第15話 選択肢は偽善と嵐

顔を洗って、服を着替える。扉を軽くノック。…あれ?反応がないな。まだ寝てるかね。うーん。まぁ女の子同士だしいいでしょ。扉を勢いよく開ける。

「ルナお嬢様、今日の朝食は『死神風、書類の山の片付け煮、私の愛を添えて。お好みでおっさんをふりかけて』でございます…っていないっ?!」

いつもはしっかりと畳まれている布団。それが今日は出しっ放しだった。

「ちょ、えぇえ、もしかして家出?家出なの?やだ、私みたいにならないで〜」

廊下を進んで、ノックせずにルナの時の10倍ぐらいの勢いで扉を開ける。

男だしいいでしょ!!

おっさんはいつもはまだスウェットで寝ている。それが今日はしっかりと着替えていた。ジャージだけど。

「ルナが家出しました!!!」

「あーうん。さっき音が聞こえたわ」

ああだからもう着替えていたのか…って違ーう!!

「なぜ追わない!!」

「いやだって扉に一番近いのはルナの部屋だし、なんかめっちゃ急いでたし、それに…」

「もういい!ぐだぐだ言うな!!水盆で今見るから、早く行って!!!」

水盆が置いてある部屋に向かう。部屋の入り口は、リビングの壁が一部が回転することで現れる。継ぎ目はほとんど見えない。だから教えられなかったら分からないだろう。ルナだって最初教えた時ものすごく驚いていた。

本当に素直で可愛い子だ。

「なぁショウコ…」

「何?!早くしてよ!!」

「この前の話…」


『ルナのことなんだけどさ』

ルナの寝息が聞こえるリビング。私はおっさんに話しかけた。

『ルナは父親を殺していないと思う』

『…なんで?』

ごくりと息を飲む。

『死神として仕事をするため、寅に対抗するための武器を選ぶ時、普通ならバットでしょ、凶器だから。呪いが一番溜まってて、自然と引き寄せられるはず。でもルナは拳を選んだ。小さいことだけど、矛盾が気持ち悪いの』

棚に置いてある縄を見つめる。

『そうだとしても、なぜルナは無実を訴えないんだ?』

『…分からない』

『俺はいいけど、ショウコが深入りしすぎるのはよくない』

『だけど、私、私はっ、ルナに幸せになってほしくって…』

『事実を突き止めることがルナの幸せなのかも分からない』

『…っ』

私はルナの気持ちなんて考えていなかった。事実を知りたい。ただそれだけだった。ずっと持っているロケットに何かあるのかもしれない…。


「もしそうだとしたら…」

『世界を救うと誓った』…ちっ。

「優しくしないと、タイガに付け入る隙を与えてしまう…」


「ただいま」

ルナの声が響くリビング。私とおっさんは振り返った。

「こんにちは、俺はセトです。よろしく」


ルナは嵐を連れて来た。



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