第2話

目を覚ましたのは午後7時。

ん、寝すぎたかな。


そう思いながらリビングに向かい、晩ごはんを作ろうとしていると固定電話が私を呼ぶ。


それは、2年ぶりのフリーダイヤル以外でのコールだった。


私は5秒ほど迷いながらも、受話器を取る。


「も、もしもし?」


とっさにもしもしと言ったものの、それは引きつったような声だった。

当たり前だ。

ほとんど誰とも話さないのだから。


「ん?こんなカッスカスな声先輩なわけないッスね、ごめんなさい、間違い電話ッス!」


電話先の声は昔聞いたことあるものだった。


「ストップストップ!お前、結夏ゆいかか?」


「あ、センパイだったんすか。いかにも、あなたが愛する後輩の結夏ちゃんですよ。

おひさッス!」


「あ、愛してねーよ!」


久々に人と喋れた。


「なんでなんスか?よくあたしと遊んでくれたじゃないッスか?」


「それと愛は関係ないって。」


久々にこんな声出した。


「もー、ずっと寂しかったんスからね。ホント、あんなことまでしてずっと放置し続けて…どんだけ焦らしたかったんスか?」


「焦らしてねーよ!てか、あんなことって何だよ!なんもしてねーよ!」


久々に…本当に久々にこんなにも笑えた。


「もうホント、電話番号も教えてくれずに学校やめちゃって、どんだけ苦労したと思ってんスか?愛の言葉伝えたかったっスよ。」


「それは…悪かったよ。」


「いや、そこは突っ込んでください!」


「んで、なんの電話?」


「告白をしようと。」


……… 


「バスケのお誘いッス。高校のメンバーでバスケしようって、キャプテンが突然言い出して。センパイもどうっすか?」


久々に、もう記憶がないくらい久々に、嬉しくて嬉しくて涙が溢れた。


「行くよ。ボッコボコにするからね!」


「望むところッス!キャプテンに行っときますね!じゃ、また今度!」


結夏の受話器を置く音を聞き届けながら私も受話器を置いた。


嬉し涙は笑顔に変わる。


私は、一人じゃなかった。


場所も時間も聞いてなかったな。

どうやって電話番号知ったかとかも。


まあいい。


もう一回、また電話すればいいんだから。


電話を終え、自分の部屋に戻って、窓を開けてみる。


雨が上がったら、7年ぶりくらいに外を走ってみよう。


きっと、ろくに走れないだろうけど。


行こう、外の世界へ。


夏至の今日、弱まりだす雨音。


晴れやかになっていく心。


西の空には、沈みかかった太陽と虹がかかっていた。

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外の世界 友真也 @tomosinya

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