第4話 地獄堂 奈津菜

その後の授業なんてさっぱり聞いていない。いや、聞いていないていうより、ほとんど聞く価値がない。というのも、全部理解できるものであった。何の才能か分からないけど、俺はなんとなく暗記とか、計算とか、そういった類いのものはそんなに勉強しなくても出来る。

 それが何の役に立つのか分からないけどな。だから、授業のほとんどはぼ~っとして聞いている。



「い、糸田、お前、この問題、解いてみろ」

 あ? ああ、なんだ、この問題か。

 たまにいるんだ、俺の授業態度が気にいらないのか俺に問題をふっかけてくる教師がいる。

 まあ、俺には問題ないことだ。

 生気の無い足音をたてて俺は黒板に近付く、そして難無くそのまま黒板に計算式と答えを書いていく。

「せ、正解だ」

 悔しさを噛みつぶしたような、そんな顔をして俺を席へ戻るように言う。



 教室がざわざわとしだす。

 あいつ、頭良いんだよな。

 サイコパスなんじゃね? 殺人犯の息子だからな

 絶対異常だよな、あの問題を難無く解けるなんて

 頭良いのと頭おかしいのは違うからな

 そんな声が俺の鼓膜を揺らしてくる。聞こえているんだよ、馬鹿が。

 そんなことを考えながら授業を過ごしていく。

 これでも小学校の時よりかはマシだった。

 小学校の頃は教師も怯えた目を、人間じゃない化け物を見るような目をしていたからな。

 それに比べれば今は大分マシだ。

 そんなことを考えていると四時限目が終わるチャイムが鳴った。



 昼休みになった。

 俺は昨日と同じ場所に行こうと立ち上がろうとした。しかし――

「へえ、あんたも同じ学校だったんだ」

 突然、生意気そうな女の声が聞こえてきた。

 は? 誰だ? 俺に話しかける奴なんて、それにこの口ぶり、俺を知っている?

 俺はその声の方向を見ると、そこには、金髪で真ん中に分け目があり肩まで伸びたロングヘアー、なぜかその髪は肩で少し跳ねている、そして頭上にもピンとアホ毛がある髪の毛をしている。そして、目は相手をからかうような如何にもいじわるような目をしている女が俺に近付いていた。その女は髪をはらう。ジンジャーの匂いが俺の鼻をくすぐった。



 その声に周りの視線はその女に注がれていた。

「久しぶりじゃん、写鳴」

 は? 久しぶり? 誰だこの女は。こんな勝ち気な女は知らない。

 幼稚園の時? 小学生の時か? それとも中学……だめだ、思い出すことが出来ない。

 俺が過去を思い出そうとしているとその女は訝しげな顔をした。

「は? もしかしてあんた、まさかあたしのことを忘れたんじゃないでしょうね? あの時、あんたにあんなことされたこと、まだ許してないんだから」

 教室中が再びざわめいた。



 あんなことって何?

 え? もしかしてなんかいたずらされたの? 体に

 もしかして昔振られたとか

 かのじょ?

 その言葉は俺じゃなくてもその女の耳にも当然はいる声だった。

 そいつは一瞬、飛び出るほど目を大きくさせたかと思うと、キッと周りを睨み付けた。



「振られてねえし、彼女でもないわよ!!!!」

 その剣幕に周りの生徒はビクゥ!! と身を引いた。

 チッ

 そいつは思いっきり舌打ちをしてこちらの方を見た。

「まあいいわ、あたしの名前は地獄堂 奈津菜(じごくどう なつな)。どう? これで思い出したんじゃない?」

 地獄道……? じごくどう……、ああ、思い出した。

 周りもその苗字を聞いてざわめき始めている。

「お前、俺に泣かされた奴だよな」

 その瞬間、奈津菜の瞳孔が大きく開き、額に血管のような皺が寄る。



 ダンッ!!!



 大きく机を叩き、おれに顔を詰め寄る。目を鋭く睨んで眉間に皺が寄っていた。

「あたしは泣いていない」

「いや、明らかに泣いていただr」

「泣いてない!!」

 そんな言い争いをしていると教室中が再びざわめき出す。

 え? あの二人、どういう関係? 

 まさか、元カノとか?

 しかし、その声も奈津菜の一睨みで静まった。

 奈津菜は詰め寄るのを止め、静かに離れていく。

「まあ良いわ。あんた、相変わらずクラスに溶け込めないでいるのね」

「……逆にどうして俺がクラスに溶け込めると思うんだ」

「でた、そういう所、マジでキモいわ」

 奈津菜は何がおかしかったのかクスクス笑い始めた。




 しかし、ふと真顔になる。

「は? あんた何それ」

 奈津菜は俺のミサンガを指差した。

「別に、関係無いだろ」

「ミサンガ? きも、あんたが持っているとか」

 奈津菜は真顔のままそのミサンガをジッと見ている。

「ふぅん、どうせあの子でしょ」

「何がだよ」

「それあげたの」

「お前に関係ないだろ」

「その反応、やっぱりあの子があげたのね」

 舌打ちしたい気分だ。しつこい、一体、桃子があげた物だからって何だって言うのだ。




 何か問題があるのか、

 その時、俺は気付いた。このまま喋っているとこいつにも迷惑がかかってしまう。

 だから立ち上がった。

「ちょっと、どこに行くの!!」

「お前に知らせる必要があるのか」

 そう言うと、奈津菜は口をキュッとつぐむ。

「何よ……生意気……」

 そんな声が聞こえてきたが、それを無視して俺は目的地に向かった。

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