第29話 再びのバイブ音

安堵のため息を一息いれる。すると――

 ブー ブー ブー ブー

 スマホが鳴り始めた。見ると『ステージ1 クリアー』と書かれてある。

「あ? なんだこれ」

「どうしたの?」

 桃子はそう言って俺を覗き込む。

「いや、なんかこんな文字が……」

 俺は桃子に画面を見せる。

「ステージって、なんのこと?」

「さあ、分からない」

 本当に分からない。これが何を意味しているのか全く。

 その時、ガタン!!! と何かが閉まるような音がする。

「何だ!?」

 吉野が驚く。もちろん俺も驚いた。

 すると、何かサイレンのような音が鳴り響いてきた。

「なんだなんだ!?」

 吉野はすっかり慌てふためいている。

 しかし、やがてサイレンの音は鳴り止んだ。鳴り止んだと同時に何か焦げたような匂いが立ちこめる。明らかに何かが焦げるような音だった。

 ブーブーブーブー 

 その時、スマホが鳴り響いた。しかし、今度はいつもと違かった。

 俺以外でも誰かのスマホがなっているのか、いつもよりも音が大きかった。

 すると、全員、何これ? というように自分のスマホを見始める。

もちろん、俺も自分のスマホを見る。覗いて見るとこんなことが書かれていた。

『ステージ2 見捨てゲーム』

「なんだよ……これ」

 あまりの言葉に俺が少し戸惑っていると、こんなメッセージが書かれてきた。

『このゲームは誰か一人必ず死にます。死なないとここから先に進めません』

「……は?」

 この中の誰かが死なないと、だと?

「ふざけたこと言ってんじゃねえ!!」

 吉野はスマホを投げ出した。

「おうおう、これは大変なことになったねぇ~」

 笹山は呑気な声をだしている。

「なによ、これ」

 奈津菜は顔をしかめる。

「これは……」

 桃子は青ざめている。

 この中で死人が出ないといけないのか? なら確実に一人が死ぬってことじゃねえか

 その時だった。

「そ、そこに誰かいるのか!?」

 奥から男の声が聞こえてきた。耳に入ってきた声は、若々しい声であった。

 俺たちが声の方向を見ると、奥から、金髪のストレートヘアーの男が現れた。

 年齢は俺とかと同じくらいの高校生に見える。

 昨日からいたのだろうか。制服らしきスーツを着ており、あしはなぜかGパンを履いていた。

 寒いのか、それとも俺たちの存在が怖いのか、男は足をガタガタ震わせていた。

「あ、あんたたち、何者だ?」

 男は震える足で俺たちの方に近付こうとする。しかし――

「おっとぉ、それはこっちの台詞だねぇ」

 そう言って笹山は銃を向けた。

「う、うわぁ!!!」

 男はその銃に思いっきりビビり、その場で尻もちをついた。尻もちをついた後もガタガタと震えてそのまま動けなくなっている。

「笹山さん、いきなり銃を抜くのはやり過ぎです!!」

 しかし、笹山は顔に何の反省の色がない。それどころか「そうかい? 怪しい奴には警戒心を持つことは基本だと思うけどね~」とこちらを訝しむようなことを言った。

「それに、さっきの指示では誰か死ねば進めるんだろ? そしたらこの場でこの男を殺すのもありなんじゃあないかな~?」

「それは……」

 そう言われて俺もほとんど同じことを思った。

 確かに、この場で知っている奴が死ぬより、全く知らない奴が死ぬ方がよっぽど楽だ。

 傷つかずに済むし、思い入れだって全くない。だから死んで良い、なんてことは思えなかった。ここれそんなことを思ったら、俺は俺を許せなくなってしまう。

 昔から殺人犯の息子だからと、レッテルを貼られて苦しんできた俺がこの男を殺したら俺は自分の苦しみを他人にそのまま味わらせることになってしまう。それは絶対にしない、と俺は誓ったのだ。自分自身に。

「笹山さん、貴方の意見を聞き入れることはできません。それをすることは俺の主義に反します」

 そう言うと、桃子が「写無くん……」と言って安堵の一息をつくのが見えた。

 笹山は「そうですかい」と言って銃をしまった。

 さて、まずは名前からだな。

「さて、あんたは一体誰なんだ。名前を名乗ってくれないか」

 俺がそう言ってもその男はぽかん、としたまま動かない。

 このままだと進まないのでまず、俺が名乗ることにした。

「俺の名前は糸田 写鳴。もしかして知っているんじゃないか?」

 すると、その男は目をまん丸にした。

「糸田 写鳴ってお前、あの事件の!!」

「そうか、思い出したか」

「ああ、両親が自殺したっていうあの事件の」

 そっちの方だったか……いや、ちょっと待て。その時、俺は糸田じゃなくて餓鬼道が苗字だったぞ、なんでその時のことから俺だと特定出来たんだ? 考えられることは一つしかない。

「なあ、あんた、もしかして俺の親戚か何かか?」

 すると、男は力なく頷いた。

「俺は、滑田 清(なめた せい)だ。さっき、弟が死んだって聞いて驚いていた所だ」

 弟……あ! そうか、思い出した。

 こいつが俺があの時、両親が自殺して他の家に引き取られそうになった時、滑田 おとこが石を投げてきたが、こいつはずっと俺を睨んでいた男だった。

「お前……あの時の」

 俺がそういうと清は、その場で正座をして頭を下げた。

「すまん!! この通りだ!!」

「……え?」

 突然の謝罪に俺は困惑する。

「俺を閉じ込めたのはあんただろ? すまん、この通りだ。許してくれないか。俺を許してここから出してくれ」

「待ってくれ、俺がやったんじゃない。それに俺も巻き込まれているんだ」

 そう言うと清は、顔を上げた。

「な、なんだって? じゃあ俺はまだここから出られないってことか?」

 清は顔を俯かせて暗い顔になった。

 その顔には絶望の二文字が見えた。

「ダメね、全然つながらない」

 見ると、奈津菜はスマホを手元に持っていた。

「なんだ? 奈津菜、どうしたんだ?」

 尋ねると、奈津菜は肩をすくめた。

「警察に連絡しようと思ったけどね、全然電波が届かないってなって電話することができないのよ」

「ああ~、それおじさんもさっきやったねぇ。だからそんなことはもうとっくの昔に確認済みなんだよねぇ」

 奈津菜の声に笹山は反応する。

「あっそ」

 どこか不満を抱いて奈津菜はそっぽを向く。

「それでぇ? どうする写鳴。この子は」

 笹山は銃を清に向けてながら、俺に聞く。一時も目を清から外さず見ているその目は出している声のような雰囲気は全く無かった。狙った獲物を逃がさないように睨み付ける肉食獣のような目をしている。

「とりあえず、銃をしまってくれないか。笹山さん」

「う~ん、そう言われたならねぇ~」

 笹山は銃を指でクルクル回した後、腰に銃を戻した。その一連の動きは西部劇に出てくるようなガンマンのような動きであった。

「それでぇ? どうするの?」

 笹山は再度俺に尋ねる。

「……とりあえず、清君も一緒に俺たちの……その……なんだ……仲間にいれよう」

「仲間、ねぇ」

 おい、突っ込むな。分かっている。こんなポット出の、しかも都合良く突然現れた奴を仲間にするなんて何考えているんだってこと。そして、今仲間に入れるって言ってもこの中で誰か死ななければならない状況に陥ってしまったってことも。

「今、この中で誰かが死なないとこの先進めなくなることを知ったら彼、どう思うだろうねえ」

「ええ!? この中で誰か死ななければならないって何ですか!? そんなの知りませんよ僕!? ま、まさか貴方たちは僕を騙すつもりなんですか!? いえ、騙すつもりなんでしょう!!」

 おい、だから言うなって、ほら面倒臭い状況になった。

「いや、そんなつもりは……」

「来るな!!」

 彼は何も武器は持っていないものの近くに落ちていた石を拾い、それを右手に大きく掲げていた。

「おやおや、武器のつもりかい? そんな武器、こっちに比べたらなんの役にも立たなくなるねぇ」

 笹山は腰の銃を手には取らないものの見せつける。

「待ってくれ二人とも、今はそういう場合じゃない。なんとかしてこの状況を打開しないと」

「待って」

 その時、奈津菜が俺の台詞を遮った。また、変なことでも言うんじゃないだろうな。

「どうした、奈津菜」

「どうして、犯人は今、こうして殺し合いをさせようとしているのかしら」

「それは……恐らく俺に個人的な恨みがあるから……」

「それにしたってここまで用意周到なのは不自然よ。まるで初めからここにたどり着くことを予想していたみたいに」

 たしかにそうだ。まるで俺がホームレスの襲撃から逃れて廃ビルに潜り込もうとするのをあらかじめ予定に組んでいたようだ。しかも、今、そこにいる清。犯人はまるで――

「なんかあんたに人殺しをさせたいみたいね」

 それを聞いて、桃子以外の全員が奈津菜を見る。

「俺に、人殺しをさせたい、だと」

「そうでしょ、もしここに来るなら途中にいたあいつらを無傷のままで切り抜けることはまず不可能、何かしらの暴力を振るわなければいけない。それによってあいつらが死ぬことだってあったはず。それに、ここにいる清、この中で殺すとならば一番、狙い目になりやすいのが清よ」

「ひいいいい!! あ、あんたたち、やっぱり俺を……」

 そこで清は思いっきり床に尻もちをついて、必死に後ずさりをしていく。

「待って、そういう結論に至ったわけじゃないから」

 奈津菜がそう言うと「ほぅ~? 是非、聞かせてもらいたいねぇ~」と笹山が無精ひげをなでながら試すように言う。

「その試す言い草が鼻につくのはおいといて、私の結論をまとめたわ」

 結論? どういうことだ?

「犯人はこの中にいる」

 奈津菜は名探偵が言うようなお決まりの台詞を言った。

「は、犯人がこの中にいる? だが、どうやって」

 俺の言うことを無視して奈津菜は、とゆっくり歩き始めた。

 コンクリートに靴が触れて乾いた音が俺たちの耳の中に入っていく。

「恐らく犯人の狙いは写鳴と二人でこの廃ビルに来て、その滑田 清を殺すことだった。だけど予想外にも人が多くいて今、大分予定と違うことに困っているはずよ。なんせ偶然、写鳴と会っている人がこんなにも多いんだから。まあ、もちろん私も含めて」

「うんうん、確かにそうだねぇ。わしと会うことも計算に入れているのは流石に怖いからねぇ」

 笹山は感心したように頷いている。奈津菜の推理はまだ続く。

「ええ、そして恐らくその偶然が実は一つだけ、必然だった出会いがあるってことよ」

「必然、だった?」

 俺は思い出す。

 桃子とあったのは集落の川の方で会った。

 笹山はたまたま俺に目をつけていた。

 そして奈津菜と吉野は偶然、バイクで会った。

 この中に必然だった出会いがあるってことか?

「そして、何よりここにいる清以外の全員に送られていることが犯人を特定できることとなる最大のヒントよ」

「最大の、ヒント?」

 俺の言葉に奈津菜は頷いた。

「ええ、そうよ。つまり犯人は清以外の全員のスマホに触る機会があった人物よ」

「あっ」

 それを聞いて俺はある人物の名前が頭の中に浮かんだ。

 そうだ、もし仕掛けをするならば、もし偶然を装って必然的に会うならこの人物しかいないではないか。俺はその人物の方へ首を向ける。奈津菜もゆっくり、ゆっくりとその人物の元に歩いて行くと少し離れているが目の前で止まった。

「私は今回の事件の犯人は貴方だと思うわ。吉野 三郎」

 俺の視線も吉野に向けられていた。

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