第24話 被害者の関係性



「ん~、空気が悪いね~。物理的にも、衛星的にもね~」

 俺たちが出て行くと、向こうで笹山は周りをゆっくり見渡しているのが見える。

 衛星的に、というのはここら辺に漂う匂いだということが分かる。

 物理的には、笹山を周りの男たちは睨んでいる。まるで親の敵を見るかのように鋭い目をしており、殺気が際立っている。こういう意味で物理的なのだろうと思った。



「う~ん、こりゃあ怖いね~。親の敵を見るような目でみんな見てくるね~」

 そう言って小さく手を挙げていると、周りの男たちが近付いてくる。

「おやおや~、困ったねぇ、わしは写鳴くんと話をしたいんだけどね~」

 すると「おい、おっさん」とその中の一人が言った。

「お~、お~、おっさん~? まあ半分事実だね~」

 笹山は呑気の声を出す。それがムカつくのか男たちはますます近付いていく。

「おい、てめえ調子に乗ってんじゃ」

 しかし、そこでその男の言葉は止まった。

 なぜなら、顔面スレスレに拳が迫っていたからだ。

 男は、それに恐れ、その場にへたりと座り込む。




「下がりな、小僧ども」

 さっきまで呑気な声とは一変、サディスティックで深い、なんというかハードボイルドな声になっていた。声が一変したので俺は驚いたが、男たちも驚いたようで、少しずつ後ろに下がっていく。

「おじさん、ちょ~っと時間があんまり無いんでね、君たちと遊ぶ時間は無いのよ。だから、下がれ」

 その途端、男たちは慌てて後ずさりをしたり、一目散に逃げていった。

「ふぅ~ごめんねぇ、それなりに邪魔者が来たんでねぇ、それを追っ払っていた所だったんだよね~」 

 笹山の意外な一面を見たような気がする。こんな捉えどころがないように見える人だけど結構熱くなる人なんだな。いや、そもそも、こちらのことを調べていきなり単身で乗り込むくらいだ。結構感情的なのかもしれない。単身かどうかは分からないけど、一人じゃなかったらもう一人くらい近くにいても良いと思うが、そういう人がいないということはやっぱりこの人は一人で来たということか?



「あの……一人で来たんですか?」

 俺がそう言うと笹山は、ほぼ直角に首を捻った。

「ん~? それはどういうことかな~?」

「いえ、なんとなくこういう現場って最低でも二人くらい現場に来るかと思ったのですが、貴方一人というのが意外だったもので」

 そういうと笹山は無精ひげを撫で始める。

「う~ん、意外と~? いややっぱりそういう所は鋭いね~」

「いや、意外となのか、やっぱりなのかどっちなのよ」

 少し桃子はつっかかるような言い方をした。



「う~ん、まあ写鳴くんはそういう魅力があるってことなんだよね~、まあ、別に君は、て、おっとこれは言わぬが花だねぇ」

「余計な一言を言いますね」

 そう言って桃子はむくれる。

「すまないねぇ、ま~たわしは余計なことを口走る。署内で働いていた時も、そういうのでよくトラブルを起こしたようなもんだよ~うん」

「署内で働いていた時?」

 俺も引っかかったが俺より先に桃子が口を開いた。

「今は署内にいないんですか?」 

 そう言うと笹山は「う~ん、そうだね~。そういうことになるね~」となにやら歯切れの悪い返事をし始めた。現場に一人、そして署内にいない、このことから俺はある結論に至った。



「もしかして、貴方、今は警察官じゃないんですか?」」

「おぉ~」

 笹山は感心したように大きく頷いている。

「やっぱり鋭いね~」

「え!?」

 それに驚いたのは桃子だ。

「でも、さっき警察手帳を……」

「ん~? あれは偽物の警察手帳だよ~?」

「へあ!?」

「う~ん、まあよく見ると分かるんだけど、市販の手帳入れを改造して持ってた警察手帳の顔写真の部分だけを写して入れた物なんだよね~。まあ、素人には大体出すとビビってくれるからね~」

「警察手帳の部分を、て貴方まさか警察手帳を横領とかしたりしていないですよね」

「まさかまさか、そんなことはしないさ~」

 桃子は疑っているのか訝しげな目をしている。

「昔は警察官だったんだけどね~、まあこっちにも色々あって辞めちゃったんだよね~」




 そう言って笹山は懐かしむようにそっぽを向いた。 

 元警察官ということは今、現在は警察官じゃないからセーフなのか? 

「今は晴れて一般人~、警察のコスプレをしている人と変わらないよ~?」

 それでも元警察官とそこら辺でコスプレしている人とは違うだろ。

 まあ、どっちも法を犯しているのには変わらないけど

「気をつけることだねぇ、君たち、騙されやすそうだからね~」

 どこか人を小馬鹿にした態度が少し鼻につくなぁ。

 桃子の方もそう思っているのか、ガルルルル……と犬が威嚇するような態度をしている。




「何か、写鳴くんに変なことをしたら許さないからね!!」

 そう言うと桃子は俺に腕を回してきた。

 ちょっ……いきなりそういうことするのやめろ!? てか胸が肘に当たって……。

 そんな俺の気も知らないで桃子はギュッと抱きしめる。

「あ、そぉ、君たちそんな関係だったのねぇ」

 笹山がそう言った途端、桃子は恥ずかしくなったのか、俺から腕を離した。

 まあ、俺の腕には胸の柔らかさ、そして鼻孔は何かの花なのか良い匂いがくすぐっているわけだが。

「な、何言ってるんですか!? そ、そそそ、そういう関係じゃないですよ!?」

 すると笹山はひげを撫でながら「う~ん? そういう関係って、わしはただお前たちが仲が良い友だちだと思った訳なんだが、そういう関係って聞いてどんな勘違いをしたんだろうねぇ」と言った。



「なっ……!!」

 途端、桃子は顔を真っ赤にさせて俺から離れた。

 そして、笹山を睨みつける。

「おっとぉ、そんなに睨まれると、おじさん傷つくねぇ~」

 お前がやったことだろうが、なんてことはどうでも良い。

「それより、話を進めてください」

 俺の提案で話が始まろうとしていた。

「う~ん、そうだねぇ。まず、わしは君のことを知っているんだよねぇ、餓鬼道 写鳴くん」

 そうだ、この人、たしか俺の前の名前を聞いていた。そして元警官ということはやはり……。

「そうだよぉ、わしは君の事件を担当していた刑事だったんだよねぇ」



 やっぱりそうか。この人は俺の親の事件を担当していた刑事さんだ。

「まあ、あの事件。相手の弁護士がかなりへっぽこだったのが運がよかったねぇ。まあ後から結構、事実が飛び出してきたのもあれだったけど、まあ、どっちにしたって結果はほとんど変わらないから、酷い状態になると思ったから見逃したけど、今はその事件のことはどうでも良いんだよねぇ。それよりも、今回の事件、結構な事件じゃない?」

 今回の事件、これは俺の家が爆破されたことを表しているのだろう。

 桃子はごくり、と生唾を飲んで笹山を見ている。



「う~ん、あの事件、恐らく君とかなり親しい人がやってるんじゃあないかと、わしは睨んでいるんだがねぇ」

 笹山はなぜかそこで桃子に細い目を向ける。

「私だと言いたいんですか」

 桃子は真っ直ぐとした瞳で笹山を見る。

「う~ん、そう言いたいんだけどねぇ、現に写鳴くんを見つけたのも君一人だけだったんだし」

「まあ、たしかにそうですね」

「う~ん、こうも素直な態度をとられると、おじさん、弱いんだよねぇ~」

 こまったこまった、と心にも無さそうなことを言って肩をすくめる。

「まあ、君がいることは全て偶然で済むことだしね~、まあ偶然にしてはできすぎているとは思うけどねぇ」

 そう言われても桃子の真っ直ぐな目は変わらなかった。




 すると笹山は興味を無くしたように目をそらした。

「まあ、それよりもわしはこれが気になるわけよ」

 笹山は、被害者の写真が出してきた。

「この男に見覚えはあるよねぇ」

「はい、見覚えがあります」

 そう、この男は俺を殺人犯の息子だと言って石を投げてきた男だ。

 そういうことが何回も繰り返された時、桃子が俺を庇ってくれたからその男もその内やめた。



 本当に桃子には感謝しかない。

「この男の名前は、滑田 おとこ(なめた おとこ)、苗字については聞き覚えがあるんじゃないかい?」

 ああ、その通りだ。滑田、この苗字は俺の親戚の一人の名前だ。

 たしか、父方の従兄弟だったような気がする。

「う~ん、この滑田に糸田家、君の周りで君の親戚が死んだり行方不明になったりしている。これは偶然とは思えない。まるで狙ってやっているものだと、元警察官のわしは思ったねえ」

 流石としか言いようが無い。俺がさっきたどり着いた憶測にこの元刑事はもうたどり着いていたのだ。なら、この情報を渡す必要があるだろう。

「あの、これを見てください」

 俺は、写真の画像を撮りだした。

「ん~? これは何かなぁ?」

「犯人が俺に送ったものです。俺を知っている奴が俺を見つけたら、その中の誰かを殺すって脅してきたのです」

「あぁ、なるほどぉ。確かに滑田 おとこ もこの中にいるねぇ。てことは、やはり、犯人は君に親しい、君のことをよく知っている人物であることには間違いがないねぇ」



 やっぱりそうか、犯人は俺のことをよく知っている奴か。

 俺の二つの家族、そして親戚のことをある程度知っている人物、そうなってくるとある程度人物が定まってくる。

「まぁ、わしが知っているのは餓鬼道の時の写鳴くんだからねえ、糸田家にいる写鳴くんはよく知らないんだよねぇ」

「つまり、糸田家の情報提供をして欲しいということでよろしいでしょうか」

「うん、そういうことになるねぇ」

「分かりました、話します」

 俺は情報提供として今の糸田家のことについて話始めた。

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