第33話

 ソイツは雇い主に言われた通り役割を果たせなかった議員を暗殺し島に向かっていた。

 今やソイツを操っているのはソイツ自身であるのか地下の雇い主か、それとも彼をこの地に再び顕現させた世界樹なのかソイツにもわからない。

 ソイツはただ戦い、そして遺伝子に深く刻み込まれた復讐と命令として『何か』を阻止することしか生きる意味を思い出せなかった。

 包帯の下にあるのは体温を持ち皮膚が貼られ痛みを感じる神経の通った人間と同じ生き物なのか、悪魔であるのかバケモノであるのかソイツにもわからなかった。世界樹によって顕現し、戦うことを命じられたソイツは一年間の間に273の魂を取り込んでいる。


「俺を呼んでいる……世界樹か?いや、違う。誰だ……俺に似た気配、不愉快だ」


 彼は東大陸と北大陸の丁度中間に位置する島を目指し海を空を舞う戦闘機と同じ速度で潜航していた。ソイツによって引き起こされる波によって既に数隻の漁船が転覆していたが、被害などソイツには関係のないことだ。

 被害を受けた者はソイツを海に住まう怪物として説話として受け継いでいくかもしれぬが、ソイツは怪物と呼ばれるのを一番嫌っている。

 しかし、息継ぎを必要としないソイツは間違いなくソイツが目指す人間という生物とはかけ離れた存在であった。


「…………アンタか俺を呼んだのは?なに違う?まぁ、いい。それで何か用か」


 ソイツは脳内に響く雇い主の声に耳を傾ける。


「なぜそこに俺が行かなければいけない。俺には他にもやるべきことがあるんだ……アンタの優秀な部下を使えばいいじゃないか」


 しかし、ソイツの雇い主はソイツに良いことを伝えた。そのとき、明らかにソイツの表情も変わった。


「そうか……そうか……。にソイツは来るんだな?」


 神聖なる血を求め瞳の色を変えたソイツは彼の言う鉄塔を目指す。

 一方その頃、同じ場所を目指すソラは島の大通りに差し掛かったところであることに気が付く。

 誰もいないはずの街に息を潜め何かを待つ集団、気配だけでなく呼吸までもが鮮明に感じられる。それは決してその集団が隠すのを忘れたというわけではない、単純にソラの成長だ。

 気配はいくつだ?一つ、二つ、七つ……。

 全ての矢印が彼に向かって伸びている。


「さて、僕を狙うアンタらに質問だ……誰の命令でここへ来た?質問によっては能力を使用させてもらう」


 僕は誰に話しかけるでもなくただその『誰もいないはずの空間』に言葉を投げた。

 言葉に対して返事が返ってくれば現在感じている何となくの位置が確定させることはできる。

 まあ、返ってこなくても先に攻撃を仕掛けてくれればソレで助かる。


「誰から来るんだい?そこの給水塔の裏に居るアンタでもいい……場所はわかっている」


 僕はなぜか余裕を持っていた。

 なぜだろう……リッパーという男に会ってしまったからか、あの男以下の人間に恐怖を感じない。彼らの存在が凄くちっぽけに感じてしまっている。

 そのとき給水塔の裏に隠れる気配が動いたのを感じた。

 わかるんだ……気配の動き、次に何をするのかがよくわかる。アンタは能力者ではないようだが、銃口を向けるつもりなら容赦なく……。

 すると予想通りその気配が給水塔から体を現したと同時に四方八方に隠れた存在から一斉射撃が始まった。

 一人の少年、人間に対する銃弾の数ではない。

 未確認生物。人間にとって害とみなされたバケモノに対する攻撃だった。

 銃弾が地面に当たり抉られようと自分たちが攻撃を行っている対象がハチの巣になろうと木っ端みじんになろうと関係なく撃ち続ける。

 やがてその集団のボスらしき人間が右手を挙げると島中に轟いていた銃声がピタッと止んだ。


「目標の確認を行う……映像をミレイネに送れ」


 映像をミレイネに送るため上空へドローンが飛ばされ一人の男が土煙によって視界が塞がれる中、ソラの死体を確認しに向かう。

 彼の仲間はそれぞれの持ち場から離れることなく彼の向かう先、場合によっては彼ごと撃ち殺す覚悟でスコープを覗きこむ。

 スコープのレティクルが呼吸に合わせ上下左右に細かい揺れが生じる。死体を確認するまで勝負は終わっていない、彼らは今まで経験してきた戦闘の中で一番緊張していたであろう。

 ソラの死体を確認しに行った男はようやく銃弾によって抉られた地点に近づく。

 浅い穴であったが、軍用50口径によるものと考えれば少し大きすぎると言ったところだ。

 男は姿勢を低くその中心部に近づく。ほぼ手探り状態であったがやっと布らしき物に触れることができた。


「……ッ!?ヤツが居ない!」


 男の叫びと同時に全員が各々壁に背を向け背後からの攻撃を注意しながら戦闘態勢に戻る。

 彼らは土煙を発生させ過ぎたおかげで見えない敵と戦うこととなってしまった。

 全員が神経を張り巡らせている中で突如一人の隊員が無線を使用する。


『………………あーあー聞こ、えるか……?あーあー。あ、アンテナがバッチリ立った』


 ノイズによって判別しづらい声であったがそれは少年の声だった。


『給水塔の彼には少しの間、寝てもらっている。僕はアンタらの上司であろう男と違って無益な殺生はするつもりがないし、アンタらも命まではとったりはしない。だが、これは警告だ』


 上空からの映像を見るミレイネはその少年の姿をバッチリ捉えていた。と、いうよりも少年はドローンのカメラに向かって気絶する隊員を見せつけ彼に銃口を向けている様子を見せつけている。

 その警告はソレを見る彼女も対象であった。


『僕はアンタらと今、戦う気はない……戦いたくないというのが本音だ。だが、避難する島の住民と東大陸王女カレン・アルナート、そしてそのメイドに危害を加えるつもりなら話は別だ』


 ミレイネは手元に持っていた無線を起動させその少年と会話を試みる。


「アナタはウッド……でよろしいのですね」

『アンタはドローンで僕を見ている人?いい声ですね』

「それはどうも。しかし、戦いたくないというのはどういうことでしょうか?アナタは今、私の部隊によって包囲されていますけど彼らは能力者ではない。正直言ってアナタなら全員を殺して逃げることも可能なのになぜソレを実行しないのですか?その隊員を捕縛するときも能力は使用していなかった」

『言ったでしょ?アンタらの上司と違って無益な殺生は好まない。能力者でなければ能力を使って殺すこともなければ脅威と感じることもないからね』


 彼は戦いに慣れている。恐らく、正面から戦うよりもコソコソと卑怯な手を使ってでも数を減らす方が向いている人間だ。

 ミレイネはすぐにそう判断し傍で待機する別動隊指揮官に視線を送り次の作戦に移行させる。彼女はそれまでの時間を稼ぐためできるだけ少年との会話を続けるつもりだが、少年はそのことを理解していた。


『ちなみにアンタの位置も把握している…………貧乏ゆすりはやめた方がいいよ。動き始めた大きな塊が現れたところから大体の位置は割り出した……だが、これではフェアではないので僕も一つ手の内を明かすとするとアンタは僕の能力の範囲内だ』


 ミレイネが現在居る場所は空港からさほど離れていないホテルの一室で彼女から鉄塔が見えてはいるが、鉄塔の方から彼女の位置は全くと言っていいほど見えるものではない。

 しかし、彼は別動隊の動きを感じ取り彼女の位置をだいたいだが特定したというのは本当なのであろう。彼女の待機するホテルの床には緑が広がっていた。

 カインアベルやレオ様の情報通りなら少年の能力は植物を操るか、生命の成長を促進させる能力。

 ならばコレはいつでも自分をやれるという合図なのだろう。


「ふふ、アナタ面白いわね……敵じゃなければお気にいりとして可愛がってあげたのに残念だわ。せめてお名前くらいは教えて欲しい物だけどねぇ……」

『アンタがどんな顔だかは知らないが、美人だった場合お気に入りとしてぜひかわいがって欲しかった……しかし、不幸なことにアンタは敵だ。アンタが教えないモノを教えるつもりはないよ』

「私はミレイネよ」

『セナだ』


 英雄と同じ名を持つ少年……気に食わない。

 この世界の英雄はセナでもアルトでもないレオ様ただ一人だというのに。


「じゃあセナくん……取引しない?」

『嫌だね……これ以上会話していたら鉄塔に行く時間がなくなっちゃうよ』


 鉄塔……やはり彼は鉄塔を目指している。しかし、あそこに戦略的価値はないはずなのになぜ?


「そう、アナタは鉄塔を目指しているのね……しかし、なぜ鉄塔なの?あそこには何もないわよ……彼に唆されている可能性は疑わなかったのかしら?」

『アンタが送った人間が避難民に紛れどこまで僕らのことを確認していたのかは知らないが僕は僕の考えでここに来たんだよ。彼が裏切らなければ僕はお嬢さんと避難民の安全が確保されるまで彼に従うつもりだ』


 そう言うとこれ以上の話をするつもりのない英雄の名を名乗った少年は隊員から奪った拳銃でドローンを撃ち抜く。先程まで彼の姿が映っていた画面には砂嵐が吹き荒れていた。

 まったく生意気な小僧だこと……自分が他とは違う力を得たと思ったら大人になったと勘違いして立派な自己犠牲を行う。

 嫌な世界になったモノね。ホントに……。

 でも心配しなくていい……こんな世界もレオ様がきっと素晴らしい物に変えてくれる。誰も苦痛を感じない、誰も悲しまない平等な世界があの人なら作ることができる。


「ば、バケモノめ……テメェこのままで無事に脱出できると思うなよ」

「…………なんとでも言うがいい。僕はバケモノでもヒーローでもなんでもない我が儘なガキだよ。アンタよりソレはよく理解している」


 ソラは鉄塔に直進することをやめ、本気で彼らと戦っていた。

 今は戦う気はないと宣言するも未だ武器を捨て大人しく投降する気配を見せない彼らへ痺れを切らしまた一人捕縛し現在罵詈雑言、大人が子供に使うべきではない汚い言葉を吐かれている。

 どうやら僕を狙う集団は地元民で構成されていて、彼ら二人だけはこの島の兵士らしい。なぜモグラの味方をするかはわからないが、僕には関係がないことだ。


「テメェらの所為で俺の娘は死んだ!」

「知ったこっちゃない……アンタらと僕は初対面だ。初対面の子供に対して暴言を吐くのはやめて欲しいものだな」

「いや、お前もあのお嬢ちゃんも関係あるぞ!テメェら大陸の人間が俺達の土地をどれだけ踏み荒らしているか分かっているのか?俺の娘はお前と同じ大陸のクソッタレに連れて行かれた!」


 それは可哀想に。だが、僕は関わっていない……なぜ僕は彼に怒鳴られなければいけないんだ?

 考えれば考えるほどその男が喚き散らす恨み言に対し怒りが湧いてきてしまった。


「おいオッサン。アンタ一度自分の置かれている状況を理解した方がいい……なぜアンタがそう喚けるのか感謝する相手が居るんじゃないのか?」

「バケモノに感謝する馬鹿がどこにいる!」

「じゃあ、喚き散らす情けない大人に子供の僕が教育を行うとするよ……。道徳の授業だ」


 ソラは男を縛り上げる植物を徐々に首元まで伸ばし優しく巻き付ける。

 これは持論だが、彼の様な人間に対する教育は感情に任せ痛みや強い言葉によって行っては効果はない。

 彼に対する教育とは優しさと恐怖によって支配するモノだ。


「なあ、アンタは僕に拘束されているが他に何をされた?僕が娘を殺したのか?」

「なに、言ってやがる……」

「対話をしようとしているんじゃないか……なあ、教えてくれ僕はアンタの子供を殺したのか?」

「お前らが大陸の人間なら……あの野郎共と関係がある!同じ民族として罪を償え」

「だからソレが納得いかないんだよ。じゃあ、僕はアンタと同じこの島の英雄サマに囮を任されている……こんな危険な場所に僕を向かわせたんだ彼に対する怒りをこれからアンタとアンタの仲間にぶつけてもアンタは文句言うなよ」


 僕はまず彼の脇で気絶する男の腹部を蹴り上げる。衝撃と痛みによって男は声をあげるがすぐに蹲り痛みに体をうねらせ耐えていた。

 しかし、僕はやめるつもりはない。隠れている建物に突入しようと集結し始めた彼らの仲間へのけん制を兼ねて無線の電源をつけて彼ら全員にこの会話、そして彼のうめき声が聞こえるようにする。


「アンタは僕に何を求める。僕が謝ったらアンタらは大人しく立ち去ってくれるのか」

「やめろ……やめろ……やめてくれ」

「アンタらは同じ民族であれば同じ罪を背負って生きろというが、百年戦争に参加したであろうアンタの先祖が生きるために殺してきた人たちの子孫にアンタは何をした?僕の先祖はもしかしたら百年戦争で殺されているかもしれないが、アンタから謝罪も受けていない」


 手首を縛られ同じことを呟き続ける男に僕の主張が理解できるとは思わないがこれだけは言わせてほしかった。


「結局のところ当事者でなければ形だけでの反省することはできても償うことはできない……アンタが求めるべきはコレじゃないだろ」

「く、くそぉ!クソッタレ!クソッタレ!俺は娘を失うだけでなく仕返しもできない死んだほうがましだ!何が正解なんだ……俺はいったいどうすれば娘に顔を合わせることができる」

「死ぬなら勝手にしろ……」


 喚くことしかできない無力な大人を放置して、ソラはどこの誰の物かわからない部屋に残されていた亀裂が残るサングラスを拾いあげるとソレを装着する。

 ソレを付ければ暗闇と同じ色に染められたレンズによって外界を遮断できる気がした。だが、実際は残酷で彼が現実から目を逸らさせることは許されなかった。

 建物の扉は木製なのにやけに重たかった。

 建付けがどうとかそういうのが問題ではない、やらなければいけない退くことを許されていないその男たちが覚悟を持って僕と戦うつもりなのだ。それに対して僕ができるのは彼ら以上の覚悟を持って相手をするということだけ……。

 扉が全開になると眼前にはそれぞれが支給された人間相手なのか、はたまたバケモノを殺すための厳つい銃火器が全て僕の方へ向いていた。

 力を持たない彼らにとって僕はバケモノと変わらない。

 だからこそ恐れる。

 だからこそ憎むんだ。


「次は誰が相手になる。僕は誰だって構わない……だが、アンタらにも守るべき家族が居るなら武器を捨てて立ち去れ」

「お前が!お前が呼んだのだろ!あのバケモノどもを……俺は家族が食われた」


 どうやらそれぞれ主張が違う……恨み憎む相手が必要なんだ。でなければこの理不尽に対する怒りが、喪失感が埋められない。仇が居るから彼らは立つことができる。

 人間を作ったのが神様ってなら、なぜ神様は人間に感情を与えてしまったのだろうか。


「頼むよ小僧……俺達の為に死んでくれ」

「ミレイネって女に何を吹き込まれた……金か?それとも死んだ大切な家族を生き返らせてもらえるって約束でもしたのか?」

「馬鹿言え!俺達はお前があのバケモノを呼んであの植物を生み出したって聞いた!」

「俺は植物がお前の近くから出現するのを見たんだ!」


 半分当たっているが、半分違うな……植物の落下によって家族を失ったという人間がこの中に居るなら僕は誠心誠意を込めて謝罪をしよう。

 だが、バケモノに関しては僕ではない。

 ソレをどう理解してもらうか、いや理解はしてくれないだろう。彼らの表情には余裕がない。


「アンタらにも同じことを聞こう。僕に何をして欲しいんだ……謝罪か?それとも償いか?アンタらは僕が死ねば何を得られるんだ……この正解のない問題は何を行えば正解に近づけるって言うんだ教えてくれ」


 彼らは銃を向けたまま膠着してしまった。

 ただ動くモノは彼らの額を流れる汗と僕らを置いていつも通り動く世界だけだ。

 結局のところ誰も正解を知らず、答えを持っていない。要求はするが、自分たちの求める答えがない以上彼らに人を裁くことはできない。

 あるのは他人任せの妥協案……正解がないことだらけでつくづく嫌になってしまう。


「…………答えが出ないなら今すぐここから立ち去れ……いや、出ていたとしても今すぐ消えろ。命が惜しいなら早くそこの建物で気絶する二人連れて家族の所へ行け!」


 なんだ……震えが止まらない。

 リッパーがすぐそばに居るのか?この人たちの中に紛れている……いや、居ない?


「早く消えろって言っているんだ!」


 鉄塔の方から何かが高速で接近して来るのに気が付いた瞬間には遅かった。

 体が浮き上がる程の衝撃とそれによって生じた瓦礫が飛散する。察知することができなかった彼らの多くは腕を失ったり視力が奪われ地べたを這いずることしかできなかった。

 誰だ……誰なんだ。


「シャドー!そこに居る全員を守るんだ!」


 煙の中にぼんやりと浮かぶ人影が構えた刹那、再び瓦礫の破片や土砂が衝撃波と共に僕らを襲う。

 全員を殺そうとする勢いからリッパーとは違う第三勢力であると仮定するが、その力はまさにバケモノと同じかそれ以上であった。

 僕の呼びかけに応じたシャドーは負傷した彼らを全員建物の中へ引き摺りそこへ僕の植物が覆いかぶさる。衝撃から逃れることはできただろうが、先程の一撃目で既に死んだ者も居る。


「お前かだったか……」


 煙の中から現れたのは見たことのある包帯だらけのソイツであった。


「案内人か……次はどこに案内してくれるってんだ。あの世でもどこでも次はテメェごと連れて行ってやるよ」


 こいつのおかげで僕はこんなことに巻き込まれる羽目になった。全ての元凶はフルフェイスでも世界樹でもないコイツだ……!

 奪い取った拳銃をソイツに向けるが、ソイツは微動だにしなかった。


「俺はもう案内人でもない……俺はいったい誰なんだろうな」

「知ったこっちゃない。お前のおかげで僕は戦わなくちゃいけなくなった……これもお前の占い通りか?」

「さあな……ここから先は俺も知らない未知の領域。お前がどこまで生き残れるか知る者はただ一人、この世界を創りし絶対者だけだ」


 コイツも世界樹を知っている……ならばコイツも狙っているのか?

 ソイツは包帯を剥がしながら詠唱を開始する。

 一言一言呟くにつれて包帯に現れる見たことのない文字、古代文字と言われれば納得もいくが、どういうわけか僕はその文字を知っている。モモカさんの名刺に書かれていた文字とソレはソックリであった。


 我が信念、我が理想、我がしるべ、過去の英雄たちは我に道を示した。

 全ての魂は我に集約し、

 全ての生命は我を座標に押し上げ、

 我に進むべき道を見出す。

 絶対なる力に従う者たちを導くは我が使命、

 その身を我に授けよ。


「ソラ、お前はどちらだ……お前は反抗する者かそれとも従うのか」

「お前は僕に最後こう言ったじゃないか……『抗え』ってね」



 鉄塔の方角から雷に似た音が鳴り響いた。

 爆発だったかもしれない、衝撃は内臓を震わす程であったが幸い何か被害が出たとかそういうモノは無かった。悲鳴をあげたりパニックを起こす人もいたが今は落ち着きを取り戻している。


「お嬢様ソラさんは大丈夫でしょうか……様子を見に」

「ダメよ……あなたはここで彼を待つの」


 どこで彼女がソラと仲良くなったとか、どう思っているかなど気になることは沢山あるがクロエがここを離れると避難民を守れるのがアルトだけになってしまう。

 一人で何百人もの敵を引きつけるのと何百人を一人で守るとでは難易度が変わる。それに彼は負ける可能性があっても死ぬ気がしない。死ななければ負けではない。


「そうだよメイドさん……彼は自分の任務を全力で行っている。おかげで俺達は無事ここまで来れたんだ。彼に感謝だよ」


 アルトに慰められるが、彼女の目つきは未だ敵を見る目。アルトを敵として認識しているのがカレンにもよくわかった。


「ええ、そうですね……彼はアナタを信じましたし、アナタの力は不明ですが強いことは私も認めています。ですが、アナタがこの事件の首謀者と関わりがないという証拠がない限り私はアナタを完全には信頼できません……」

「まあ、それも自由だ。だが、信じて欲しいことが二つある……俺はこの島が大切でここに避難している彼らのことはもっと大切に思っている。そしてキミと同じくお姫様を守りたいと思っているのも本当だ」


 アルトはそう言うと建物を飛び出し玄関先で鉄塔とは真逆の方角を睨みつける。

 そこに誰が居たのだろうか、そこに居るのは人かそれとも。

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