第7話 気の強い処女神

まっすぐこっちを見て少女ガキは言い放った。

『私、死神になりたい』

暗い。暗い。暗い。

『私、死神になりたい』

『俺、死神になりたい』

ま、みんなおんなじ様なもんか。違う奴もいるが。

「『お前ぇ、暗いぞぉ』」

独特な語尾を伸ばす喋り方。

まっすぐ俺のことを見てニカッと笑ったあなた。

あの時はなんで笑ってんだとイラッときたけど、今なら少し分かる気がする。

「じゃあ帰ろう」

いきなり喋り方を変えたせいで困惑してるっぽいところに追いボケをしてみる。

「どこにだよ」

やっぱりツッコミされんの慣れないな。

駅員室うちだよ」

とりあえず追いボケをしてみる。

寝転ぶガキ、諭す死神。あの時と同じ。

「はぁ?あとなにさっきっから笑ってんだよ!?」

面白いじゃん。ショウコには思わないけど。

「『俺って先輩なんだなぁと思うと面白いよぉ』」

しばらく困った顔をしていたが、どうやら途中で考えるのをやめたらしい。

首を気にしながら立ち上がる、そして先輩おれを睨みつけながら、

「チッ」

舌打ちをした。…先輩の寛大な心では許そう。

ブルルルル、ポケットの中でケイタイデンワが振動してる。

『お前こそ遅いんじゃこのクソじじぃ。道が変わっちまったじゃねぇか。速く左の道通れ。』

「舌打ちすんなこのクソガキが!!」

「情緒不安定かよ?!」


自身に暴行を加えた情緒不安定な見知らぬおっさんと知らない道を歩くことより不安なことはない。

「人手不足だから助かったわ〜」

不意に喋り出すの本当やめてほしい、

ビビる。

「…おっさん一人なの?」

思わず、声がヒクつき裏返ってしまう。

「ショウコっていう相棒がいるんだけど、あいつはもうすぐ終わる。

ま、そしたら2人じゃキツいし、3人目探すつもりだけど」

3人目か…。

「おっさんはいつ終わるの?」

私はまた独りになるのだろうか。

怖い。

独りになることが怖い。

「終わらない」

「えっ?」

「俺の罰は永遠だから」

こちらに背を向けたまま、つぶやいた言葉。それは独り言のようにも聞こえたし、私、もしくは別の誰かに伝えたいようにも聞こえた。

私の罰は50年。ショウコっていう人が何年なのかは知らないけど、終わりが来ている。

この灰色の世界でずっと…。消えたいと思わないのだろうか。

前を歩いていたおっさんが振り返る。おっさんは歩くとき足音がしない。

不気味だ。

「そういえば名前は?」

『さぁほら、空を見て、綺麗でしょう?…もし、悲しいこと、辛いことがあったら空を見なさい。あなたの生き方を教えてくれるから。』

生き方は分かった、だけど無理だった。諦めてしまった。

ここではもう分からない。

私の心はこの空と同じ。灰色。

誰か、照らして。

「ルナ」

もう綺麗な月いらない。

誰か私を激しく照らして。

独りにしないで。

「よろしくルナ。俺は殺し屋ヒットマン

真面目な顔で突拍子もないことを言う。

ありえない、バカじゃないの、殺し屋ヒットマンなんているわけないじゃない。

怖い。怖い。怖い。

でも、

「…じゃあやっぱり『おっさん』て呼ぶね」

肩がピクリとした気がしたけれど、

後ろからでは殺し屋ヒットマンの表情は分からなかった。


「おかえり」

殺し屋おっさんが慣れた手つきで灰色の扉を開けると、部屋の奥の方から女の人が出てきた。

「ただいま」

これがショウコさんか…

なんか思ってたより普通なんだよな、

殺し屋おっさんもただの中年男性おっさんだし。

でも、ショウコさんは若い。身長165センチくらいあるな、…あと、胸が大きい。

「こんにちわ」

「あっ、こんにちわっっ」

胸をジロジロ見てたら声をかけられたから焦った。

「なんだよ、急に恥ずかしがって、俺がおっさんならこいつはおばさんだろ?」

いや、バカなん?年の差何歳あるのよ。

「いや、ショウコさんは若いから」

「そうよ、ピッチピチの25歳よ」

ふふん、と胸を張って肩にかかった髪を払いのける。

無邪気で自然だがエロい。

これが大人の色気ってやつか!!

「あっ、歳といえばショウコ、お前のって何歳までなんだよ?!」

「20歳以下が少女で、私はお姉様で、50歳以上がおばさんだよ。男もしかり」

いきなり私の頭上で口喧嘩が始まる。身長157センチの私は完全に置いてきぼりだ。

「おいショウコ俺はまだ45歳だぞ…おじさん呼びされる覚えはない!!」

おっと聞き捨てならないな、ここは一つツッコんでおこう。

「ねぇショウコさん」

わざわざショウコさんが耳をこっちに向けてくれる。

こしょこしょ。

「あはは、いいわねそれ、ルナちゃん最高!もそう思わない?」

「???」

「やっぱりだよ」

「?…!!こんのクソガキが!!」

あはは。顔を真っ赤にしながら怒る殺し屋おっさんをショウコさんと笑いながら、私は思った。

なんで私の名前を知ってるの?ショウコさん。


気の強い処女神アルテミスが、今日、死神の仲間入りをした。

なんでこんな小さい子が死んでしまうの?

死ななければならなかったの?

そうやって悲しいと思いながら、可愛い子が仲間入りしたことを嬉しく思っている自分が怖い。

ていうかおっさんって45歳だったんだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る