第27話 予期せぬ協力者
ブー ブー ブー ブー
ふと、携帯が鳴っていることに気付いた。
もしかして吉野の奴かと思ったが、よく聞くとそれはいつものメールの音では無かった。
まるで緊急メールのように不穏な音が鳴り響いていた。
嫌な予感がして開くと、そこには差出人不明のメールが届いていた。
そこには、元、俺が通っていた塾の廃ビルが写ってあり『ココニイケ』という指示がされていた。
「なんだよ、これ」
俺が走りながらそう言うと笹山が「ちょっと見せてくれねえかい?」と言ってきた。
少し嫌だったが、ここは頼るしか無いと思い俺は後ろ斜め左にいる笹山にスマホをあげた。
「ふんふむ、おうおうこりゃこっから五キロ近くあるねぇ。ここに行けって指示されているのかい?」
「はい、そうです」
「おうおうそりゃ大変なこって」
笹山はそう言うと俺にスマホを返した。その呑気な口調が少し甚だしかったがまあいい。
俺たちは急いでそこに向かって行く、が。その時、
「おっと!!」
笹山は突然、俺の頭を掴んで下に押した。
「なにすん……!!」
俺は反抗しようとしたが、その時、俺の上に太い矢が通り過ぎる。
「おお~、危なかったね~」
見ると、そこには先ほどの集落に行きそうな男がボウガンを持っていた。
ボウガンは装填するのに時間がかかる。男が持っているボウガンはもの凄くボロボロになっており、一本しかなかったのか、装填をし始めている。
「まずい、あの人だけじゃないよきっと!!」
俺たちは走りながら周りを見渡す。
すると周りに先ほどの集落にいたのか、大勢の男たちが俺たちの周りを遠くから囲んでいる。
全員、厚手のジャケットとに綿が出ている帽子をかぶっている。
そんな奴らが手に金属バットや物騒な武器を持ちながら襲いかかってくる。
「マジかよ……」
あまりの多さに思わず絶望しかけたその時。
ブー ブー ブー ブー
再びスマホが鳴り始めた。
「何だよ今度は……!!」
半分ふざけんなと思いながら見るとそこには30と書かれてあった。
おい……これ……
初めこれは三十秒という意味かと思いビビったが、動かない所を見ると三十分という意味らしい、と自分の中では解釈した。
「二人とも!! あっちへ行こう!!」
ふと、桃子の声で正気に戻る。
桃子が指差した方向を見るとそこは誰もいなく、ちょうど抜け道となっていた。
「行こう!!」
桃子がこちらを見た。俺と笹山は頷いて走り始めた。
しかし、男たちも俺たちがその方向へ行くことに気付いたのか、徐々にその抜け道を塞ぐような動きをしてきた。
その時だった。
抜け道だと思ってた方向から同じような格好をした男たちが大勢現れて、走ってくる。
そしてだんだん元々走っていた男たちも塞ぎ込み初めて来た。
幸いなことにそこにいる男たちは全員、飛び道具を持っていなかったので遠距離攻撃をすることは無い。
だが、数が多いことには変わらなかった。
やばい、どんどん数が多くなってくる。これじゃあ抜けることが出来なくなる。
そう思った時であった。
ブオオオオオン!!!
何か車が発進するような音がする。
そう思った時、いきなり目の前にバイクが二台現れてきた。
炎のように情熱的な赤と、可愛らしいものを彷彿させるようなピンクのバイクだった。
いや、今そんなことを考えている余裕はない。と思ったその時。
「乗れ!!」
「乗りなさい!!!」
同時に声がした。
その声は二つとも聞き覚えがある声であった。一人は親しみを、もう一人は何か嫌な予感を起こすような声であった。
二人はヘルメットを外した。
そこから現れた顔は――
「大丈夫か!! 写鳴!! 桃子!! それと、誰だこのおっさん!!」
「吉野!?」
吉野が顔を出していた。
「おっさん?」
吉野の言うことを聞いて、笹山の眉間に皺が寄っていく。
「おっさんとは聞き捨てならないねぇ、おじさん、こう見えて……」
「今そんなこと言っている場合じゃないでしょ!?」
もう一方のピンクのバイクからは奈津菜が顔を出していた。
「何してんの!? さっさと乗ってよ!!」
「おま……奈津菜!?」
奈津菜が怒ったような声を出していた。
どうしてそんなに怒った声を出しているのか分からなかったが、俺たちを助けに来ていることには変わらない、のか?
「助けてくれるのか!?」
「誰があんたを助けるなんて言ったのよ!! こうべを垂れて感謝しなさい!!」
何がしたいんだよこいつ。
「お前、時間がないぞ!! 速く乗せるんだ!!」
「命令するな!!」
吉野は俺たちに向かってこう言った。
「早く俺たちのバイクに乗ってくれ!! 時間がないぞ!!」
なんでここに、どうしてここが分かったのか、色々疑問があったが確かにそうだ、ここでごちゃごちゃ言っている場合じゃない。
俺は近くにあった奈津菜のバイクに乗った。
ついでに桃子も乗った。
「なんであんたがこっちに乗るの!? あとあんたも!!」
「つべこべ言うな!! さっさと行け!!」
「なっ……ムカつく!!!」
奈津菜は屈辱的な顔をしたかと思ったが、俺たちが乗るのを了承したのかヘルメットを被った。吉野の方も笹山を乗せた。
「走り出すぞ!!」
「命令すんなって言ってんでしょ!!」
その言葉を最後に二人は走り出した。
車輪が回り二台のバイクが進む。
俺たちはしっかり振り落とされないように操縦者にがっしりと掴む。
「ちょっと……そんなにがっしり掴まないでよ!!」
仕方ねえだろ、そうじゃなきゃ振り落とされちまうんだよ。
そんなことを思っていると俺たちは抜け道をあっという間に通り抜けていく。
抜け道にいた男たちは慌てたように身を引いていく。
「おらぁ!! そこのけそこのけ奈津菜様のお通りじゃあ!!」
奈津菜はそう言いながら通り抜けていく。ていうか、こいつめちゃくちゃノリノリだな。
「奈津菜!! お前あまり調子乗りすぎるなよ!!」
「分かってるっつうの!!」
そうは言ってもお前、結構テンション上がってねえか?
すると後ろから「写無くん、この人だれ?」と桃子が尋ねてきた。
「え? ああ、そうか、桃子は覚えていないか。こいつは……」
俺が紹介しようとした時だった。
「ちょっとあんた忘れたとは言わせないわ!! この私のことを!!!」
奈津菜が声を張り上げて騒ぐ。
「え? ごめん、ちょっと覚えていないかも」
「はぁ!? あんた、この私あんなことやっておいて忘れているの!?」
「えぇ!? 私、女の子と何したの!? あの……責任……とる?」
「何変なことを言っているのよ!!」
「ちょっと、お前は前を向いてくれ!!」
奈津菜はあまりにも興奮して、こっちを向いたので俺は注意をした。
「分かってるわよ!!」
そう言って再び前を見る。
男たちはバイクの速度に追いつくことができない。ほとんどの男が棒立ちしている。
しかし、ギラリとボウガンの殺人的な光りが見えた。。
「奈津菜後ろからボウガンが!!」
「分かっているってえの!!!」
奈津菜はそう言うと共に地面にタイヤの爪痕を残すように走り回り、バイクを回転させていく。ふと、後ろを見ると吉野も同じような走行をしており、ボウガンの狙いを定まらせない動きをしていた。
その時、ギラリとボウガンの殺人的な光りが放たれる。ボウガンを撃ったことを悟る。
「来るぞ!!」
「しっかり捕まってなさいよ!!」
すると、急にバイクは急にスピードを上げて爆速になった。
あっという間にボウガンの射程距離内を抜けていく。その証拠に後ろを向くと遙か向こうでボウガンの群れが通り過ぎていく。少し俺たちの斜め後ろには吉野たちがいる。
「ね? 見た? 大丈夫だったでしょ?」
奈津菜は誇らしげな声を出した。もちろんこれは素直にお礼を言うべきだと思い、俺は思いをこめて「ありがとう」と言った。
「……………………ハッ、キモ」
流石にその反応は傷つく。
「それで? あんたたちこれからどこに行ったらいいの? あの男たち、いつまで追ってくんのよ」
俺は思い出した。
「元塾があった廃ビルに行ってくれ!! このバイクならこっからそうそうかからないはずだ!!」
そうだ、俺たちは今タイムリミットが定められているんだ。三十分以内に元塾の廃ビルにいかないと、恐らく写真に写っている人物が全員死ぬとか、下手をすればもっと大きな被害をもたらしてしまうかもしれない。
ホームレスの人たちに、こんな賞金首みたいなポスターを見せた奴だ。
完全に容赦なく俺たちを殺すつもりであるのが分かる。
だから一刻も早く指示された場所に着かなければならない。
てっきり俺はまた奈津菜が『どうしてそこに行かなくちゃならないの!?』と言い出すかと思ったが、奈津菜は「分かった!!」と素直に応じた。
「吉野!! 元塾の廃ビルに急ぐわ!!」
「了解!!」
奈津菜の指示に吉野は元気よく返事をした。
そのままバイクたちは俺たちを乗せて爆走する。男たちを一掃してどんどん進んでいく。
ふと、風が吹いてくるのを感じた。いや、バイクの速さでこれは突風だ。
鳥肌が立つほどの冷気が全身に突進してくる。
こうして見ると全てがどうでもよくなってくる。
眼前に見えるのは目まぐるしく、点々と絵の具が塗られたように移り変わる景色。
その周りに男たちのおののく姿、それか襲おうとしてもその速さに追いつけない姿が景色の中に紛れていく。
全ての人を置き去りにして自分たちだけが進み続けている、そんな感覚に陥る。
しかし、そんな場合ではなかった。
俺たちは今、追われている。全ては俺のせいで。
俺を助けてくれた桃子、吉野、笹山、そしてなぜかは分からないが奈津菜も巻き込まれてしまっている。俺がいるせいで。
桃子には肯定されたが、やはり俺は俺のせいにせざるを得なかった。
事実、俺の存在が引き起こしているのだから。
だが、もう後ろは向かない。
誰一人として死なせずにこの困難を乗り越えてみせる!! そうすれば……俺は……
「何ぼうっとしてんの!?」
「え?」
突然の奈津菜の声で我に戻った。
見ると奈津菜が少しだけ後ろを向いて口をへの字に曲げていた。
ちゃんと前を向いて欲しいと思った時、奈津菜は前を向いた。
「あんた、分かってんの!?」
「な、何がだ?」
「あんたの元にこんなに人がいるのを」
ドキッと、心臓を突かれたような気がした。言うまでも無い。そんなこと、みんな俺が巻き込んで……
すると、奈津菜はいきなりため息をついた。
「どうやら分かっていないようね、ここにいる奴らは」
やめろ、言うな。分かっている。
「全員」
事実を突きつけるな。
「あんたに死んで欲しくないからいるのよ」
「……え?」
あまりにも予想外の答えに俺は間の抜けた声を出してしまった。
「はぁ? なにその反応。なに鳩が豆鉄砲くらったような声出しているの?」
「みんなが、俺の心配を?」
「……そうよ」
そうテンションが下がった答えを聞くと不安になるんだが
すると、奈津菜はヘルメットをガリガリ引っ掻いた。
「だから、肝心のあんたが、そんな電池切れの人形みたいにぼうっとしていると困るのよ!」
「……そうか……そうなのか……」
「そうよ」
そのまま俺は何を考えて良いのか分からなくなる。バイクの車輪の音がしばらく頭の中で鳴り続ける。
とんとん、と肩を叩かれたような気がした。
振り向くと桃子が、親指を立てて、ウィンクをした。
勇気をもらったような気がした。
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