第7話 明るい人
「どうしたの? すっきりした顔をしているね」
「はい、世界って広いなって思ったら惜しくなってしまいました。過去に囚われるのはやめてもっと違う景色が見たいなって思いました」
ウェズリー様のおかげだと思う。私の世界は狭かったんだと思う。家と王宮しか知らなかったもの。
「そうか! またどこかへ行こう?」
「はい」
その後もウェズリー様の言葉に甘えて、いろんなところへ連れて行ってもらった。
それは湖だったり、丘だったり、川だったり変わったところでは、温泉だったり。
そして、いろんな体験もさせてもらった。
釣りやフルーツ狩り、芝生で坂になっている場所に敷物を敷いて滑り落ちたり、乗馬だったりと私の生まれ育った国ではさせてもらえないような体験ばかりだった。
そうしたら二年はあっという間に過ぎて、国に帰る日が近づいてきた。
「帰りたくないなぁ……」
小さな声だったと思うけれどウェズリー様には丸聞こえだったみたいで……
「理由を聞かせて」
やっぱり聞こえていたみたい!
「この国が大好きだし、ウェズリー様に会えなくなるのは、寂しい、と思うの」
「私のことを少しでも気にかけてくれるようになったんだね」
少しどころではなくなっていた。
お別れが辛い。
十二歳の時にジュール様とお別れした時よりも今、十五歳になってからウェズリー様とお別れする方が精神的に辛いと思った。
楽しいことが多すぎて……。
「こんなことならウェズリー様と知り合うんじゃなかった」
思わず涙が溢れてきた。気持ちが溢れるように涙がはらはらと落ちてきた。
「別れるのなら寂しくなるけど、泣いてくれるって言うことは別れたくないってことで良い? 私は前向きに考えてしまう傾向にあるから、今ミシェルが泣いているのはとても嬉しいよ」
手を重ねられた。そして手を握られると涙が拭けないからまた涙が溢れた。
「はい」
「じゃあお別れではないね?」
「は、い」
「約束が欲しい。私と婚約して欲しい」
「良いのですか? 本当にわたくしで」
「ミシェルが良いんだ、良かった! 婚約に持ってこれた!」
にこっと笑うウェズリー様を見たら温かい気持ちが芽生えた。
次の日少し目を腫らした状態のまま、陛下と王妃様にお会いしたら婚約はすぐに決まった。
お父様が近いうちに迎えにきてくれるのでその時に詳しい話をするということになった。
侯爵様や叔母さまも喜んでくださったし、ローランお兄様とリベロ君は結局そうなったか! と言った。でもおめでとう。という言葉をくれた。
「ウェズリーは良いやつなんだ」
ローランお兄様が言った。
「邪魔していたくせによく言うよ」
リベロ君が言うと
「これくらいの邪魔はさせてもらうさ。当たり前だろ、ミシェルは妹同然なんだ! 簡単に渡すかよ」
侯爵様と叔母さまは呆れているようでした。
数日後お父様が迎えにきて、ウェズリー様とのことを直接伝えると、良い話ではあるけれど寂しいとショックを受けていた。
陛下との話し合いで、三年後私が学園を卒業したらこちらの国で結婚するということに決まった。
二年間一緒に過ごしてきたウェズリー様に、これから遠距離で会えなくなるということに不安を感じていることを伝えた。
依存はしたくないけれど、一時的にでもお別れは辛いもの。
「留学することにした。二年間だけど大学? 作物の研究をすることにした。素晴らしい教授がいるそうだし、ミシェルの通う学園の敷地内に研究棟があるから一石二鳥だ」
ピースしながら笑ったウェズリー様はとても頼れる人だと心から思った。
王宮での暮らしを勧められたウェズリー様だったけど、それを断り王都のうちの屋敷の近くに良い物件があったらしくそこを借りることにしたようだ。
「うーん。広くもなく狭くもないって所かなぁ。でも広すぎると警備が大変だしミシェルの家から近いし悪くない物件だ!」
抱き寄せられ額にキスをされた。
最近のウェズリー様はスキンシップが多くて恥ずかしい。
でもそれも含めて嬉しいと思った。
ジュール様を見ても辛くならないと思う。三年間南の国に行かせてくれたお父様とお母様には感謝しかない。
また三年後に南の国へ嫁ぐことになるから両親には思いっきり甘えて、親孝行もしたいと思った。
それから数日後、入学式を迎えることになった。
朝と帰りはウェズリー様の馬車で送ってもらうことにした。一緒に通えるのは嬉しい。
登校中に一緒にいてくれるとなると心が安らぐから。
学園登校初日、馬車を降りようとしたらウェズリー様がエスコートしてくれた。笑顔でそれに答える。
「それじゃ行ってきます」
「うん。また帰りに」
「こちらで待ち合わせをしましょうね」
ウェズリー様に手を振って学舎に向かった。
「まさか……あれはミシェル……? やっと会えた!」
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