第23話 腹の中

2人の足音と1人の無音。

信用したわけじゃないが行って損はないはずだ。

まずいことになったら逃げられる、消せる。



『ちょっと話そう』

ショウコが起きる前日、セトにそう持ちかけられた。

『まず俺はタイガのスパイだ』

セトはすっかり定位置となったソファーに座り、俺は椅子を机を挟んで向かい側に移動させて座った。

『ただ完全にそっちサイドについているわけじゃない』

こいつも笑ってやがる。

『まず、タイガは卯の切符がほしい』

『ああ』

『お前としては切符はいつでもいいのかもしれないがそれはダメだ。タイガには渡すな』

『分かってる。あいつは確実に消す』

『俺は卯の出現する場所を知っている』

『…!?』

『取引しよう』

習っただろ。思い出せ。感情を出すな。

『条件は?』

『ルナを俺に渡すこと』

『何に使う気だ』

『なんにも』

『は?』

『これは俺の要求だ。寅じゃない、ルナがほしいんだ』

寅じゃないルナ?

『どっちみちそんな考えだとルナはお前らのもとから離れてく。その時タイガにつくよりはマシじゃないか?』

俺の何が間違ってる?ルナが離れる?タイガのもとなんかに行く?

『お前の手には卯の切符。俺にはルナ。タイガには何もなし』

『信用できない』

『お前が信用できるかできないかはどうでもいい。あと、俺は卯の切符をお前に渡したとタイガに知られれば消される。だからお前の方に寝返らせてもらう。ただ全面戦争になったら俺とルナは逃げる』

『何か、まだ、あるだろ』

『なんで?』

『お前のメリットが少なすぎる』

『お前には分かんねーよ』

セトは目をギロっと剥いた。

『やっぱり裏が…』

『裏があったていいだろ?寅の能力なんて所詮肉体強化だけだ。俺たちが兎の居場所を教える前に逃げようとしたら消せばいい』

セトの口元がさらにニヤける。

『相棒ならタイガの力も知ってるよな?』

こいつ、どこまで知ってるんだ。

『タイガ、俺、ルナ3人で束になったってお前には勝てないさ』

『タイガはどうやって境界を壊そうとしてるんだ…』

俺は何も知らないのに。

『知るかよ。それはお前の問題だ』

そう、これは俺が任された世界の問題。



人が増えてきた。

皆真っ直ぐに進んでいく。逝くべき場所に逝く。帰るべき場所に帰っていく。こちらに当たってもお構いなしだ。その目は何も映していない。


「すみませんっ」


「えっ?」


前を歩いていたセトとルナ、たくさんの人、ぶつかってきたボウズ。それらが一瞬にして消えた。


「死神よ、其方は何を求めてここにやってきた」


足音がしない、綿のような床。気が遠くなるほど遠い部屋。


浮いている卯。

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