第14話 爆発

そこから俺は前を向くようになった。

 受け答えする時もなるべく二人の顔を見るようにしていたし、今日、何があったかとかも少しずつだが話すようになった。そんな話をする内に二人がどんな性格をしているのか、少し分かったような気がした。

 例えば、幸子さんはなぜか歳の割りには恋バナが大好きで、宗一郎さんはコーヒーが大好きで無類のカフェイン中毒であることが分かった。少しずつだけど、おれは新しい家族のことを知っていった。今ではもう立派な家族の一員だ。俺は家族と心の底から楽しんで、話せるようになっていた。それは今も続いている。



 

「それで!? その子とは何かあったの!?」

 意気揚々と幸子さんは目を輝かせながら俺に詰め寄ってくる。

「いやいや、何もないよ」

 少しあしらうように言っても幸子さんの目は輝いたままである。

「ふ~ん?」

 もうその顔は興味津々の顔をしていた。

「まあでも、写鳴が楽しそうで何よりだ」

 宗一郎さんはコーヒーを飲んでいた。

「もう、貴方、そんなにカフェインを取っていたら寝れなくなりますよ」

 幸子さんが注意するも宗一郎さんは「ああ、そうだったね」と言いつつもコーヒーをつぎたしていた。それを見て幸子さんは、まったくもう、と呆れている。

 宗一郎さんはテレビをかける。そこには詐欺の事件が映し出されてあった。

「最近は物騒だな。携帯電話でも部屋でもなんでも盗聴器がしかけられるものだからな」




 盗聴器か、恐ろしいもんだな。なんて考えていた時だった。

「あ!! 卵を買うの忘れてた!!!」

幸子さんは、ハッとして両手で頬を挟んだ。

「あ~どうしましょう~、今夜のご飯の予定が崩れる~」

 困り果てたのか、その場でへたり込む姿は歳よりも幼く見えた。

「じゃあ、俺が今からコンビニで買ってくるよ」

「本当に!?」

 幸子さんが感激、と言うように目を潤ませる。大の大人がこんな反応をするのは少し戸惑うものがあったが、俺は「ああ。本当だよ」と言って近くのコンビニへ行く身支度を始めた。

「ありがとう~写鳴~」

 ふにゃふにゃの笑顔を見せて幸子さんは俺にお礼を言う。その後ろにはテレビを見てコーヒーを飲む宗一郎さんがいる。

「夜道にはきをつけるんだぞ」

 その優しい声は俺の鼓膜に温もりをもたらす。

「ああ、分かった」

 そう言って俺は家からコンビニに行くために出て行った。




 最近の天気っていうのは、なんていうかおかしなものを感じる。

 春だっていうのに、どこか肌寒い冷気を帯びた風が勢いよく吹いてくる。

 春一番とかそういうんじゃない、明らかに冬に吹くような風だ。

「さみぃ」

 思わず声が漏れる。ふと何かが振ってくるのを見た。初めは桜の花びらかと思っていたが違った。それは雪だった。

「おいおい、まじかよ。今四月だろ、雪が降るとかどういう天気してんだよ」

 ふと、なぜか桃子のことを思い出した。

 あいつだったらこんな天気でも大喜びするんだろうな。

 今にも目に浮かんでくる。両手を広げてこっちを見てはしゃいでいる姿が。

 そんなことを考えながら俺は近くのコンビニに着いた。

「え~と、たまごたまごっと」

 幸子さんが求めている卵を探していた時だ。



 ブー、ブー、ブー、ブー



 スマホのバイブ音がうるさく鳴っている。初めは無視しようかと思っていたが、携帯のバイブ音が全く鳴り止まない。

「うるせえな、なんだよ」

 変な詐欺メールにでも引っかかったのか? とか思いながら俺はスマホを取りだした。

 そこには……




「おいおい、なんだよこれ……」

 画面にかかれたその言葉の意味が俺には分からなかった。

 詐欺のメールを送られたなんてものじゃなかった。

『お前は返しきれない程の罪を犯した。この罪はお前の命一つでは精算できないほど重い。だから、これからお前の家族を殺す』

「……なんだよ、これ」

 差出人は不明、どこから来たのか全く分からない。いや、そもそもこれメールなのか?



 その時、耳をつんざく程の轟音が鳴り響いた。

 嫌な予感が身体全体を貫き始める。

 俺はスマホを持ったまま急いでコンビニを出て行った。

 その時、目に入ってきたのは炎だった。俺の家あたりに炎が舞い上がっている。

「なんだよ、それ……」

 その時、またスマホのバイブ音が鳴った。

『家に帰ろうとするな。帰る真似でもしたらお前の大事な者から殺していく。誰かにこのことを話しても殺していく』

「はっ、なんだよそれ、どう考えてもおかし……」

 馬鹿馬鹿しいと思おうとしたが、次の瞬間、画像が貼り付けられた。



 その画像は桃子と吉野の画像だった。いや、それ以外にも様々な生徒の写真が貼り付けられている。しかも、ほとんどがそっぽを向いており、どう考えても盗撮しているような写真であった。

『無関係の人々も巻き込みたくなかったらここから去ることだ。そして誰にも見つかるな』

「なんだよ……それ」

 そんなことを考えているとスマホから『10』という数字が出てきた。

 そこからどんどん『9……8……7……6……』とカウントダウンが始まった。

 くそっ、逃げるしかねえ!! 

 踵を返し、脳裏に糸田家の顔を重いかべる、幸子さんのお節介や子どものようにはしゃぐ顔、宗一郎さんの落ち着いた顔、そして――

 今はそんなことを考えている場合じゃねえ。急いでここから離れないと。




 ブー、ブー、ブー、ブー、




 そんなことを考えているとまたスマホからバイブ音がなった。

 かぶりつくようにスマホを見る。

『言い忘れていたが、お前を知っている者がお前を発見した時、さっきの写真に写っていた奴らも一人ずつ死んでいく。そして、スマホを捨てることも許さない。捨てたら全員死ぬことになる。警察官に見つかっても同じだ』

 何だよそれ、誰かに見つかったらそいつも死ぬって冗談じゃねえよ!! まるで俺が……。

(あっちいけよ!! 殺人犯の子ども!!)

(悪魔!!)

(お前なんて生まれなきゃ良かったんだ!!)

 ……そうだ、俺は生まれてからそうだった。他人に嫌われて、そして大切な人を傷つけてしまった。額に手を当ててもあの時の、桃子の感触は消えない。

 俺は無我夢中で走ったせいで町の真ん中にいることにすら気付かなかった。

 どうしてそれに気付いたか、それはビルの真ん中にある大きなテレビのモニターにあるニュースが映ったからだ。そこにはこう書かれていた。



『一家心中か!? 一軒家から起きた突然の火事』

 そして、死亡者に 糸田 幸子(48) 糸田 宗一郎(50)と書かれてあるのも見えた。



 スマホを落としそうになったが、それはしなかった。

 行方不明者の中に、糸田 写鳴(15)と俺の名前があったからだ。

 そして、ニュースはこう報道していた。

『急いで、行方不明の糸田 写鳴さんの行方の捜索をしている模様です』

 俺の行方を捜索している、ということは警察に発見される可能性がでてきた。

 そこで警察官なんかに見つかったら。このスマホに写っているたくさんの人々や桃子、そして吉野とかも危ない。俺が見つかることはこいつらの命も関わることになっている。

 その時、LINEが鳴り始めた。吉野からのものであった。

 当然、俺はそれを無視してスマホをポケットに入れて走り出す。

 誰もいない所に行こうと再び無我夢中で走り始める。

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