第13話 ふとした言葉で傷つくし ふとした言葉で救われる

俺の両親が自殺という形で死んだ後、俺を引き取ってくれるのはほとんどいなかった。

 父親も、母親も、意外と子宝に恵まれた世代に生まれたためか従兄弟はそれぞれ沢山いた。

 糸田含めて十人はいた。

 だけど、その従兄弟たちはほとんど反対した。息子や娘たちも誰も俺を受け入れてくれなかった。だが、唯一その中でこの糸田家だけが受け入れてくれた。

 でも、その頃の俺は聞いてしまっていた。

従兄弟たちが俺のことをどんな風に言っているのかを。

 あの子と関わると絶対ロクなことにならない。

 なんであの子ごと死ななかったのかしら。

 まるで厄災そのものだ。

 あのまま死んでしまえば良かったのに、悪魔の子

 



 大人たちはみなそう言っていた。そして子どもたちは――

 あ!! 悪魔だ悪魔!!

 



 なんてことを言って俺に石を投げつけたり、少し年長の子どもは俺のことを睨み付けていた。

 そんなことを聞いていたから、俺は糸田家が無理矢理引き取ったと思っていた。

「やあ、君が餓鬼道 写鳴くんかい?」

 宗一郎さんがそう言ってきた。

 しかし俺はその時、何の返事もせずにコクンと頷いた。元々俯いていたこともあり、頷いたかどうかも分からないものだった。

「これから、ここが貴方の家よ」

 幸子さんがそう言った。




 しかし、俺の目に家は映らなかった。

 ただただゴツゴツの石道と太陽の光に対比するかのように暗い自分の影が映るだけであった。

 そういう訳で俺は糸田家で暮らすこととなった。

 俺の態度は悪いものだった。

 ろくに挨拶はしないし、顔を見て話さない。話すとしたら短い受け答えくらいであった。

 例えば「うん」とか「はい」とか、そんな返事を小さくするだけだった。

 正直に言うとその時は糸田家が怖かった。

 今、宗一郎さんや幸子さんたちがどんな顔をしているのか分からなかった。

 貼り付いた笑顔で、偽りの笑顔で俺を見ているのかもしれない。

 口角を上げているのに目は全く笑っていない。そんな顔をしているのかもしれない。



 俺のことを疫病神だと思っているのかもしれない。

 本当は今すぐ死んで欲しいと思っているかも知れない。

 そんなことを思いながら生活をしていた。

 今、思えばその頃の俺は何か謝りながら生きてきた気がする。

 顔を見られたらその家族に迷惑がかかる。

 俺が生まれてきたせいでこの人たちに迷惑がかかる。

 そもそも俺はこの人たちに必要とされていない、愛されていない。

 様々な思いがぐちゃぐちゃにまざりあって、最終的には『ごめんなさい』と様々な方面に対して言っていたようなきがする。



 俺が糸田家の息子になったことは近所の人たちから不審な目で見られていた。

 少しだけ噂に聞くと、この時期に子どもがいるのは怪しすぎるということだった。

 近所のネットワークっていうのは本当に怖い。

 そんな些細なことから、俺が、あの殺人を犯して自殺した家族の息子なんじゃないかという結論に至りそうになっていた。そしてそれが真実だということがまた恐ろしいものであった。

 俺はそんな不審な目を向けられながら生活していた。

 勿論、俺は俯き、地面と睨めっこしている。その時だった。

「「大丈夫」」

 ぎゅっと二人の握る手の強さと温もりを感じた。  

 俺は初めて顔を上げた。

 幸子さんと宗一郎さんの顔は少し太陽の逆光で見えにくかったがたしかに笑っていた。



 その笑顔は後光で暗くても輝いて見えた。

 すると、二人は噂している人たちの方を向いた。

「「この子は、私たちの子どもです」」

 それを聞いて近所の人々は息を飲み俺たちとは違う方向を見た。

 まるで自分たちが悪いことをしたのがばれて、それを隠そうとする子どものように。

「行こう、写鳴」

 初めて宗一郎さんから名前を呼ばれた気がした。

 家族として認められた気がした。人の優しさってこういうものなのかと感じた。

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