第7話 過去2
「やめて写鳴!!」
気がつくと、ガキ大将の仲間たちは大声を上げて逃げていく。
涙どころか血を流していたように見える。
そして、俺の腕には、血だらけで顔面コブだらけの気絶したガキ大将がいた。
俺は怒り狂ったようであった。
手には血が乾いた血が所々についている。
そして服は返り血でいっぱいになっていた。
「桃子……ちゃん」
でもその時、俺が考えていたことは――
「そ、そうだ、ひ、ひたい、額の傷は」
俺がそう言うと桃子はそっと俺を抱きしめた。
「だいじょうぶ、だいじょうぶだから」
その身はブルブル震えていた。さっきまでガキ大将相手にはそんなそぶりなんてなかったのに今は恐怖しているようだった。
何に恐怖しているのか、それは俺だと思った。
俺はこの時、初めて恐ろしいことをしたのだと思った。そして桃子を身体だけではなく心まで傷つけてしまったのだ。
この時、俺はもう誰とも関わらない方が良い。俺と関わると、もしかしたら俺よりも相手が傷ついてしまうと思った。
その後、なんと警察沙汰になるほどの事件となってしまった。
てっきり学校に呼び出されるものだと思っていたので俺は少しだけ戸惑いそうになった。
でも、そんな時、桃子の怯えた姿を思い出すと、自然と感情が冷え切ってきた。
そのまま警察に事情聴取。
怒鳴られ、首をむんずと掴まれたり、顔を机にこすりつけられたり、ありとあらゆることをされても俺の表情が変わることは無かった。心にも何も響かなかった。
やがて、警察からの事情聴取は終わり家に帰ることになった。
両親は何も言わない。俺を叱りつけることも、どうしてそんなことをしたのか、全く効いてこない。ただ、申し訳なさそうな顔をしているだけだ。謝っているような顔をしているだけだ。
息子である、俺にさえ。
そして次の日、俺が教室に入るとクラスメイト全員が俺の方を見た。
その顔は『恐怖』の二文字で埋め尽くされていた。
桃子は別のクラスだったのでその時はいなかった。
依然は小馬鹿にしているような態度をしていた奴らがこうも態度を一変させたのは少し気分がよかった。わざと机を叩いてみようか、なんていたずらごころまで湧いてくる。
「写鳴くん!! おはよ!!」
その時、心臓が飛び上がりそうな感覚を覚えた。
教室のドアに桃子の姿が見えた。一瞬、呼びかけに応えそうになったが、額の包帯がそれを止めてくれた。
「あれ? もしかして聞こえてない? お~い」
桃子が手を振っているのが見える。だが、俺はそれを無視した。
頼む、去ってくれ。俺はもうこれ以上誰も傷ついて欲しく無いんだ。
俺が存在するばかりに、誰かが傷ついて欲しくないんだ。
「もう、無視しないでよ!!」
桃子が教室に入ろうとした瞬間、チャイムが鳴った。
それと同時に先生が入ってくる。
「夜比奈さん。教室に戻りなさい!!」
先生は他のクラスに侵入してきた桃子を叱りつけた。だけど俺は分かっていた。
本当はクラスに戻ることじゃなくて、俺と関わるのを止めなさい、と言っているのを。
俺を化け物を見るような目がそれを物語っていた。
「ちぇ、分かったよ」
桃子はそう言って自分のクラスに帰って行った。ほっと安心した。
これから、俺は桃子に近付かないようにしようと思っていた。いや、もう誰とも仲良くする気などなかった。でも、そう考える必要は無かった。
なぜなら、俺の両親が死んだのもこの日だったからだ。
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