第21.5話 薄っぺらな許し

カチッ。


ショウコさ…ショウコはあれから眠り続けている。

私は眠れていない。

電気を消して、横になって、目を閉じて。それからもう何時間経ったのだろう。

私は愛されていない。

呼吸が浅く、速くなる。枕、シーツ、掛け布団、自分の匂いに溺れる。

諦めたはずなのに。

コンコン。

「ルナ」

セトの声だ。セト、セトは私のことをどう思っているの。

「どうしたの?」

愛してる?

「入っていい?」

いつもと違う、弱気な声。

「いいよ」

暗くてよく見えないけど、扉が開いた音がした。もう布団畳んじゃおうか、寝なくても大丈夫なわけだし。

「えっ」

セトが布団の中に入ってきた。

不思議だ。いつも見上げていた顔が下にある。

頭、撫でたい。

「ぎゅってしていい?」

上目遣いで幼稚な言葉使い。

返事をする前に私はセトの匂いにすくわれた。

「ねぇ…お姫様抱っこして」


「なんでこんな軽々持ち上げられるわけ?重くない?」

「全然。もうちょい重くなれよ、生きてる感じがしない」

「生きてないし」

「そっか…ねぇ、死ぬの怖かった?消えるのは怖い?」

「分からない」

「俺が消えるのは?」

「怖い」

「俺もルナが消えるのは怖い。俺はその恐怖をなくしたいんだ」

「えっ…」


「それ何?」


「私この子のためにバカなことしちゃった…」

「うん」

「なんで…お姉ちゃんなのに…逃げちゃった…」

「ルナは強いよ」


「ねぇセト、セトの秘密も教えて。私がずっとあなたを覚えていられるように」


「セトは悪くない」

「もっと強く抱きしめて」



カチッ。



『電話はやっぱ厳しいわ』

『気づいてくれればメールでも問題ないわ。ていうか盗聴器切ったわね?

ネモはたぶん大丈夫よ。やってみないことには分からないけれど。卯狩り、頼んだわよ』

『了解。

どうやってルナの力を使うんだ?』

『傷つけたりしないから安心しなさい』


タイガもシオリも信用しない。

利用されるんじゃなくてしてやる。


今度こそ守れる、よな。


「…畜生」


なんだよ『守る』って。


利用するだけならあんな簡単だったのに。

なんも分かってない、薄っぺらな許しに、なんで俺は…。


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