第8話 初恋の愛しい君

【ジュール視点】



 シルバーのふわふわした髪に、ピンクの瞳。



 ずっと恋こがれていた初恋の君、ミシェルだ。私に婚約者が出来ると言ったあの日から姿を消した。




 この国は血筋が一番で王族の妃となると侯爵家以上じゃないと婚姻が出来ない……。


 ミシェルの家はなんで伯爵家なんだ!! これでは愛していても結婚が出来ないではないか!





 私の婚約者は東の国の第三王女だった。年齢的にも丁度いいし、東の国とは仲良くしていかなければいけない。いわゆる政略結婚だった。




 政略結婚でも兄上とその婚約者はとても仲が良い。いずれはミシェルを思う気持ちを第三王女に向けなくてはいけないと思った。



 第三王女の名前はプリシア・ドゥ・ロゼーと言った。

 “どうぞプリシアとお呼びください”プリシアは姿絵通りの美しく気高い女性だった。




 私と同じ歳だし国同士が結ばれる事はいい事だ。

 王族としての務めだし、プリシアと婚約する事は間違いではない。


 分かっている! ただミシェルが居なくなってから心にぽっかり穴が空いているだけ。




 ミシェルが居なくなってからは、しばらくの間食事が喉を通らなくなり、夜は眠れなくなった。ふわふわのミシェルの髪を思い出すと恋しくて眠れない。


 母である王妃に言われるまで体調不良である事に気がつかなかった。



 まずはちゃんと食事を取りなさいと言われ、無理やり食事を取った。


 夜も眠れるようにと、マッサージをされたり香を焚かれたりカモミールティーを用意された。



 そんな顔で第三王女を迎えることはできないわ! 健康を取り戻すようにと言われ、外に出て庭園を散歩する事にした。



 でも、どこもかしこもミシェルとの思い出ばかりで、そればかり考えてしまう。


 庭に出るとミシェルを思いだし、教師が来ていても、剣術をしていてもいつも見守って居てくれたのに……。

 


 なんでミシェルの家は伯爵家であんなに身分が低いのだ!と



 ミシェルに会いたくて、会いたくて、ミシェルの家であるアルディ伯爵を責めたこともあった。なぜもっと国に貢献して陞爵出来なかったのか!!  


 そうしたらミシェルと結婚する事が出来たのに……。



 ミシェルへの想いを引きずったまま、婚約者であるプリシアと過ごす事になる。





『こちらの庭園は素敵ですのね』


 ミシェルも気に入っていた場所……。



 こんな感情を持ち合わせたままプリシアと過ごす事になる。

 ある日、兄と婚約者のブリジッド嬢が、親睦を深める為のお茶会を開いてくれた。



「第三王女殿下、気に入ってくださると良いのですけれど」


 ブリジッド嬢が茶会を仕切ってくれた。



「ブリジッド様、王太子殿下、私のことはどうぞプリシアとお呼びください」


「光栄ですわ! プリシア様」



 場はブリジッド嬢が和ませてくれる。さすが公爵令嬢で将来の王妃になる方だ。 



「ジュール様のご趣味はなんですの?」


 プリシアに聞かれるも、趣味? なんだっけ、いつも何してたんだろう……。


「趣味? なんだろう……ごめん、分からない」


「ジュール殿下、お仕事ばかりではダメですわね。もっといろんなことに興味をお持ちくださいな。プリシア様と外出をなさってみてはいかがかしら?」


 ブリジッド嬢がフォローするように答える。


「今度ジュール様のお気に入りのお店に連れて行ってくださいまし。ゆっくりと王都の街を散策したいですわ」



「お気に入りの店? そういえば最近は街に行ってない……な」



「街には新しい店が出来ている。今度二人で散策しに行くと良い。若いメイド達は流行りに敏感だから教えてもらうと良いよ。私達もよく参考にしているんだ」


 兄上がフォローしてくれた。




 なんだろう、この虚無感。




「ジュール様は無口なタイプなんですね」



「ごめん。少し緊張しているんだ……じきに慣れるよ」



 プリシアに気を遣わせてしまった……申し訳ないことをしてしまった。



「プリシア様の美しさに気後れしちゃっているのかもしれませんわね」


「弟は少し恥ずかしがり屋なところがあるんだ。フォローしてやってくれるかな?」


 ブリジット嬢と兄上のフォローが入った。



「えぇ。交流を深める時間は必要ですわね」




 プリシアに変な誤解を与える前に、この状況を受け入れるしかない。そう思い、プリシアとの交流を深めていった。







「プリシア、今日は街へ行こうか?」


「わたくしブローチが欲しいですわ」


「それならいつもの店へ行ってみよう」



 交流を深めるうちに、会話もスムーズになった。虚無感はまだあるけれど一人になったらいろんな事を考えてしまう。


 プリシアは美しくてよく気がつき、よく働き、出来た女性だった。母もプリシアを褒めていた。



 プリシアは学園に入るまで、母である王妃と公爵夫人たちのレッスンを受けている。



 東の国との文化の違いに驚いていた様子だったが、郷に入っては郷に従えと言う言葉もあるから、慣れない我が国の文化に馴染もうと必死な様子だった。

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