第15話 ホームレス狩り

どれくらい走ったのだろうか、辺りには人一人も見当たらない。

 いや、無我夢中で走っているとは思ったが俺も馬鹿じゃない。それなりに、人の気配がなさそうな場所は選んだつもりだ。例えば、夜のだだっ広い公園とか。

 今は八時三十分、もうすっかり夜だ。そして花見だってもう終わっている。

 誰もいないはずだ。誰も。




「なあ、本当にやる気かよ」

「大丈夫、大丈夫だって」

 すぐにグン!! と首をまわしその声の方向を見る。そこは草むらだが、その草むらの向こうから明らかに人の気配を感じた。そして声の感じからは俺と同じくらいの年頃の男だと推測できる。



「たっくんすげえな、俺、そんなことするのなんて初めてだぜ?」

「さすがだよな、わっちゃんとかたっくんってホント最高の遊びを考えるよな」

 今時、この年頃で『たっくん』とか『わっちゃん』とかどうなんだ? ってそんなことはどうでもいい。とにかくバレないようにここから離れるんだ。いや、ていうかもうばれているのか? そんなことを考えているとその男子高校生たちは話を続け始めた。



「いいんだって、どうせあいつらが死んだってなんとも思わないわけだし」

 あいつら? 何のことだ?

 草むらの方を見ると、何か、カシュ、カシュ、と音がした。

 その音はまるで銃の弾を取り替えるような、そんな音であった。

 ……これは、明らかに俺のことではない、というよりあいつらって言ってから複数人が対象になっていることから俺じゃないことは確定だ。

 足元は幸い、整備されていない野原ではない。ちゃんと雑草は切られており、歩いても草をかきわける音が聞こえないものであった。

 それでも、無闇に歩き回るのは危険だ。



 だから、俺はそっと、その草むらの方に歩き出す。男子高校生たちに気付かれないように歩き出す。

 やっと、草むらに着くと、運が良いことに草の分け目から見える所であった。

 そこから見えてきたのは、何やらFPSゲームに出てくるようなガスマスクをつけている八人くらいの男子たちが見えてきた。恐らく、声と身体の様子から男性であることには間違いないようである。

 男子高校生たちは何やら銃をもっていた。一瞬本物の銃だと思ったが、何丁もその銃を持っているのをみて、銃は本物ではないと思った。

普通の高校生たちが用意できるようなほど銃は手に入れるようなことはできないはずだからだ。恐らく、何かエアガンとかそういった類いのものであると俺は思った。

俺の視線に、男子高校生たちは全く気付く様子もない。自分たちの楽しみに夢中である。



なんかふざけて銃を向けあいながらじゃれ合っている。

俺はそれを見てますます本物の銃ではないということを感じた。

よく見るとそいつらの真ん中には何か大きな、修学旅行に持っていくようなスポーツバッグが置いてある。中に何が入っているかは分からないがなんか、所々、でこぼこと突起がありすこし容量がオーバーするほど、たくさん物が入っていることが分かった。

しかし、こいつらは何をしようと思っているんだ。なんてことを思っていると……おい、そりゃやべえだろ。

そいつらが取りだした物を見て俺は戦慄が上がる。

金属バット、メリケンサック、変な形をしたナイフ、様々な武器を取り出したのである。



おいおい、今時の高校生はこんな物騒なもんを簡単に手に入れることが出来るのか? こりゃあ、もしかしたら銃も取引とかしているのかもしれねえな。

俺も今時の学生だが、こいつらの異常な持ち物を見ると、本当に同じ学生なのか疑いたくなる。そんなことを考えているとそいつらは談笑し始めた。

「なあ、今回の獲物はどうするよ」

「さあ? いつも通り適当で良いだろ」

「そうだな、別に俺らは悪いことしているわけじゃねえしな」

「そうそう、町のゴミ掃除、ゴミ掃除」

「だよな、どうせあいつらは存在するだけで危険なんだ。こっちが駆除してやろうぜ」

「俺たちのやっていることって、ボランティア。慈善活動みたいなもんだからな」

「だよなぁ、そろそろ誰か金でも払って欲しいぜ」

「それな、存在しちゃいけないゴミ屑を駆除していやっているんだもんな。どうせ死んだって誰も悲しまないような存在」

 その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが弾けそうになった。



 自然と拳が震えだしてしまう。ダメだ、抑えろ俺、耐えるんだ。ここでみつかったら全て終わりになっちまうかもしれねえ。沢山の人が死んでしまう。だから耐えろ俺。いますぐこいつらの顔面を潰したい感情を噛み殺すんだ。

 なんて思っても殺意なんてものはそう簡単に抑えられない。 

 深呼吸しようにも、そんなことをすればこいつらに気付かれてしまう。だからできない。

 震える拳をもう片方の手で抑える。爪をたてて血を滲ませて抑える。速くいけ、速くいけ。



「そんじゃま、行きますか。いつものゴミ掃除」



「「「「「「お~!!」」」」」」

 楽しそうに、まるで遠足に行く小学生のようにそいつらはぞろぞろ歩いて行く。

 やっと行ってくれたか。じゃあ俺は…………………。

 自然と俺の足は動いていた。その男子高校生の後を付けるように動いていた。

 幸いすぐ横が抜け道があったので、その抜け道で草むらから出て行き後をつけていく。

 遠くからつけているので、男子高校生たちの話は良く聞こえなかったが、時々、ふざけて仲間に銃や、電源をつけてないスタンガンを突きつけたり、下品な笑い声を上げている。



 それを見る度に聞いたりする度に心の中に何か鉛のように重いものを感じる。

 同時に何かイガイガするものも感じる。

 これが苛立ちなのか、怒りなのか、それとも殺意なのか俺には分からない。

 だが、今、眼前にいる男子高校生たちは俺にとって大変不快な存在だった。

 存在しちゃいけないゴミ、なんてどうしてお前たちに決められなければならないのであろうか。そんなものはこの世にいるはず無い。仮にいたとしても何やられても良いみたいな言い方をすることを俺は許さない。そんなことを考えていた時だ。




 そいつらはピタッと止まった。

 もしかして警察官かなにかに発見されたのか? ならやばいな。と思っていたがそれは違ったようだ。そいつらの一人が人差し指を立てて静かにするように周りに指示をする。

 どうやら、その存在しちゃいけないゴミ、と呼んだ所にたどりついたようだ。

 周りの奴らは笑いを堪えているのか、そいつと同じように人差し指を立てて違いに見合わしている。暗闇で、そしてガスマスクで見えなくても、そいつらが口をキュッと結んで笑いを堪えているのが分かる。



 そいつらの目線の先には、ある男がベンチで寝ていた。

 その男か何日も洗っていないのか、所々、傷ついていたり穴が空いているボロボロのジャケットを着ていた、ズボンもまるで砂場に飛び込んだように、青い部分が剥げていたり、穴が空いていたり、さらに言うと真ん中の股間部分が僅かに濡れている。遠くから見ても分かるほどに。そして顔は、ふきでものやシミや皺だらけで髭も顎から唇まで不衛生に蓄えられていた。

 そして髪も白髪が黒髪に対して多い。これだけ不健康そうなのに身体は太っている。そんな男がそいつらの目の前にいた。

 どこからどう見てもその男はホームレスだ。

 そいつらはクスクスと笑い始めると、大きなスポーツバックを静かに下ろした。

 そして次の瞬間――



 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!



 そいつらは雄叫びを上げて様々な武器を掲げ、ホームレスの男に向かっていった。

 ホームレスの男はその声に驚いたのか、ビクッと身体を震わせたかと思うと細めを開けた。

 目の前にはさまざまな武器を持ったそいつらが迫ってきている。

 男は慌てて立ち上がろうとするも、その場で転んでしまった。

「おい!! こいつ転んだぞ!!」

「マジかよ!! こりゃお笑いもんじゃねえか!!」

 そのまま男子高校生たちはホームレスの男に近付いていく。男は芋虫のようにのっそりのっそり逃げようとする。動きは遅いがその顔は必死だった。

 それを見て男子高校生はギャハハと、男を指差して笑い始める。

 一人が金属バットを振り下ろす。

 金属バットは男の身体には当たらないが地面に叩き下ろされ鋭い音が鳴り響く。

「ひぃいいいいいいい!!!」

 男はそれを聞き、ガタガタと身体を震わせてその場に頭を抑えて止まった。



「キャハハ、こいつやべえ!! これだけで動けなくなんのかよ!!」

 男子高校生たちの笑い声はが再び響き渡る。

 金属バットを振ったり、エアガンを地面に撃ちまくってその男に威嚇をする。

「なあ!! おっさん!! なんでお前!!! みたいなのが!! 生きてんだぁ!!?」

「恥ずかしくねえのかよ!!! こんな学生にめちゃくちゃにされてよぉ!!」

「お前、分かってんのか!? 俺たちに比べて、お前らはゴミだってことをよぉ!!」

「そうだ!! お前、今すぐ死ね!! ゴミ屑!!」

「お前は存在しちゃいけねえんだよ!!」

「なんでお前みたいなのが生きてんの? ねえ!!」

「お前なんか、生まれてきたこと事態が罪なんだよ!! 生きているだけでお前らは害悪生物なんだよ!!

 そいつらの言葉で、再び俺の何かがはじけ飛んだ。

 

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