第9話 学生生活
「ミシェル様! お久しぶりです。わたくしの事、覚えていらっしゃいますか?」
教室に着くなり、ある令嬢から声をかけられた。
三年前までは王宮によく遊びに行っていたから、その時に歳の近い貴族達との交流はあったし、ジュール殿下の友達も顔見知りだった。
「まぁ、本当にお久しぶりですわね。お元気でしたか?」
南の国に行って三年……三年って長いのね。成長して皆の顔が変わっていた。
急にタイムスリップしてきたかのような感覚だった。
「急にお姿を見なくなったので心配しておりましたのよ」
「それはご心配をおかけしました。南の国にある叔母の家におりましたの」
お父様は私がどこに居るのかは言っていないと言っていたもの。
「まぁ! 南の国に? どんな所ですの?」
「温暖でとても過ごしやすくて、美味しいものがたくさんありますのよ」
「そうですのね。それは一度訪れてみたいですわね!」
「旅行で訪れる方も多いのだそうです。リゾート地も開発されていますし、オススメですわよ」
それから数人に声をかけられたけれど、名前を言われて、あぁ! となる事が多かった。成長期ですものねぇ。
私は何故か皆さんに声をかけてもらえて、変わっていないのかしら? と思って聞いてみると、髪の毛の色と瞳の色で分かるのだそうです。
あぁ……なるほど。ウェズリー様もそれで覚えていたと言ってらしたもの。
入学式があり学園長様のお話と、生徒会長様のお話を聞いて、式は無事に終わりました。
学年が違うと、学舎も違うし、式があるホールでの座る場所も違うことから、ジュール殿下にはお会いしませんでした。
帰り支度をしていると、お茶会をしましょうと声をかけられました。
良いですね。とお答えしました。
朝声をかけてくださった子爵令嬢クレール様でした。
「失礼ですけれど、ミシェル様には婚約者はおられますの?」
「えぇ。おりますわよ」
にこりと笑ってお答えしました。
「そうでしたのね!」
「クレール様のご婚約者はシモン伯爵のご子息でしたわよね?」
「はい、覚えてくださっていたのですね」
「仲睦まじい姿をよく拝見いたしましたもの」
「子供の頃からの腐れ縁というか、はっ! ごめんなさい。悪気は……」
語尾を弱めるクレール様。
「……お気になさらなくても良いのに」
多分ジュール殿下の事を思ったのでしょう。小さい頃からの腐れ縁……に反応したんでしょうね。気を遣わせてしまったようです。
「すみませんでした。ミシェル様のご婚約者様のことをお聞きしてもよろしいですか? 私ご婚約をしていた事を存じ上げなくて」
「まだ発表はしていないんです。ですから皆さん知らなくて当然ですもの。とても明るく朗らかで、一緒にいると元気をもらえる優しい方なんですよ」
「そうなんですか! ミシェル様のお相手の方ですもの、素敵な方なんでしょうね」
「ふふっ。わたくしには勿体ない方なんですよ。それに……イケメンですし」
「きゃぁ~。ミシェル様ったら」
「ふふっ。内緒ですわよ」
ウィンクすると、頷かれた。久しぶりの顔見知りとの会話は意外と楽しいものだなと思った。気を遣わせてしまったけれど、ウェズリー様の存在があるから今ここで笑ってお話が出来るのだと思う。
早くウェズリー様に会いたいなぁ……そう思い、待ち合わせの場所へ急いだ。
「ウェズリー様! お待たせしました」
「そんなに待ってないから気にしないで。カバン持つよ」
そう言われて素直にカバンを渡すと、自然に手を繋がれた。
「今日婚約者はいるのかと昔馴染みの令嬢に聞かれましたので、ウェズリー様のお話をしたのよ」
「私のことはなんて言ってくれたの?」
「とても明るく朗らかで、一緒にいると元気をもらえる素敵なイケメンです。って答えました」
「うん、間違ってないな」
「ふふふっ、でも正式な発表はしてないからと名前は伏せておきましたけれど、時間の問題ですね」
「手を繋いで帰るくらいだからね、バレても問題ないよ。私がいる事を示しておかないとミシェルは可愛いから狙われる可能性もある」
私はそんな浮気性ではありません! 少しだけ? 心外です。それにウェズリー様より素敵な人なんて知りませんもの。
「ウェズリー様は私のこと聞かれたらなんて答えてくれますか?」
少しだけ甘えるように聞いてみた。ウェズリー様こそモテるに違いないもの!
「うーん。そうだな……地上に舞い降りた天使とか?」
「……恥ずかしいからそれは言わないでくださいね」
予想外の展開に照れを隠せない。
「私の前に突如現れた女神にしよう」
「普通でお願いします」
照れ臭い時間だけど楽しいと思った。
「マイハニーにしとこう!」
「笑われますね」
何のことか分からなくなってきたけれど、こういった冗談を真剣な顔でウェズリー様は言うので、楽しい時だ。
いつもウェズリー様から嬉しい言葉を貰うので、つい言ってみた。
「いつも太陽のように眩しいウェズリー様を愛しても良いですか?」
「え!」
っと言って驚き固まっていたけど、すぐにウェズリー様は
「嬉しいよ!! そんなの確認しないでよ。マイハニー」
チュッと頬にキスをされた。
「ここ! 学園内! 次したらもう知らないからっ」
「ははっ、ごめんごめん。嬉しくてつい」
真っ赤な顔をしながら、幸せそうに歩く二人を見ている男がいた。
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