第5話 屋上での会話
屋上、いつも通り空が晴れやかで少しだけ俺の気持ちを照らしてくれるような気がする。
けど、そんな気持ちが良くなる時間はすぐに終わる。
「お~い、またお前はここにいるのか?」
……はぁ、思わずため息をついちまった。
「お前、昨日も来ていたよな。吉野」
振り向くとそこには赤毛の短髪、身長が百八十センチを超すほど高身長の男子だいた。
彼は吉野 三郎(よしの さぶろう)、昨日、友だち、みたいになった奴だ。
俺は殺人犯の息子でやばい扱いされていたが、こいつは教師をぶん殴って酷い怪我を負わせた、いわゆる暴力沙汰で一回、少年院に行ったことがある奴だ。
でも話を聞くと、教師が吉野の両親のことを酷い言葉で馬鹿にした、ということで吉野がぶん殴ったらしい。どんなことを言われたのか聞くと、本当にここで言えないほど酷い言葉を言われていた。そんなことを言われたら俺だってぶん殴っている。まあ、それも俺が異常なためなのかもしれない。
まあ、お互いに問題児で、しかもこいつはめっぽうケンカが強い。
だから、こいつには関わっても傷つかないと思っている。
「おいおい、なんだよ写鳴。なんか不機嫌そうな顔してんじゃねえか」
「ああ、お前にも分かるか」
「わかるさ、お前の顔見りゃ不機嫌だって言っているのが分かる」
「そうか、そんなに不機嫌だったのか」
俺もまだまだ甘いな。こいつに簡単に感情を見極められるなんてな。もう少し無表情の修行が必要だなこりゃ。
「それで? 何があったんだよ」
「……昔の奴が来た」
「は? もしかして……女か?」
「ああ、良く分かったな」
「な、う、裏切り者!!」
「は?」
いきなり何言ってんだこいつは。
「お前にそんな昔の女がいるなんて思わなかったぞ!!」
昔の奴……女……昔の女……ああ、そういうことか。
「勘違いしているぞ、あいつは恋人じゃねえ。友だちだった奴だ」
「お前……友だちのつもりとか言って彼女を騙したのか!?」
「いや違うから、そういうんじゃないから、寧ろその理論で言ったら騙されたの俺だから」
そう、あいつは……桃子は俺のことをなんとも思っていない。
俺の方は……いや、これはいいか。
そう言うと吉野は「なあんだ、そういうことか。びっくりさせんなよ」と心底一安心したような顔をしていた。こいつ、本当に俺の不幸話すきだな。なんかムカついてくるぜ。
「おいおい、笑顔で青筋たてるのは止めてくれよ」
「ああ、そんな顔してたのか、俺」
俺は笑顔を崩さない。それが益々恐怖を際立たせているのか吉野は顔を引きつらせる。
「相変わらずお前のその顔、こええなおい」
そんなに怖がられるとそれはそれで何か傷つく。
すると、吉野はパッと顔を戻し「んで? なんでそんな顔してんだ?」と言った。
「そんな顔?」
「ああ、だってそうだろ。お前、昔の友だちに会ったってのにぜんっぜん嬉しそうな顔をしてねえからさ」
「別に、そんなわけじゃないけど」
そう言うと吉野は神妙な面持ちで俺の顔を覗き込んだ。
「お前、もしかして、その子に何かあったのか?」
「何もねえよ」
桃子と何かあった訳じゃない。そう、桃子とは何もなかった。ただ――
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