんですけど、ちょこちょこと特徴的な箇所がありまして、たとえば一番幸せな時に死ぬのが良いとされている価値観であったり、各々にチップが埋め込まれていて互いが何をしていたか隅から隅まで検索出来るシステムがあったり、主人公がウーシャマ教という宗教を作ったら想像以上に広く浸透してしまったりなど、色々と見どころがあります。
ところどころ現代日本の風諭なんだろうなと思う箇所もあるのですが、そこは流石の牛野小雪というか、私ほど露骨ではない(笑)。何も気にしなければさーっと通り過ぎるんでしょうけど、気が付くと人に言いたくなるところがちょいちょいありますね。
でも本作は「アイデンティティーとは何でしょう?」というものに昨今のAIブームやらをからめてSFで取り組んでいるようにも見えましたし、読んでいて自分のアイデンティティーもなんだか分からなくなってくるのですね(笑)。ここは狙ったのか、それとも天然なのか。(後者の可能性が大いにあり)
最終的には一周回ってみたいな結論に落ち着くんですけど、今作については読者が色々と考えさせられるんじゃないですかね。
脚本っぽいアプローチの台詞表記もなんか斬新な感じがして、ゲームっぽくて好きでしたね。
タイトルから本作の中身の想像って多分不可能だと思うんですけど(笑)、セルパブ作品らしい尖った部分も持ちつつ、氏の安定した面白さで描き出された物語ですね。
読みやすい作品でもあるので、気軽に手に取ってほしいですね。牛野ワールドが存分に展開されています。
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