第28話 ギリギリ

そこでふと俺はあることに気付いた。

「そもそも、どうしてお前らはここに来たんだ?」

 そうだ、こいつらはなんでここにいるんだ? ここにいるだなんて知ってる人間はいないはずだから、おかしいと思った。

 だけど、元々、桃子だってほぼ偶然、俺を見つけたようなものだから、これは……いや、こいつらは明らかに俺の状況をしっている。そうじゃなければバイクでなんて来ないはずだ。

「あたしらはあのビラの存在を知ったのよ」

 ビラ、恐らく先ほどホームレスの男たちが持っていたもののことを言っているのだろう。

「それを二人で見ていたら、なんかここら辺でその男を見た。とかなんかこいつらみたいな奴らがいたからそれで近くにいるんじゃないかって思ったらあんたたちがいたってことよ」

 なるほど、そういうことか、ていやいやそうじゃないだろ。

「いや、そもそもなんでバイクで移動していたんだよ。それが気になるんだよ。こんなに気合いが入ったピンクとかそうそういないからさ」

「あんた、降ろされたいの?」

 やばい、なんか怒りの琴線に触れてしまったようだ。

 しかし「あいつに声をかけられたのよ、吉野の奴に」と答えた。

「吉野に?」

 吉野の奴、いつの間に奈津菜と知り合いになったんだ? 

 しかし「突然、話しかけるからびっくりしたわ」と奈津菜は言った。

「は!? あいつとは元々知り合いとかじゃなかったのか!?」

「ちょっ……いきなり大声で叫ばないでよ」

「ああ、悪い」

 妙に弱きな態度には弱いんだよなぁ。

「あの事件を見たのよ」

「あの事件?」

「……爆破された奴よ」

「ああ」

 そうか、俺の家は爆破されたんだった……くそ、思い出しちまった。被害にあった俺の……家族たちを。

「それを見てなんとなくあんたの映っていた家に行こうとしていたのよ。そしたら、急に手を引っ張られてなんだと思ったら吉野だったってわけ」

「それが吉野との出会いだったのか?」

「ええ、それで吉野がバイクとかで行った方が分かりやすいとか言い出すもんだから、あたしも持ち出したのよ」

 そうか、そういうことだったのか。でも――

「よくバイクで行こうと何て思ったな」

「それはあいつに聞いて、あたしは何も分からない状態だから」

「そっか、分かった」

 そうか、なんか色々とちぐはぐしているが、理解は出来た。

 その時だった。

 プス

 突然、何か針で何か刺すような音がした。

 何だ? と思って下を見ると、そこには細い矢がタイヤに刺さっていた。

「奈津菜!! タイヤに矢が!!」

「分かっている!!」

 まずい、あいつら考えやがった。

 俺らを殺すにはまずは足を封じる。バイクで言えばタイヤを壊して走れなくする。

 そうすることで俺たちの動きを封じて殺す算段をしてやがる。

「写無くん!! 後ろ!!」

 桃子の言う通り後ろを見ると吉野の奴も同じようにタイヤが矢に指されていた。

「吉野!!」

 叫びながら吉野の方を向くと、吉野は少し苦しそうな顔をするも笑顔だった。

「奈津菜ぁ!! もう少しだぁ!!」

「分かってる!!」

 もう少し? 何がだ? そう思って周りを見渡すとそこは廃ビル近くの風景に変わっていた。

 角を一つ曲がれば廃ビルが見える。

 二台のバイクは火花を散らしながら角を一つ曲がっていく。

 金属が引き裂かれるような音が鼓膜を揺らす。それでも俺は奈津菜の身体から腕を離さない。

 もう目の前に廃ビルが見える。

 すると、大きな衝撃音が聞こえ後ろにガタン!! と身体が傾いた。

 何が起こったか確かめるまでもなかった。後輪が外れたのだ。

「まずい……」 

 後ろの桃子の身体が危ない。

「しっかり捕まって!!」

 不安が過ぎった時、奈津菜が大声を上げた。俺たちは腕に力を入れる。

 すると、バイクが前のめりに進み始めた。

 なんと、後輪が外れたので奈津菜は身体を使って前に身を乗り出したのだ。

 普通はそんなことできるはずがない。正に火事場の馬鹿力であった。

 そのまま二台のバイクは進み続ける。しかし、その時なぜか廃ビルの扉が徐々に閉じ始めた。

 まさか、制限時間か!? だが構わない、このまま突っ込むしかない。

 しかし、俺たちのバイクは僅かに間に合わなさそうな距離に今いる。

 すると、スピードが更に上がった。

「聞いて、あたしの合図で二人とも飛んで」

 急に言われてもできないような芸当だ。だがやるしかない。

「分かった」

 俺も、そして桃子も頷いてその時を待つ。

「3」

 奈津菜が数え始める。廃ビルまでの距離はすこし遠い。

「2」

 廃ビルまであと少し。だが扉がしまりそうになる。

「1」

 やばい、もう間に合わない。

「0!! 飛んで!!!」

 瞬間、身体のバネを思いっきり使って俺は飛んだ。桃子も飛ぶと同時に俺から手を離した。

 扉はもう閉まる直前だ。それでも俺たちは突っ込んでいく。

 ガゴン!!!

 大きな音を立てて、扉は閉まった。俺たちは……

「なんとか成功したみたいね」

 地面に落ちた奈津菜がそういうと吉野が「ああ、そうだな」と肩で息をしながらそう言った。

「おうおう、痛かったね~」

 笹山は呑気な声を出している。そして――

「ふう、なんとか間に合ってよかったよぉ」

 最後の一人、桃子もへたりと地面に座ってそんなことを言っていた。

 結果的に言えば、俺たちは何とか廃ビルに入ることに成功した。

 

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