小林アヲイ「級長 畠中賢介の憂国論」書評

 KDP本の書評です。


 小林アヲイ氏の書いた「級長 畠中賢介の憂国論」ですね。


 本作はかなり雑多な要素がてんこ盛りになっているので一言で作品を言い表すのが難しいのですが、ものすごいざっくりストーリーを説明するなら、ある日級長(学級委員長みたいな)に任命されたハタケンこと畠中賢介は、慣れない役職に苦労しつつも山奥でファンタジーなお姉さまに出会ったり政治に参画したり、ヒロインにあたる女の子と小学生あるあるな恋愛の萌芽だけ感じさせて結局何もなかったり(笑)村の危機を救ったりと、そんな話ですね。


 なんだそりゃと言われるかもしれませんが、本当にそんな話です。


 前述の通り本作はかなり雑多なジャンルがおもちゃ箱のように混ざっており、キモは選挙運動に主人公のハタケンがまさかのエントリーをするところですかね。政治活動のところがやたらリアルで、よくよく見ると荒唐無稽なんですけど、話の流れで全然そうは感じさせない。


 主人公たちを小学生にするというところでそこは非常にうまくやったなという印象でしたね。


 それでいてお堅い話なんかでは全然なく、「蓬田の乙女」なる推定年齢1,000歳を超えるお姉さまも出てきます。


 このへんの組み合わせが絶妙で、いい意味で「遊んでいる」感があって、重さを感じさせずに後半になれば後半になるほど面白い展開になっていくのですね。おそらく狙って書いたのでしょうが。


 本作は本当に「作者がやりたい事を全部詰め込んだんだろうな」と思わせるだけのやり切った感が強く、かつそれらの要素が喧嘩していないのですね。


 あんまりネタバレになるとマズいので詳述は避けますけど、最後の方なんか妙にリアルな爆弾が用意されているし(笑)、商業だとまずやれないだろうなという要素をあえて全部セルパブでやるみたいな(笑)、そんな気概を感じました。一年かかったというのも納得な出来でした。


 一つ難を言うなら、後半になれば後半になるほど面白い反面、本作の本質が分かりにくい前半の引きがちょっと弱いのかなと。もっとラノベ的に「気付いたら先に進んでいました」的な読ませ方(まあ、それが何かと訊かれると答えに窮するのですが)をするような展開があった方が前半で読むのをやめる人を防げるのかなという感じもしました。


 でも良く出来ていましたね。ちょっと口コミしたくなるような出来ではありましたよ。


 ちなみに本作とは関係ないですが、過去に同氏の「ブレイブガールスープレックス」を読んだ事から、「セルパブで本格プロレス小説が出るとしたら小林アヲイ氏だろうな」という思いはありました。


 話はさらに脱線するのですけど、商業で出ていた「掃除屋 プロレス始末伝」という小説はプロレスファンにとってはかなり熱い内容なので、これをもうちょっとセルパブっぽくやりたい放題やりつつ、ガッツリプロレスだらけの小説が出たら絶対買うのになとは個人的には思っています(笑)。


 ご本人がもしこの記事を見たらぜひご検討を。


 話はだいぶ脱線しましたが、おそらく文庫本2冊ぐらいの量ですかね。かなりボリュームはありますけど一読の価値がありますよ。こういうセルパブでしか出来ない作品があるからセルパブって面白いんですよね。

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