二章 変化

第14話 遅すぎた怪物

本当に面倒な役回りだ。

「届いたんだね」

乙女は運命的な出会いが好き。だからこれが仕組まれたものだとしても、こんなセリフを吐く。さらに目の前にいるでかい怪物トラ。これ以上の吊り橋効果なんてそうそうないだろう。

まぁそもそも俺イケメンだし。

「戦え」

まぁしょうがない。

怪物トラが唸り声を上げている。という感覚に酔う。まぁ死んでるんだけどさ。

「うん!!」

そう言って女は走り出す。走って、…アッパーカット!!マジかよ。怪物トラの力なしでこんだけ動けるのか。そういう遺伝子なのか?知らんけど。

そんなことを遠巻きに見ながら考えていたら、女はすでに顔に蹴りを入れようとしていた。キックボクシングでもやってんのかよ。

怪物トラの顔面に蹴りがのめり込む…より先に怪物トラの尾が足に巻きついた。空中に放り出される。あ、やばいなこれ。助けるか。

「大丈夫?気を付けてよルナ」

抱っこ。顔が赤いな。これ思ったよりチョロいか?

「かなり弱ってきているな。さっきのアッパーが効いたんだ」

さらに赤くなったな。

「一緒に戦おう!!」


心拍数が上がる。節々が震える。

私は今、

寅に向かって走る。あなたと走る。お願い。届いて。

あなたに触れられるなら、世界なんて壊れてもいい。


『えっ?盗まれったって、誰に?』

殺し屋おっさんはジャポニカ学習帳に目を落とした。

『もっと立派な巻物だったんだけどな…。先輩は…。

先輩は俺と同じ永遠の罪だった。でも真面目に死神をしていた、ように俺は見えた。それがある日突然「この世界を変える」というメモを残して出て行った。呪文の書と…。さらに、先輩は子と未の能力を持っている。もしかしたら他にも持っているかもしれない。同時に2つの能力を使うことは出来ないが、仲間を集め、継承したとすれば…。

小さな日々はやがて大きくなり境界を壊す。

生と死の境がなくなる。

世界が壊れる。

それを阻止するために1つでも多く能力を手に入れ、戦いたい』

生と死の境がなくなればあの子に会える。

世界なんか壊れてもいいじゃないか。

『俺は自分の姿を変えられる辰の能力。ショウコは物の動きを止められる巳の能力を持っている。ルナには身体能力を極限まで高められる寅を持ってほしいんだ』

なぜそんなことをしなくちゃならないんだ。

『…ショウコさんは何で戦うんですか?』

『…!ああ、確かに私はこのまま大人しくしていれば天国にいける。むしろ正直下手には動きたくない。だけどさ、私誓ったんだよね。何があっても、どこに行っても守るって。そのためなら世界だって救うわよ』

ショウコさんの寂しげな笑顔が綺麗だった。自分が醜かった。

私はあの子を守るためにここに来たのに。


しっぽ、足、手、すり抜けていく。あなたが守ってくれる。寅の額に手があたる。

ああお願い。あなたに、届きたいの。そのためなら世界が壊れたって構わないほどに。

「ヘイジュツワレノナハルナ、ジュウニシノシンピ、ワレニウケツガレヨ」

寅の体が白い光で覆われる。そして光の玉となり、私の体に入っていく。

熱い。

こんな気持ちになれる日をずっと待っていた。

遅いよ。死んじゃったじゃん。

大好き。理由なんてない。

見ているだけでよかったのに、どうして現れるの。

私にこれだけの熱を受け止める器なんてないのに。


チョロいな。可愛いけど。

俺の役目は怪物をの仲間にすること。

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