外の世界

友真也

第1話

月曜日。

雨音で目を覚ました私。


外を見る。

当然雨が降っている。

それも大雨だ。


雨を見ると、昔のことを思い出してしまう。

高3の夏のことを。


時計を見ると午後1時だが、焦る必要なんてない。


だって私は引きこもりなのだから。



昔は、天才って呼ばれてた。


中学でバスケットボールの全国大会にチームのエースとして出ていた私は、地元の強豪校に推薦で入学した。


能力的に負けていたつもりはない。

むしろ1、2を争うほどだったと自覚している。

それにバスケを心の底から好きだった。

バスケができて、幸せだった。


そんな幸せなんてすぐ終わるものだ。


ケガをした。

高3の頃、もう最後の大会に間に合わないほどの。


その頃、私は気づいた。

ここにいる理由がないと。


そうして、自分の存在価値がわからなくなった。


気づくべきではなかったと思うし、気づいても心のなかで気づかぬふりをするべきだったと今では思う。

でも、バスケで入った私がバスケをしないなんて、卑怯だと当時の私は思っていたのだろう。


仲間に何も言わず学校をやめた。


ちょうど、今日みたいな土砂降りの雨の日だった。



その帰り道で中学時代のバスケのメンバーであり、親友とたまたま出会った。


会いたくなかった。


自分が学校を辞めたなんて言い出しにくいし、相談なんて今更しても遅い。


でも彼女は、見透かしたかのように聞いてくる。


「なんかあったの?元気ないじゃん。」


涙がこぼれた。


その時既に両親を失っていた私は、きっとこの声が欲しかったのだろう。


泣きながら全部話した。

怪我も、学校をやめたことも、後悔も。


彼女はこう返した。

「運って何だと思う?」


意味がわからなかった。

何でそんな話をしているのか。

キョトンとした顔を私がしていると、彼女は答えだした。


「運の容量ってさ、一定って言う人がいるじゃん。

でもそれは違うと思うんだ。

私は運を変えるチャンスの数が一定だと思う。

沙菜はその分岐点に立っているんだと思うよ。」


「それって…どういうこと?」


「要は沙菜の選択次第でここから先、いくらでも変わるってこと。

もしかしたら、学校を辞めてよかったと思える日がいつか来るかもしれないよ。」


きっと無理矢理でも元気づけようとしてくれているのかな。

これ以上迷惑を掛けたくないし、明るく返事をしよう。

と当時の私は思った。


今思うと、おかしな冷静さだなと思う。


「そうなんだ。」


「だから元気出して!ポジティブに考えようよ!」


「そうだね!」


人の前では元気でいられた。


こういうのは空元気って言うのかな。

今振り返るとそう思う。

そして、私の選択は間違っていたとも。


一人の日々は、地獄だった。


人に相談することもできない。

親もいない。

つらい。


友人と笑顔で帰ったのは間違いだったかなぁと思う。

本当のことを言っていたら、また相談することもできたのかな。


あの日、準備体操をもっとしっかりとしていたら。


あんなにギリギリのボール、突っ込まなかったら。


隙間の時間を埋めてくれるのは、後悔ばかり。


外に行けたら、気分を変えられたらどんなによかっただろう。


同級生と会いたくない。

だから外に出たくない。

そんなことを思う自分が嫌い。


嫌なことばかりだった。


嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い


頭のダンボールは嫌いで満杯。


当然、外にも出なくなった。


漫画だったら王子様とか出てきて助けてくれるんだろうな。

そんな妄想に浸りながら日々を過ごしていった。



一人でいると不安になる。


自分は他者からどう思われているのか。

悪口を言われていたりしていないのか。

そもそも、自分のことを思ってくれる人がいるのか。


自分で自分のことが嫌いになって行くし、そもそも自分に存在価値があるのかとも思う。


バスケをしていた頃はそんな感覚なんてなかったのに。


午後2時頃、布団から出る。

言っていたとおり、もうこの家に家族などいない。

というか、この世に。

いたら運命が変わってたのかなとも思うが、いない。


冷蔵庫から冷凍のカルボナーラを取り出し、温める。

加熱する音と、雨の音がただ流れ続けているのみで、このままでは少し寂しいため、テレビをつけることにした。


午後2時。

テレビはニュースばかり。

4チャンネルをかけておくことにする。


チン!

加熱が終わった。


パスタは美味しい。

ただ、同時に現実も痛感する。

温かいけど、暖かくない。


これは、一人だからだろうか。

それとも、凍っていたものだからなのか。


あるいは、その両方なのか。


答えなんてわからないけど、私はパスタを食べ続けた。


食べ終わると、流しに皿を置いて自分の部屋に戻った。


両親が残してくれたこの一軒家だが、私一人で使うのにはどうも困る。

実際に使っているのは自分の部屋とリビングの2つくらい。

この家が広すぎるせいで孤独感が増しているような感覚もしていた。


自分の部屋に戻ると一応株で生計を立てているため、株を確認してから昼寝をすることにした。


幸い株は下がっていなかったが、寝過ごさないようにしないと。


そう思いながら、眠りについた。


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