第37話

「空港まではもうすぐだ!大人は子供手を握って先頭に付いていくんだ」


 数百名の避難民を誘導するアルトは常に屋根の上で不測の事態、特にソラがリッパーに敗北したときに備え周囲の警戒を続けるもさっきの光といい山の付近で突如上がった煙は何かが地面に叩き落されたようなものだった。

 振動と衝撃音が避難民たちの不安を一層不安を掻き立て子供はパニックに陥ってしまう。

 できるものなら俺も戦闘に参加した方が彼の負担が減り三対一と俺らの方が有利になる。けれどもここでこの場を俺が離れることは彼らにとってはより不安に思うことだろう……なんとか島の象徴という肩書を得て彼らをまとめられたというのに俺が居なくなったらこちらでは大陸のお姫様の負担が増えてしまう。

 島のお姫様は外見だけでなく中身も美しかった。困っている人を放っておけない性格のおかげで子供たちは救われている。


「島の憲兵隊はいるか!」

「お、俺だ!俺は憲兵として三年だけ訓練をしてきた!」

「よし、十分だ!全員俺の近くに集まってくれ」


 俺の問いかけに勇気を振り絞って答えてくれるものが数人いた。

 彼らも何か行動をしなければいけないと薄々勘付いていたのだろうが、こんな事態を訓練所は教えてくれない。なら前例を作るしかないだろ。

 俺はまず彼らを列から離脱させ言葉に気を付けながら命令を下すことに集中する。


「訓練経験は?」

「一年と三か月……」

「三年のうちに逃げちまった」


 全員が五年以下と絶望的な経歴であったが、彼ら以外の憲兵隊あるいは大陸のよこした防衛隊はすでに機能しなくなっているし、この島の自警団の連中はリッパーの口車に乗せられてあちら側についてしまったみたいだ無理もない。

 俺は彼ら銃の組み立て解体はできる程度の集団を上手く利用できなければいけない。


「誰か一人にはこの列の先頭を任せる……俺だけでは捌ききれないからな。そして他はここより北東に残された警察署に向かい武器を回収し再び列に合流するんだ」

「き、聞きたいことがあるんだが……この島にバケモノはいるのか?」

「……それは俺にもわからない。だが、見つけたらヤツらに気が付かれる前に逃げるんだ。ヤツらは筋肉の塊ですごく強そうに見えるが、脳みそまで筋肉が詰められている。何かあれば音を立てずにそっとその場から離れろ」

「できるか?俺らにそんなことが」

「できるとも……勇気を出して志願したキミたちならできる」


 その瞬間、少しだが彼らの顔には希望の光が浮かんだ。

 何かを成し遂げるには下を向いていてはいけない、できると錯覚しなければ足を動かす勇気は得られない。特に今のような皆がパニックになっているときは誰かが先頭に立ち後ろの人間に示さなければいけないんだ。

 だが、一人の志願者が言う通りこの島にバケモノが居るのかは俺もハッキリしていないため彼らだけで向かわせたくないという思いもある。

 これから武器を調達するにしてもその道中でヤツらと鉢合わせになったら?武器を持っていたってヤツらに通じるのは能力だけだが、俺がこの場を離れることはできない。


「ああ、俺たちあんたにそう言われたらできる気がしたよ!なあお前たち!」

「「オオオ!」」


 一人考える俺を置いて彼らには自信が生まれた。

 何にも負けないと決意した人間は強い、かつての俺も負けないと決意したから今の肩書がある……彼らなら絶対にできる。

 俺は彼らを信じ彼らを送り出すが、彼らも自ら志願した者であってもこの島の住民だ。俺の守る優先順位には当然彼らも入っている。念には念を重ねるために俺はアイツを呼び出すことにした。


「おいアスタ聞こえるか?聞こえるなら俺の前に現れろ」


 すると脳内に彼女の幼い声だけが流れ込んでくる。俺の要求は彼女に直接姿を現してほしかったモノだが、まあいい。


『なんだ凡人』

「今お前はどこにいるんだ」

『私は私の仕事を行っているだけだ……貴様の島の状況は理解しているが、私がわざわざ出向くほどでもないだろう』

「何を言っているんだ……お前?世界樹はすでに復活して恐らくウッド……ソラは負けた。世界樹の権限はあの男が持っている、これを最悪と言わないならなんていうんだ?」

『案ずるな……まだ完全な世界樹の復活は成功していないし、権限がリッパーにすべていったわけではない。ソラは雑草のようにしぶとくまだ耐えているよ』


 そうであっても、と言葉を続けようとした俺を制して女神はある映像を俺の脳内に直接流し込んだ。

 いったいどこの映像なのか、勘のいいアルトにもソレを予測することはできないし、検討のつかない意味不明な映像に困惑する。

 一人の男、だろうか……包帯で全身を覆ってはその間から覗く深紅の瞳がこちらを見つめていた。なぜこれから俺たちの目指す場所にソイツが立っているのか、燃え盛る空港を背後に彼はただ佇んでこちらの様子をうかがっている。

 俺たちの向かう場所にソイツが待っている。だが、ソレをこのタイミングでそれも案ずることはないと見せつけてきたアスタの考えが彼にはわからなかった。


「今のはいったい……」

『さあ?現在の映像かそれとも違う世界でのことなのか……私は一つの記憶を見せただけでソレがどこに位置するかは私にもわからない。私は今、これを見せろとヤツに命令された』

「世界樹か」

『そうだ……私の行おうとしていることをすべて知っている。そして、すべて管理しているヤツは私に何をさせるつもりなのか私にもわからないが、お前にこれを見せた理由は何かしらあるのだろう』


 すべての生命の行動を管理、監視を行うとされる世界樹は俺たちに運命を見せる。俺がこのあと何を行い何を成すのかヤツは知っていて今までもソレを実行させてきた。

 偶然を運命という者もこの世には居るが運命とは運ばれてきた必然であり、偶然事態もその運ばれてきた運命の一部に過ぎない。全てはヤツが管理するモノで俺を嫌うならヤツは俺をこの世から消すだろう。

 その手段がソイツであるなら今、見せた映像で俺に覚悟をさせるということだ。

 死に向かう覚悟、世界樹に反逆するために超えなければいけない壁と運命に歯向かう覚悟。

 面白い……。俺の顔には自然と笑みが浮かんでいた。


『なるほど……なるほど、理解した。どうやら私は問題児を拾いやすいようだな……もし何か起きても私の名を出すなよ』


 そんな保身の嘆きなど気にする様子もない覚悟を持った彼はいつの間にか戦いの目に変わり、彼らの向かう先であるソイツの待つ空港に一足先に向かい始めた。

 彼の使う血を利用した契約によって筋力は大幅に上昇し、特に脚力は平屋の連なる空港までの道沿いを障害物なく飛び越えることができるくらいには強化されている。そのおかげで彼が目的の場所に到着するまでに必要な時間はかからなかった。



 ソイツは今から自分の目の前に現れるであろう男を待っていた。

 この島に姿を現した世界樹によって直前に見せられた映像、脳内に直接流れ込んできたソレを見てソイツは男の正体を知った。ソイツもよく知る男だった。

 だからソイツは彼と戦うことは避けていたのだが、それも上手くはいかず、結局は世界樹によって定められた未来を受け入れることしかできないと半ば諦めにも近い感情を抱いていた。

 男は空港の滑走路に飛び込んでくる。戦闘機の着陸のようにだ。

 ソイツは誰もいない、いやさっきまでは威勢のいいヤツらが沢山いたロビーで足を組んで挑戦者を待つチャンピオンであるように悠然と構えていた。

 この姿、この格好こそが彼の理想であり彼の目指す男に習ったモノだ。

 そして、ようやく彼の前に挑戦者チャレンジャーが現れた。映像で見た通りの登場、滑走路に彼の足跡……着陸の痕跡として二本の直線が描かれ砂埃や煙がロビーのガラス越しで見える景色を遮る。

 ソイツは重たい腰を上げロビーの中にまで転がってきた握り拳程度の石ころを拾うと彼の真正面に立つことを決意する。

 煙によって遮られた景色が晴れると二人は初めてお互いの顔を見ることとなる。と、言ってもソイツの表情や顔は汚れた包帯によって確認することはできないが……。


「ここに来た理由を問おう、キミは何をしにここへ?」

「俺はこの島に住む住民を避難させるためにここへ来た。お前がソレを妨害するってなら彼らが来る前にお前をここで倒す」

「なるほど……ではキミは挑戦者だな」

「はぁ?」

「歓迎しよう挑戦者チャレンジャーキミは今、私に挑戦する権利を得た。これよりこの場は私とキミの決闘の場となる。指定は石だ」


 先に動いたソイツは右腕の包帯を外すと現れた腕に巻きつく黒い蛇の刺青が現れると、アルトはそれを見て力を使うための紋章で動作があれば何かが発動すると考えていた。しかし、ソイツはアルトが考える以上に自らが操る能力を知っている。

 詠唱なくしてソイツの力は発動し、空港を取り囲むようにドームが発生した。

 古い結界……島に張り巡らされた物よりも古くて強力な境界が現れ俺とソイツの二人だけがこの中に存在する。簡単に出られないことはアスタに声をかけても反応がないことから察しがつくが、これほどまでに強力な物であるとは予想外だった。


「こいつは随分古い物をお使いで……俺もあんまり詳しくないが、ソレ……魔素だな?古の禁忌と呼ばれた魔術を使える人間には体に紋章が現れるとは聞いたことがあるが、本当に存在したとは」

「これは私が見て盗んだ物だ……言わば借り物で贋作。完全には近づくことのできないほどに遠い物であるがこの世界の住民にとっては手に負えない物ばかりであろう」


 まるで見せびらかすようにソイツは蛇の刺青が入った右腕をこちらに向けた刹那、全身を駆け巡る危険信号。俺の体が脳がヤツから感じる脅威に対し自然と無意識のうちに距離をとっていた。

 ソレは正しい動きだった。そうでなければアルトの体は地面と一緒にこの世から消滅していたであろう。

 彼の回避行動と同タイミングでソイツの魔術の一つであろう物によって地面が抉れ、四方八方に飛散するなどの破片は急激に方向を転換しすべてがこちらに向かって飛んでくる。こちらも能力を発動させていなければ破片によって何かしらのダメージを負っていたであろう。


「ほう……お前の力、借り物なのか。また、私とは違った面白いものを使う」


 アルトを中心に地面から現れた光の鎖は彼の体を守るように自我を持って動いていた。それは神との契約の鎖、アスタとは違う彼の友人である神との契りである。

 彼が友人を信仰の対象とする限り、友人は彼を守り通す。それが契約の内容である。


「……力を貸してくれ」


 突如ソイツの攻撃によって周囲に散らばった破片を手に取りソイツに向かって走り 出したアルトは自らの手のひらを傷つけると流れる血液を地面に飛散させ祈りを唱え始める。

 彼の足元、進行方向に飛び散った血液は意思を持ったように地面の上で蠢き踊り始めると無数の鎖が現れた。


『イクシオ!』


 地面から現れた鎖はソイツの体に巻き付いて動きを止める。動こうと足や腕に力を入れてもビクともしない鎖にソイツは抵抗しないことこそが正しいことであると見抜いたためにそれ以上抵抗はしなかった。

 罪人を縛り付ける鎖イクシオ、ソレには殺傷能力はなく拘束することしかできないただの鎖であった。しかし、その鎖は意思を持ちある条件を満たした者だけを奈落へと引きずり込む選定者となる。

 罪人を選別するのは神の役目であるが、神は罪を知らない。罪を犯した者こそがその罪を知る。

 ソイツの体に巻き付いたイクシオはソイツの選定を行う。

 ソイツの持つ膨大な知識、経験、そして罪の数々を遡りソイツの罪を知る。

 いつもイクシオを使用すればアルトの勝利だった。彼は罪人を裁く執行官で彼の前に現れる者はみな罪人であったために、彼はソイツの持つ罪を自らの瞳で確認していた。


「いったいどれだけの物を神から借りているんだ。瞳だって借り物なんだろ」


 罪人を裁く執行官の瞳は罪人の持つ罪を見ることができた。アルトの左目に現れた正義を象徴する鷹の紋章、鋭い瞳ですべての本質を見抜くとされる鷹は四大陸では正義の象徴とされている。

 これもアルトは神から借りていた。


「俺はコレクターなんだ。珍しい物は俺のすぐ傍に置いておきたくなる独占欲もある」

「フフッ……私と同じ、か」


 しかし、アルトは違和感を持っていた。彼の瞳はソイツの持つ罪をすべて見せてくれていて、ソイツは奈落に引きずり落される条件を満たしていたというのに鎖は一切反応を示さない。

 そればかりか逆に自分の魂がソイツの方へと引き寄せられていた。

 罪なき者を裁くことは許されず罪なき者を裁こうとした者にはその資格が剥奪される、という条件であるためアルトは常に瞳の力で罪を確認してからソレを実行していた。今回も同じくソイツの持つ罪を確認し条件を満たしていたから鎖を使用したというのに何が間違っていたのか……。

 ヤツは罪を罪だと認識していない?それとも他に何か原因が?

 アルトの表情からは次第に余裕の色が消え始めている。


「何かおかしい……と思うことでもあったのかな挑戦者チャレンジャーよ」


 逆にソイツは余裕どころか勝機を見出している。


「私の結界、私と挑戦者チャレンジャーであるキミだけが存在することのできる決闘の場。挑戦者であるキミの勝利条件は私の指定した武器で私を倒すこと……だが、この条件は私にも適用され私自身もその指定した物で戦わなければいけない」


 指定した物……?ヤツは何を指定していた?


「私が指定した物以外で相手を傷つけることはできない……キミの鎖は私を奈落に引きずり込むことはできないのだよ」


 ソイツが拘束されていた右腕の自由な指先だけを動かしたその瞬間、俺のふくらはぎと太股の数か所を同時に貫かれた。

 そのとき、一瞬であったが確認できた塊。ソイツが俺を攻撃できる唯一の手段である指定した物を確認できた。


「石か?!」


 先ほどの攻撃、ソイツが俺に向かって最初に打ち込んできた物は石だった。それによって発生した破片も滑走路の一部、大量に発生した石であったから俺に攻撃できたということか……俺も鎖を出すために破片で手を傷つけたし、ソイツにとって石の指定はこの場では無限の武器となる。

 ソイツは俺にとって未知数の魔術を使用する、だから物を浮かせたりソレを攻撃に使用したりもできるとなると俺には対処することができない。実際、両足をすでにやられている。


「ム……?また私の邪魔をするつもりなのか、ここに来るのか?ソレは面倒だ」


 ソイツは何かを感じ取ったらしい、独り言をつぶやきながら足を負傷した俺を置いて新しい存在への警戒を行っていた。まるで負傷した俺はもう敵でないと言わんばかりに俺を意識の外へ放り出している。

 俺の脇を素通りして空港の滑走路の中心に立つと先端から広がる大陸に向かっての海を睨みつけていた。

 何かが来るというのは俺にも感じ取れる。それが敵であるのか、味方であるのかまでは判別はできないが明らかに人ならざる者がこちらに向かって急速に向かっている。しかもその気配は一つではない。

 島の外……この空港に向かっているのは速度はすべてバラバラであるが、俺も知っている一つの気配はまっすぐこちらに向かっている。

 彼がこちらの敵であれ味方であれ目の前にソイツが居ることは好ましくはない。やるなら今なんだ、今しかない。

 俺は先ほど自らの手を傷つけるために拾った石をソイツに向かって投げつける。当然そんな物にソイツが当たるはずもなく視認することなく避けられてしまったが、これでいい。


「まだキミの命はあったんだな。今のが最後の攻撃ってのでいいのか」

「ああ……俺からの最後の攻撃でいいぜ。のな」


 攻撃は簡単に避けられた。しかもこちらに視線を向けることなくだ。しかし、俺はそんなことどうでもよかった……俺の今の攻撃でソイツが倒せることはないとわかっていたし、俺の力だけではソイツには勝てない。戦いの経験値が違うってのは明確だからな……。

 俺の攻撃の目的はソイツを倒すことじゃない、その先だ。その先に存在するこちらに向かってくる存在に対しての物だ。


 突如、その存在から感じ取れた気配が消えた。いや、急速に近づいてきたことで察知が追いつかなかったんだ。


 ソイツが誇る決闘の場、他の者の干渉を一切受け付けないと豪語していた結界はその男によって破壊され漆黒の拳と燃え盛る拳がぶつかり合った。


「また貴様か!また私を邪魔するのか!」

「残念ながら俺とお前は運命でつながっているようだな!この前の決着をつけようじゃないか」


 今までの冷静さを失い怒りを露にするソイツとは対極的にホムラの表情には喜びがあった。

 二人のぶつかり合い、衝撃は凄まじいもので姿勢を低く地面にしがみ付かなければ浮き上がった体がどこかに投げ飛ばされてしまう。その光景を見れば誰しもがその男の別名が『地上最強の能力者』であると認めざるを得ない。

 その炎は影を飲み込もうとしていた。


『紅焔炎舞〈炎帝〉』


 最強による一撃と同時に数発の拳が叩き込まれればソイツにも余裕はなくなる。

 ソイツ包帯で覆われた体を貫く炎の柱は地面を焼き焦がすだけでなく液状化させマグマを出現させた。そんなものを直接体に食らったソイツは口から黒の混じる血を吹き出しながら腕を広げ大の字に倒れる。

 誰もがこの瞬間ホムラの勝利を確信するが、当のホムラはあまり納得のいかない表情であった。炎であるのに不完全燃焼であるといったところか。


「また逃げられたか……」


 彼の言う通り地面に倒れ包帯が燃えるソイツの姿はすでに黒い液体となって蒸発し始めていた。体がこんなにも燃え尽きるのが早いとは考えられないのでこれはダミーで間違いない。

 ソイツはすでにこの場から離れてどこかで気配を隠している。しかし、今はこの状況の確認の方が重要だと判断したホムラはアルトに包帯を渡しながら現在島で起きていることの確認を行う。


「ウチの大陸の姫様は?」

「これからこちらに来るはずだ」

「ヤツの正体が何だったかわかったか?」

「いや、俺にもさっぱりだ」

「そうか……では、ウチの新人は今どこに居る?世界樹の復活したっていう話はすでに聞いているし、ここにきてすぐソレを目視で確認できたが肝心のあの二人が見当たらない」


 アルトの視線の先を見れば何が起きているのかホムラには理解できる。彼の視線の先、島の中心であろう場所では戦闘によってだろう、黒煙が柱のようにいくつも上がっていた。

 そんな状況を見ればあの場でどんな人間が誰と戦っているのか予想することはできる。


「これより俺とロムの二人で危険度指数SSダブルエスクラス指定のリッパー討伐を行う。お前たちはこの島に逃げ遅れた島民が居ないか手分けして探せ……作戦の指揮はすべてジードに任せろ、ジードお前は無線で常に情報を送り続けろ」

「す……すいません。お、俺……もうとんでもない気配を三つ見つけているんですけど……」

「おそらくリッパーとウッドとメイドだろうな……場合によっては全員俺ら二人で戦うことになるかもしれないな」


 そんなジョークをロムに投げつけるがロムは絶対に拾いはしない。前回の任務以来ウッドは彼のお気に入りであった。

 入院中のライヤと留守を任されたルカと幹部は俺ら2名、そして総勢13名と多くはない特科のメンバーであったがしっかり気配を察知して相手が自分より強いと感じ取ったら逃げることを優先できる判断力を兼ね備えた優秀なメンバーだけを連れてきたのでホムラには不安な要素はなかった。

 彼がたった一つ不安に思っているとしたらさっきのジョークがジョークで済まなかったらのことだけだ。


「全員リッパーやバケモノと出会ったらすぐに撤退しろ。余計な戦闘はいらない、お前たちの任務はこの島の住民を全員見つけることだ」

「「了解!」」

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